次の日の昼休み。
私と奏は今日も一緒に昼食をとる。
今日、奏が作ってきた弁当も『あれ、私が作ったっけ』と思うくらい、良く似た出来栄えだ。……すごい。
「指大丈夫?」
「しつこいな、まだ言うか」
「だって、フォーク使ってる。少し痛むんじゃないの?」
「……たまたま、フォーク使いたい気分なだけ!」
「むう。まあ私が心配したところで治るものじゃないしね。ごめん、もう言わない。それにしてもその怪我した指でよく2人分お弁当作ったね」
「だから、怪我ってほどのものじゃないって。これくらい余裕……あ、おまえの弁当メニューが簡単だとかそういう意味じゃないからな!」
「そんなこと気にしてないよ!?」
ちょっと騒がしかったかもしれない。
別のグループがちょっとこっちを見た。恥ずかしい。
今日は屋上で食べたあと、空を眺めながら二人で喋ってたら、そこへあの茶髪ドジっ娘がやってきた。
えーっと、確か……名前は宮坂 茉莉(みやさか まり)だった気がする。
うろ覚え。
「お、おねーさま!!」
私を見つけてちょっと頬を赤らめて寄ってくる。
可愛い。
しかし嫌な予感しかしないのは何故……と思った瞬間、
「あわわわわわー!!!」
「わ! 大丈夫!?」
やばい、やっぱ転ぶ。
奏が面倒みたくないって言ってたし、私が受け止め……えっ。
ドジっ娘の転び方が前のめりにダッシュする勢いで、私はそのまま鳩尾に頭突きをくらい、そのままフェンスに激突した!
「ぐほっ……!?」
「なっ!?」
正ヒロインにこんな役割やらせんな!?
奏もドン引きした表情で口をあんぐりした。
「あわわわ!! おねえさまごめんなさ……ああっ」
――私がぶつかったフェンスが、グラリ、と揺れる。
私は後ろ向きにそのまま、屋上から落ち――
「危ない!!」
奏が引き寄せてくれた。
私は私で奏にしがみついた。
こわ! こわ! こわあああああああ!!!
階下でフェンスが、轟音を立てて落ちたのが聞こえた。
――そうだ。
これも、死亡フラグの一種だ。
助かったのでフラグは折れたのだろうけど。
ゲームでは、フェンスの外にヒロインが二人とも身体が投げ出される。
奏が二人共助けようとするが、ドジっ娘しか助けられないっていう……。
そして、二人で罪の意識を抱えてお互いを支えあって……みたいな。
人の不幸を幸せの種にしないで!?
私をなんだと思って……。
ドジっ娘が私に抱きついてごめんなさいごめんなさいと泣いている。
「う、受け止めようとしたのは私だし、あなたも悪気があったわけじゃないから……」
奏が眉間にシワをよせたけど、なんとか優しい声をかけて、その場を後にする。
震えが止まらなくてうまく歩けない。
奏が支えてくれてるからなんとか歩けてる。
昨日のことといい……これは、死亡フラグが本気出してきたな……。
――チャイムがなる。
階段の踊り場で。
「か、奏……私、今日、早退する、ね……」
私はもう駄目だ……(心折)
自宅の布団に潜り込んで震えたい。
「オレも帰る。二人で帰ろう」
「いや、でも」
さすがに一人になりたい。
「一人になりたい? でも帰り道が心配だ。二度あることは…って言うだろ」
「フラグ立てないで……」
「あ、悪い…。だけどオレも落ち着かないから、授業受けても多分頭はいらないと思うし」
あ…そうか、私、自分の事だけ考えてた。
昨日、そして今日。立て続けに2つも危ないことが起きたのだ。
奏だってそりゃ気分が落ち込むだろう。
「それに、オレの女難の相を、かわりに受けさせてるよな……」
奏がしょんぼりした。
うーん……仕方ない。
「そんなの、ちがうよ。奏のせいじゃない。……わかったよ、一緒に帰ろう」
私達は二人で早退した。