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第2話 彼女の狩りと世界の日常

 アハトの攻撃に気づいた藍き血者アオキチシャ達が、防衛本能で襲いかかって来る。数は六匹のままだ。

 まず一匹が振り上げた右腕を避ける。その次に別の個体が、アハトの背後に回り噛みつこうとする喉元に向かって、振り向いて自動拳銃の弾丸を放つ。


 (今ので、解放できそう)


 アハトは、弾丸を受けた個体に向かって口を大きく開け噛みつきその血をすする。美味しい訳ではない、嬉しくもない。だが、肉体が欲するのと藍き血者を消滅させる唯一の方法が、これしかないのだ。

 体液を失って行き、身体が崩れ一匹消滅した。その事実だけを受け止め、アハトは次の行動に出る。怯んだ五匹に視線を向けると、二対のナイフを取り出し超スピードで駆けだし、近い場所にいた一匹を斬りつけ痛みに悶えるその個体へ噛みついた。

 ――捕食者とも呼ばれる人造吸血鬼達は、藍き血者の体液を取り入れると身体能力が一時的に向上する。

 故に……。


(だいぶ、動ける……!)


 残りの四匹が一斉に襲いかかって来る。だが、身体能力が向上した今のアハトには、容易にかわせる攻撃だった。飛び上がり、四匹に向かってワイヤーを放つ。からめとられた四匹の体液を、アハトは一匹づつすすっていく。

 六匹の藍き血者を屠ったアハトは、サーチ用AIに視線を向ける。


「終わったわ。今日はここまでかしら? まだ続けてもいいけれど?」


『アハト=ディソナンツ。血の許容量から判断して、本日はここまでとする事をします』


「了解よ。では、拠点に戻らせてもらうわ」


『承知致しました。アハト=ディソナンツの成果と帰還を報告し、ドッグへ戻ります』


 サーチ用AIは、それだけ告げて飛び去って行った。視線を向ける事無く、アハトは来た道を戻り、拠点である休息場を目指して動き出した。

 これが、彼女含めた人造吸血鬼達の日常。

 人である事を辞め、老いる事が無くなった彼らを、人々は畏怖の目で見る。同時に、英雄視もされていた。

 何故なら、彼ら以外に藍き血者を倒せる者達がいないからだ。

 ――異常が当たり前の世界で、これが正常であり日常だ。

 感染症の流行により、終焉が近づいていると誰もが認識しているこの世の中の。


(ワイヤーは便利ね。移動が楽だわ)


 アハト=ディソナンツは拠点を目指して荒廃した街を進む。

 彼女が人であった頃から、もうすでにこの世界はこうなっていた。

 富裕層は安全地帯と呼ばれる場所に住まい、一般市民はその周辺で恩恵を受け、貧民層が感染者となり……それを狩るため貧民層から人造吸血鬼が生まれる。

 その循環が、当たり前。

 普通の事であるのだ――。

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