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■7■ 階段から突き落とされる。


 学校についたあと確認すると、ヤツはやっぱり宿題を忘れていた。


 見せてやるからとっとと写せ!!

 世話の焼ける!!


 さて、次は移動教室だ。

 私は当番だから、早めに行って、先生の手伝いをしないといけない。

 奏を置いて先に教室を出た。


 なのに、背後に奏の気配を感じる。

 くっつき虫め!


 その移動中、階段の上に銀髪ロングストレートに赤い瞳の女の子がいるのが見えた。


 あ、あの子、ヒロインの一人だ。

 確か上級生で無口の……可愛いなぁ。

 私、この子は好きなヒロインの一人だったっけ。


 そんな事を考えながら、階段ですれ違う際に、


 ドン!


 と私は階下へ突き落とされた。


 ――あきらかに、故意を感じた。


「――え」


 銀髪のヒロインは、その冷たい赤い瞳で落ちていく私を見て、微笑んだ。


 ざ ま ぁ


 口の形がそのように動くのが見えた。


 ……なんで!?


「花音!!!」


 奏の声が聞こえて、受け止められる感覚がした。

 そしてそのまま、一緒に転がる。


「きゃああ!」

「うっ…」


 奏のうめき声が聞こえた。


「か、奏君!?」


 銀髪ロングストレートは、その後、ハッとして、走り去った。


 逃げた!!


「奏!! 大丈夫!?」

「大丈夫だ……お前は?」

「奏が……受け止めてくれたから…手は!? 大丈夫?」

「もうピアノは弾いてないんだから、それは気にしなくていい。大丈夫だ」


 私は問答無用で彼の手を取って、一本一本指を確認する。

 少し擦りむいているけれど、動かしても痛む様子は見受けられない。


「……良かった……でも、保健室行こう」

「大丈夫だって言ってるのに」


 奏は起き上がった。

 打ち身はあるだろうけど、とりあえず救急車が必要になるような怪我はなさそうだ。


 私は奏を、強引に保健室に連れて行き、保健の先生にも確認してもらった。


 先生には「大丈夫とは思うけれど、何かあったらすぐ病院へ行きなさい」と言われた。



「それにしてもあの銀髪女……」

「奏、知り合い?」

「ああ。知り合いってほどじゃない。部活動決めるときに見学に行った吹奏楽部にいた先輩ってだけで」

「吹奏楽部入ろうとしてたの?」

「一応見に行っただけだ」


 ……やっぱり音楽が気になるんだな。


 私はもう一度、奏の手を確認して、自分の手で包み込んだ。


 奏はもうピアノ弾かないっていっても、そういうことじゃない。


 幼い頃から私にピアノを弾いて聞かせてくれた手だ。

 私にとっては大事な思い出が詰まっている手だ。

 無事でよかった。


「……花音、大丈夫だから」

「うん」


 それにしても、あの銀髪の女の子……名前はたしか、雪城(ゆきしろ)のぞみ。


 私が前世でプレイした時、たしかに彼女が正ヒロインを事故で階段から落としてしまうイベントがあった。


 私は死なないが、目を覚まさなくて一生病院とかになるはず。

 そして罪の意識に苛まれてるところを奏が救うんだったっけ。


 二人のえちえちの為の私の待遇が不幸すぎる……。ひどい。


 でも、さっきあの子……"ざまぁ"って言ってわざと突き落としてきた。


 なんだかおかしくない?

 ゲームでは、あんな事いう性格では無かったはずだし、彼女は今のところヒロインレースに参加してるとは言えない。


 奏の言い方からすると、特別に会いに行ったりすらしてないはずだ。


 ホントに部活紹介で顔を知った程度。

 私のことだってまるで知らないはず……。

 何故こんな事を……。


 もとのゲームとは色々と違ってるのかな。

 私だってゲームの花音とは違う訳だし……。


「……花音、オレはやっぱり納得できない」

「え?」


「放課後、吹奏楽部にオレは行って、あの先輩を捕まえて話をつけてくる」

「え、でももう、関わらないほうが」


「今後、関わらない為だ。はっきり言って犯罪だろう。それに、今度オレが見てない所でこんな事されたらって思うと心配でならない」


「ああ……でも、次がないとはかぎらないよね。……心配してくれて、ありがとう」


「……おう」


 うーん、これは奏の言う通りだ。


 私達は、話し合った結果、二人で雪城のぞみを、尋ねる事にした。




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