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■8■デスゲームはやめてください。


 放課後、雪城のぞみを尋ねた。


 私達は、空いている教室に彼女を連れていき、話し合いの場を持った。

 彼女は、神妙な顔をしていて、拒否されることはなかった。


 前世のゲームで好きだったヒロインの1人。

 やはり地球人色ではないそのカラーリングに私はちょっと見とれた……しかし、すぐに私を突き落とした時のことを思い返すと、怖くなった。


 サラサラとまっすぐな銀髪に、ルビーのような赤い瞳。


 確かゲームだと、クールな見た目に反して、その赤い瞳のように心の中に音楽への強い情熱で溢れていたキャラだったはず。

 吹奏楽部では、クラリネット担当で将来音大に進む予定だったような。


「ご、ごめんなさい! 実は私……見学に来てくれた奏くんに一目惚れして……。なのに、いつもそこの子が傍にいるもんだから、嫉妬してしまって」


「嫉妬で突き飛ばし!?」


 そんな気はしていたが、普通片思いでそこまでならないよ!?


「嫉妬で、人を階段から突き落とすとか犯罪でしょうが。花音は、下手したら死んでたんですよ」


「そうね、どうかしていたわ……。本当にごめんなさい」


 彼女の手を見ると震えていたし、奏に睨まれて、怯えた顔をしている。


 奏とは事前に話し合って来た。

 もし彼女が反省した素振りをみせたら、警察は呼ばずに済ませると。


 たしか……こういうのって、怪我を追わせなくても、暴行罪とかになるんだっけ。


 「ずっと、悶々としていたの。自分でも頭がオカシイとは思うんだけど。奏くんは私の所にくるべきだと……音鳴さんのように私が奏くんの傍にいるべきなんだと、思い込むように段々なっていって。今日たまたま、音鳴さんをつき落とせるタイミングが来た、と思ったら手がでていたの……」


 私は、ひえ……っ、と思ったが、雪城のぞみも、自分で自分が信じれない、と言ったような表情で語っている。


 どうも、彼女の行動には無理がある。

 今の彼女の様子を見るに、奏と接点ができないから、行動が狂ったように見える。


 そういえば、雪城のぞみは、ゲームでは後半になるまで判明しないが、奏に一目惚れしたことを隠し続けるキャラだった。

 最初から落ちているにもかかわらず好感度上げが必要な、けっこう難解なキャラだったな……。


 ――しかし、やはり。

 彼女がおかしくなった(と思われる)のは、 奏が、私(幼馴染)ヒロインルートだから、のように思える。


 それにしたって、幼馴染ヒロインへの殺意が半端ない!!

 これギャルゲーですよね!?

 いくら私が死亡フラグだらけヒロインだからって、デスゲームみたいに、しなくてもいいじゃないのよー!


「悪いが、先輩の気持ちにはオレ、応えられません。そして、花音にはもう暴力を振るわないでもらえますか。本来ならこれ警察に連絡すべきことだと思うんですよ」


「あ……! 本当に、ごめんなさい……。約束するわ、もう花音さんにこんな事しない……だから警察だけは!」


 警察、と言うと雪城先輩は、さらに怯えの色が濃くなった。


「えっと、奏……」


 私は、奏の袖をくいくい、と引っ張って見上げた。

 だいたいいつもこれで『もう行こう』が通じる。


「……わかった。いいですか、先輩。許したわけじゃないですからね。


「ええ……。本当に、どうかしてたわ。花音さん、ごめんなさい」


 泣いて深々とお辞儀する雪城先輩に、私はお辞儀だけした。


 だって、何を言えばいいかわからなかった。

 例えゲームのシナリオのせいだったとしても、許せるわけはないからね。


 私だけじゃなくて……奏の手を怪我させたんだから。


「では」


 奏が短くそう言い、私達はその場に彼女を残して、退出した。



 ◆


 奏と帰りながら、先程の話をする。


「どうも、すっきりしないな」

「……そうだね」


 私達も取り返しのつかなくなるような怪我はなかったし、彼女も反省して謝ってはくれた。

 一応まるく収まったはずだが、やはり彼女の行動が意味不明で腑に落ちないために、どうも変な感じが残った。


 どのみち、すっきりしたー! とはならないんだろうけど。


「まあ、いいか。これからはもう花音に危害を加えないって約束させたし」

「そうだね。……てか、もう一度指見せて」



「ああ、もう。大丈夫だって!」

「いや、でもさ」

「心配しすぎだって!」


 指に触れようとしたら、触れないように、手を上げられてしまった。


「むー」


「それより、なんか寄り道して小腹満たして帰ろうぜ。オレちょっと腹減った」


 背中を軽くぱし、と叩かれ、私は溜息をついた。


「そうだね。……シェイクでも飲もうかな」

「よし、行こう」


 ふと、この間、吉崎くんとファーストフードに寄ったことを思い出した。


 あの時はプチデートのように感じた。


 奏だと、慣れすぎていて、一緒に行っても当たり前、な感じ……なんだけど。

 あんな事があった後だと、他の誰かより、やはり奏といることに、安心する。


 奏の存在にありがたみを感じる。


 ……。お弁当をいきなり作っていかないとか、冷たすぎたな……。反省。



 ◆


 家に帰ってから少し、身震いした。


 階段から落ちた時の感覚を何度も思い出して。


 ――これからも死亡フラグはやってくるんだろうか。


 2度あることは3度あるっていうし……。



 ――怖い。




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