結果的に彼女は不治の病にかかった。
なんなんだ。
まるで自分がそうなるのが知っていたみたいな態度だ。
「大丈夫」
そして病気にかかって以来、彼女は頻繁にその言葉を言うようになった。
彼女のいないところでオレは毎日泣いていた。
いや、彼女の前でもボロボロ泣いていた。辛いのは彼女のほうなのに。
おまけに、金賞取れって言ってたのに、もう取らなくていいなんて言い始めた。
嘘だろ……。
※※※
コンクールの日、花音は転校してきた友達、サヤカに支えられて客席に座っている。
現世の彼女の姿が前世の彼女と被って、オレはまた泣いた。怒られた。
だって、このコンクールの次の日、つまり明日手術するんだろ。
手術失敗したらと思うと気が気でない。
お前は大丈夫というが、オレは大丈夫じゃないぞ、花音。
舞台に進んで、椅子を調整しながら思う。
ふと、ホールで弾くのはかなり久しぶりだと思った。
良い音が響きそうだ。
――金賞を取らなくてもいい、と彼女は言った。
なら、やっぱりお前のためだけに、お前の好きな曲を弾くよ、花音。
違う題目を弾き始めたオレに会場がざわつく。
どうでもいい。
今回も彼女はオレの傍からいなくなってしまうのかもしれないなら、一緒にいられるその最後の瞬間まで彼女の好きな曲を聞かせたい。
いや、聞いて欲しい。
愛してるんだ、前世から。