その日、花音はオレを起こしにこなかった。
オレは遅刻しそうになって慌てて、家を飛び出た。
学校で、
「もう起こしに行くのやめたしお弁当も作らない」
と言われた。
なんで!?
そして昼休み、クラス委員長と飯を食う花音を見かけた。
いきなりの塩対応にオレは動揺した。
というか、オレから離れようとしてないか!?
――ひょっとして、甘えすぎた!?
このままでは見捨てられる。やばい。
オレは、授業中、ずっと考えた。
いやだ。
前世での思いもあるが、現世でもオレは花音が大好きなんだよ。
花音はなんだかんだオレに甘いから、ついつい甘えていた。
やりすぎた。
反省した。
失いたくない。
オレは次の日から怒涛(どとう)の勢いで逆に花音の面倒を見るようにした。
※※※
しかし。
なんだ、この状況は。
花音にオレから関わりにいくようになった途端、花音が危ない目に遭い始めた。
偶然にしても多すぎだろ。
なんで階段から突き落とされるの?
なんで屋上フェンスが倒れて落ちそうになるの?
なんで歩道歩いてるのに車にひかれそうになるわけ!?
なんなの!? おまえ、厄年なの!?
※※※
「……例えば、私の余命が短かったとしても、奏は私が死んだ後もちゃんとやってける?」
――距離を置きたいと言われたので、おれは嫌だったが、無理強いするのも駄目だと思い……
「本当に、距離をおきたい?」
とこっちから聞きなおしたら、明後日の方向からそんな事を言われる。
前世のやつれた彼女の姿がフラッシュバックする。
――なんで、そんなことを言うんだ。
「え、なんだよ。それ。おまえ病気かなんかなの?」
心が震える。
ただの例え話だとはぐらかす花音だったが、何かがおかしいと感じる。
そしてピアノを再開して金賞とれとか、言い始めた。
それが条件だというなら、死にものぐるいでやる。
――けれど、そんなことより。
まさか、今生も病気になったり……しないよな?
オレは、その日からピアノを猛練習するようになった。
嫌な予感を振り払うかのように。
だが、彼女はこの度も、不治の病にかかった。
……また前世と同じことを繰り返すのか?