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筆山高校に眠るシマウマ
MITA2580
ミステリー推理・本格
2024年10月10日
公開日
19,665文字
連載中
【学園×医療ミステリ】『シマウマ探し』とは頻度のきわめて少ない疾患を探し求めること。神谷悠真は高校生ながらベストセラーを連発する人気作家だが、統合失調症を患い引きこもり生活を続ける偏屈者でもあった。彼は持ち前の観察眼と洞察力、圧倒的な知識量を武器として、親友の石田晴人とともに周囲の大人たちが見逃した謎の病――<シマウマ>を暴いていく。

第一話

 神谷かみや悠真ゆうま殿


 前略


 お久しぶりね。例の一件以来かしら。

 突然の手紙に驚いたと思うわ。私の名前を覚えているといいのだけど。


 手紙で思い出話に興じるのもいいけれど、あまり余白もないのでさっさと本題に移ります。つい先日、友人からあなたについての醜聞を耳にしました。もちろん何についてのことかは分かっていると思うわ。正直、なぜあなたのような人格破綻者が公立高校の面接試験を通過することができたのか分からないけれど、退学処分を受けるまであなたが半年間通っていた学校の教師たちに私は深い同情を寄せたいと思います。


 さて、仮にもかつての許嫁いいなづけとして、私はあなたの知性を高く評価しています。際立った協調性の不足と並外れた権威への反抗心はこのさい、思春期を迎えた男子につきものの症状として見逃すとして、少なくともあなたはそれを埋め合わせるだけの観察眼と洞察力、それに何より文才を備えている。あなたがこのまま社会的に孤立し、生まれ持った才能を腐らせることは私の望むところではありません。


 そこで、話があります。私の家が南野みなみの市で私立高校を経営していることは知っているわよね。筆山ふでやま高校というのだけれど、あなたには是非その高校に入学してほしいの。山の上の静かなところにある高校です。辺鄙へんぴな場所は人によっては嫌がるけれど、あなたにとってはそうではないでしょう? 持病を癒やすのにも効果的だと思います。それに、他の子と同じように授業に出席しろともいいません。学期ごとに二回ある定期考査には参加して貰う必要があるけれど、通常の授業はすべて欠席しても進級や卒業ができるように取り計らいましょう。


 その代わりと言ってはなんだけど、頼みがあるの。筆山高校は私の高祖父の父、つまり私たちの五つ前の世代にできた高校で、今年で創立から二百年を迎えます。ところが先日ボヤ騒ぎが起きて、今はもう使われていない旧校舎の一部が燃えてしまった。幸いケガ人はいなかったけれど、学園史をまとめた書物が消失したので、それらを再編纂へんさんする必要が出てきたの。そこであなたの出番というわけ。授業への出席を免除する代わり、文芸作家として厚い社会的信望を集めているあなたへ、作業に手を貸して欲しい。


 双方にとって悪い話ではないと思うわ。あなたのお姉さんには、すでに話を通してあります。心が決まったら、以前渡した電話番号に連絡をください。


 追伸

 虹色の封筒に入れて送ったので驚いたかもしれないけど、こうでもしないとあなたはファンレターごとまとめてシュレッダーにかけてしまいそうだから。コーヒーのシミで手紙を汚さないでね。

                                    かしこ


                                   村上むらかみ綾乃あやの

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