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■5■ギャルゲーの主人公も、よく考えたらスパダリだよなあって。


 次の日の朝、奏が本当に迎えに来た。


「おはよう」

「お、おはよう」


 玄関の前で待ち伏せされて、一緒に学校行きません、なんてとても言えない状況である。


「昨日距離を置きたいって」

「オレは置きたくない」

「どうして……」

「距離なんておいたら、おまえ吉崎のとこに行くだろ」

「……」


 その通りだ。


「吉崎に惚れてる?」


「惚れ…!? そこまで強い感情じゃないよ! ただ、いいなーって」

「どこが?」

「……所作がきれいとか?」


 ……あと、手が綺麗、とか。

 私はなんとなく、奏の手を見ながら言った。


「ふ、ふーん」


 なんなんだ。


 ◆


 奏と一緒に登校すると、当たり前のようにクラスメイトにいじられる。


「なんだもう仲直りかー?」

「やっぱあんた達仲良しよねぇ」

「結婚式には呼んでくれ」


 あんたら、人の気も知らないで……!


 これって、今更破壊できない外堀が出来上がってない?

 降り積もった幼馴染の歴史が強い外壁となっている気がする。

 ウォール・オサナナジミ!


 ちなみに、幼馴染の壁――ウォール・オサナナジミは外堀だけではなく、私と奏の間にも走っている。


 幼馴染という壁があることで、私達はなりたっているのだよ、奏。

 奏はそれを壊そうとしている。


 壊れたら、どうなるんだろう。


 ゲーム画面の中の二人は普通に交際していたが、キャラクターと違い、私達は今リアルだ。


 前世では幼馴染とかいなかったしな……。

 想像がつかない。


 そして昼休み。


「ほら」

「え、なにこれ」

「……弁当作ってみた」

「えっ」


「今までにかかった費用がわからないから……これから、卒業までオレが弁当作る。花音が作ってくれた弁当メニューちゃんと覚えてるから。お前ほど上手には作れないけど、できるだけ再現して作ってくるから受け取ってほしい」


 えええ……。

 そんなの作ってこられて、いらない! なんて人として言えるわけがない……!


「あ、ありがとう。でもいいよ、そんなの。大変だし勉強だってあるんだから。今日だけで」


「いや、オレがやりたいの。じゃあ、一緒に食おうぜ。中庭行こう」


 断れない……これ以上の断る理由が見つけられない。


 手を引かれて連れて行かれる。

 何気なく奏の手をみる。


 奏の手はきれいだ。

 ピアノをやってる人特有の綺麗な手。

 私はこの手が……すごく好きだ。


 ◆



 奏のお弁当は完璧だった。

 私が作ったんじゃないかって思うくらい、同じものを作ってきた。


「すごい……」

「お前の味が好きだから、自分でも作れるようにしたくて、晩飯とか真似して作ったりもしてたんだ。実は」


 そ、そんなに。


 さすがにビックリしたけれど、そんなに美味しく食べてくれてたのか……。知らなかった。

 言葉で言われるだけじゃなくて、こうやって再現までできるレベルで覚えてるなんて、ちょっとすごい……どころの話ではない。


「オレの気持ち……まだ、お前に届くかな」


 優しい笑顔で少しの間、瞳を覗き込まれた。


 う。


 なんですか? そのセリフ!?

 ……これ乙女ゲームじゃないですよね??(3回目)


 「(ああ……うん)」


 女性キャラ視点からみたら、ギャルゲーの男主人公って乙女ゲームの攻略キャラ以上に、スパダリだよね。


 攻略するヒロインを助けたり、ヒロインと将来幸せになるために行動してるんだもんな。

 不遇ヒロインを救うためにスパダリ化していくヒーローとか、ザラにいるものな。


 奏はすぐにお弁当に目を戻して、食べ始めた。


 これはやばい……幼馴染がまるで生まれ変わったかのように態度を改めてきた……。

 どうしたらいいんだ。

 これでは、吉崎くんのところへ行く気も萎えてしまう。


 あれ、ちょっと待てよ。


 これから毎日、奏とお弁当食べるの?

 いや、今までもそうではあったけれども……。


 吉崎くんルートに行く暇がなくなるじゃないの……というかこれもう完全に奏が花音の吉崎行きを封じている!


 そんな事を考えていた時。


「はわわわー!」


 以前、食堂でもすっ転んでいた茶髪ドジっ子後輩が、奏の前でスライディングするかのように転んだ。


「ああああああ……痛いですぅ」

「大丈夫?」


 私は声をかけた。

 一学年下だったかな、この子。


 ……あれ?奏が助け起こさない。


 昨日も助けてあげてたよね?

 そして奏が助け起こさないからか、いつまでも転がったままだ。


 見かねて私は助け起こした。


「あわわわ、ありがとうございますー!」


 ハンカチで顔を拭いてあげた。


「ありがとうございますぅ、お姉様!」


 お、おねえさま? 聞き慣れない言葉だが、まあいいか。

 後輩に感謝されて心地よい。


 保健室に行きます! と言って、ドジっ子後輩枠ヒロインは去っていった。



「……どうして助けてあげなかったの?」

「そんな。小さな子供じゃないんだから、自分で起き上がれるだろ?」


 えっ。どうした。ヒロインだぞ。


「昨日助けてあげてなかった?」

「なんだ、見てたのか。オレのこと」


 ニコリとされた。ちがう、そうじゃない!


「なんでそういう話に! そうじゃなくて、いつもああいうのって率先して助けてあげてたじゃない」


「今のは花音がやってくれて助かった。 ……正直困ってたんだ。女難の相があるのかとお祓いに行くか悩むくらい」


「女難の相!?」


「うん……やたらオレが助ける羽目になる女に絡まれる」


 ひょっとして下心で助けてた訳ではないの?

 私はてっきり……。

 酷い誤解があったかもしれない。

 自分のギャルゲ脳が嫌になる。


「昨日の広美だって……あれはオレが助けられたんだけどさ。借りたら返さないといけないから、また会話しないといけないだろ? ……あ、そうだ、これ、昨日借りた金持ってきたんだけど……お前から返しておいてくれない? オレ実は、広美苦手でさ……」


「お、おう……」


 そこで鐘が鳴った。

 私は広美に返すお金を受け取った。

 苦手なら仕方ない。

 この幼馴染であり、かつ正ヒロインであるこの私が返しておいてやろう。


 正直、他のヒロイン、誰を選んでも文句は言えないんだけど、広美だけはどうも嫌だった。



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