放課後の帰り道。
「……」
奏が不貞腐れている。
あの後も、ずっと放課後まで清華とべったりで、奏が入り込む余地がなかったからだ。
その立場はてっきり私がなるものと思っていたのに、まさかこんな事になるとは。
清華は終礼後も、私の家にいくーといって聞かなかったが、ピアノの練習しなくていいの?って言ったら、思い出したかのように帰っていった。
まあ、転校初日とか不安だっただろうし、攻略情報使ったのは卑怯かな、とは思ったけど、友達になってくれてよかった。
「奏さん」
「……(むす)」
「今日は手は繋がないんですか」
「……(むす)」
「電車ごっこに興味がおありで?」
私は奏の制服の裾を掴んだ、
「ねえよ!!」
「女の子にヤキモチ妬いてるの?」
「べ、べつに」
執着がすごいな。
女の子でも駄目なのか。
私は奏の手をとった。
「ほら、帰って宿題やるよ」
「え、うち来る?」
顔がほころんだ。お前はチョロインか。
……でも、私が行くって言っただけでこんなに喜んでくれるとか思うと嬉しい。
「先に宿題やらないと、ピアノの練習はじめたら、忘れるでしょ」
「お、おう。そうだな」
その時。
キキーーーーーーッ!!!!
また車が突っ込んできた!
「え……」
「花音!!」
奏に抱きしめられて、二人で転がった。
「え、えええ……」
私はガタガタと震えた。
「またか……怪我、ないか?」
「奏は?」
「オレは大丈夫」
「……」
なんで?
広美が諦めてないから……か?
そうとしか思えない。
仕方ない、奏に一つお願いをしよう。
私は奏宅についてから、しばらくして切り出した。
「奏。変な話なんだけど」
「ん?」
「今度、広美が奏にちょっかいかけてきたら、傷つけるかもしれないけど、追い払って欲しい」
「……それって、妬いてるのか?」
う、嬉しそうな顔するな……。
「そういう訳ではないのだけど……彼女、実は私の親友じゃないし……」
「はい!? ちがうの!?」
「……? うん」
「なんだよ、早く言ってくれよ!? お前の友達だと思ってたからできるだけ丁寧に対応してたのに!」
なんと。
「彼女、奏狙いなんだよ。気が付かなかった? 私が一人でいる時は絶対、私のところへはこないんだよ」
そうか、奏が丁寧に対応するから、イケルって思い続けてるのか、広美も。
以前の銀髪の先輩も奏がきっぱりと拒絶しに行ったからか、あれ以来なにも音沙汰がないし、彼女のせいで危ない目にも合ってない。
ならば完全に奏にフラレてしまえば、死亡フラグは再来しないのでは。
そうか、そうだな。奏が振らないと彼女も次へ行けないだろうし……。
脈のない相手にすがりついていても、良い事はまずない。
奏に振ってもらうしかない。
また、さやかやドジっ娘は奏にそういう興味が今の所なさそうだ。
ドジっ娘もあれ以来、死亡イベント来ないし。
体育娘に関しては先生LOVEだから、まったく関わりがない。
「そういう事か。……わかった、明日からは塩対応する」
「……ありがとう…ん?」
奏がちょっと顔赤くしながら、両腕を広げた。
「……お願い聞くから、1回1ハグです」
なんじゃそりゃ!?
「あの、私達まだ付き合ってないんですけど」
「それは、それ。これは、これ」
し、仕方ないな!?
ハグして、サービスで頭を撫でた。
「ま…まいど」
要求した本人が、真っ赤になってそっぽ向き、そう言った……。
色気がない!!! 可愛いけどな!
その後、奏が、広美に塩対応をしたところ、広美は別の男子の所へ行き始めた。
そして、それ以降、交通事故は起こらなかった。
回数的に偶然だったかもしれないけど、広美もその男の子とは良い感じに見えたので、これで良かったのかもしれない。
※※※
そして昼休みは、4人で食べるようになっていった。
奏はどうも、二人で食べたかったみたいだったので、その代わり奏とは放課後はずっと一緒に宿題するように埋め合わせした。
宿題をしていると、たまに奏がピッタリくっついてくる。
「……はいはい、まだ付き合ってませんよー。幼馴染の距離たもってくださーい」
「……むう」
実際、金賞とったら彼女として付き合うって言ったってことは、距離を縮める意志がある、ということを伝えたようなものだから、くっつきたくなるのもわかるけれども。
そこはそれ。
これは18禁ゲームだしな。
厳しくしておかないと、簡単に一線を超えてきそうだ。
さやかとは仲良くなったし、治療へのフラグは多分大丈夫とは思うけれど……万が一の手術失敗とかもあるかもしれない。
そのためにもピアノは絶対再開させておく。
できたら金賞取って自信を持ってほしい。
そしたらさやかとフラグ立っちゃうかもしれないけど。
それでも……だ。
◆
それからしばらくは、楽しい日々が続き始めた。
気がついたら、吉崎くんまで仲間に入っていた。
吉崎くんには、夏に入る前に、交際の申し込みをされたが、断った。
吉崎くんも、なんとなくわかってたみたいだけど、気持ちに区切りをつけたくて、と言っていた。
奏とのことで、彼のところへ行こうとしてた。
たった一日だったけど期待をさせたと思う。
それに、心の中だけとはいえ、当て馬当て馬言ってたし。
とても失礼だった。ごめんね。
しかし。
夏休みは、皆で遊園地いったり、夏祭りに行ったりもしてたら、いつのまにか吉崎くんが後輩ちゃんの世話係みたいになっていた。
最近あやしい、あの二人。
――そして。
夏休みの終わり頃、私はたまに目眩がするようになった。
……来たか。
ゲームでもたしか、病の予兆は合ったはず。
確か脳神経の一部が駄目になっていく病気だったっけ。
ただ、そうなるのは高校二年生だったはずなんだけど……展開早いよ。
さやかが予定外に転校してきて、役者がそろったから?
私の心の準備はどうしてくれる。
もうちょっと青春させてほしい。
まじで死ぬかもしれないんだから。
確実に奏や家族と過ごす時間はもうちょっとくれても良いんじゃないのかって思いますよ、神様。
でも、前世を思い出してよかった。
前世を思い出したのは、きっと私自身が生きたいと思っているからだと、最近は思うようになった。
その方法を引き寄せる知識を手に入れる事に成功したのだと。
だから、きっと大丈夫、と私は自分で自分に言い聞かせるのだった。