幼い頃、この街へ引っ越すことになり、両親は今の家を建てた。
家が出来上がって引っ越しその挨拶をしている最中に、向かいの家に同じ年の少女がいることを知った。
音鳴花音(おとなりかのん)。
可愛い子だな、とは思った。
引っ越した日から一緒に遊ぶようになって、それがいつしか腐れ縁になっていくのだが。
オレは両親が音楽家であり、オレもまたピアノ奏者を目指していた。
花音は音楽のことはさっぱりなのに、彼女といるのはとても楽しかった。
そしてオレが甘えられる存在。
彼女はいつもいやな顔一つせずに、オレの我儘に付き合ってくれる。
大好きだ。
お礼はいつも彼女の好きな曲をひいていた。
しかし、オレはその度にいつも謎の既視感を感じていた。
――あれ。
前にもこんな事が。
一瞬何かがフラッシュバックする。
そんな事が幼い頃から何回かあった。
そのフラッシュバックの原因がはっきりしたのは、オレが指の怪我をしてピアノを弾けなくなってしまった時だった。
――指を怪我したオレは落ち込んでいた。
立ち直れないくらいに。
部屋に引きこもって布団を被って真っ暗な部屋の中で、ただ生きているだけの動物になっていた。
そんな日々が続く中、花音は毎日、部屋へきた。
「奏(かなた)。お邪魔するね」
彼女がいる時だけ、部屋に明かりが灯る。
彼女はそこにいる間、オレに何も語りかけず、ただ本を読んだり、宿題したりして時間がきたら家に帰る、という事を毎日繰り返していた。
オレも特になにもアクションは起こさなかった。
そんな日々が続いたある日。
オレは花音がいる時にうたた寝をした。
――夢の中でオレは知らない街にいた。
鏡を見ると、今の自分とは全然違う容姿。
住んでいる家は、ヨーロッパにありそうな城のような屋敷。
その家のオレの部屋にもピアノは置いてあった。
ああ、わかった。
これはオレの『前世』だ。