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未完成の楽譜【1】

 幼い頃、この街へ引っ越すことになり、両親は今の家を建てた。


 家が出来上がって引っ越しその挨拶をしている最中に、向かいの家に同じ年の少女がいることを知った。


 音鳴花音(おとなりかのん)。


 可愛い子だな、とは思った。

 引っ越した日から一緒に遊ぶようになって、それがいつしか腐れ縁になっていくのだが。


 オレは両親が音楽家であり、オレもまたピアノ奏者を目指していた。

 花音は音楽のことはさっぱりなのに、彼女といるのはとても楽しかった。

 そしてオレが甘えられる存在。

 彼女はいつもいやな顔一つせずに、オレの我儘に付き合ってくれる。

 大好きだ。


 お礼はいつも彼女の好きな曲をひいていた。


 しかし、オレはその度にいつも謎の既視感を感じていた。


 ――あれ。

 前にもこんな事が。

 一瞬何かがフラッシュバックする。


 そんな事が幼い頃から何回かあった。



 そのフラッシュバックの原因がはっきりしたのは、オレが指の怪我をしてピアノを弾けなくなってしまった時だった。




 ――指を怪我したオレは落ち込んでいた。

 立ち直れないくらいに。

 部屋に引きこもって布団を被って真っ暗な部屋の中で、ただ生きているだけの動物になっていた。


 そんな日々が続く中、花音は毎日、部屋へきた。


「奏(かなた)。お邪魔するね」


 彼女がいる時だけ、部屋に明かりが灯る。

 彼女はそこにいる間、オレに何も語りかけず、ただ本を読んだり、宿題したりして時間がきたら家に帰る、という事を毎日繰り返していた。


 オレも特になにもアクションは起こさなかった。


 そんな日々が続いたある日。

 オレは花音がいる時にうたた寝をした。


 ――夢の中でオレは知らない街にいた。


 鏡を見ると、今の自分とは全然違う容姿。

 住んでいる家は、ヨーロッパにありそうな城のような屋敷。


 その家のオレの部屋にもピアノは置いてあった。


 ああ、わかった。

 これはオレの『前世』だ。



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