帰りは吉崎くんと、約束通りにご一緒した。
ファーストフードに寄り道して、好きな配信の話やゲームアプリなんかの話をしたりして、プチデートのようだった。
こういう友達の域を出ない感じの付き合いって楽しい。
このまま吉崎くんと関係が発展すると嬉しいかもしれない。
彼はやはりステキな人だと思うし。
しかし……。
自分の思うように青春したい、とは思うものの、奏の顔がちらつく。
気にするな私。
奏は、ただの幼馴染なのだ。
私が誰と付き合おうと、奏が誰と付き合おうとも、幼馴染という関係は変わらないはずだ。
明日から奏にお弁当作らない&起こしにもいかない宣言したから、それをやらなくてもよくなった事に気が軽くなる。
軽くなるけど……気になる。
明日からは朝、ゆっくり眠れる……のに。気になる。
本当に朝起こしにいかなくて大丈夫だろうか。
――いや、今日もギリギリ間に合ったし大丈夫だ、うん。
お弁当作らなくても大丈夫だろうか。
――いや、きっと他のヒロインが面倒みてくれる……うん。
私はヒロインレースからは降りたいのだ。
短命はいやだし、避けられない死亡フラグはできるだけ絞りたい。
なのに、なんでこんなに心が揺れている。
夕焼けの中、自宅へ歩みをすすめる。
「……あ。奏」
自宅の前に、制服のままの奏が立ってる。
「おかえり。遅かったな」
「ああ、うん、ちょっと。どうしたの?」
制服のままってことは、家に帰らないでずっとここで待ってたのかな。
……私を、待ってたのか。
「……謝ろうと思って。今までの事」
「え、なんで? 確かにきっちりした生活をしてたってわけじゃないけど、私も善意でやってた事だから、謝るってのもおかしな話だよ。私も塩対応でごめん。きちんと話せばよかったね」
私の話を聞いてくれたかどうかはわからないけど。
けっこう私に対してぞんざいな態度だったし。
でもこんな傷ついた顔されたら、そう言わざるを得ない。
「いや、その善意にオレは、甘えてたなって思う。おまけに、幼馴染で付き合い長いからって、ぞんざいな態度でお前に接してた事を改めて反省した」
えええ、どうした……!?。
今までそんな事言ったことないのに。
「これからは、朝ちゃんと自分で起きるよ。ちゃんと自立して生活するから。朝一緒に登校してほしい。帰りも一緒に帰ってほしい。昼飯も前みたいに一緒がいい!」
奏が抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと」
幼馴染でも、いきなり抱きつくのは、ちょっとどうだろうか!
それを言いたくて口を開こうとしたが、奏の腕が震えてる事に気がついた。
え? 顔みたら少し泣いてる?
「ちゃんとするって約束するから、オレに…もう一度だけチャンスを下さい。今までの朝だって、ホントは起きてたんだ。寝ぼけてるフリしてた。……お前に起こしに来てもらいたくて、わざとやってた。弁当も、お前の味が好きだったから……金の件はちゃんとする、本当に悪かった。そうだよな、弁当作ってもらったら費用はかかる。あまりにも酷かった。負担をかけて……ごめんなさい」
主人公、こんなにちゃんと謝れるんだ!?
自分(わたし)が操作してた時、こんなにしっかり考えてなかったと思うんだけど。
「オレ、お前を他の誰かに盗られたくない。いやなんだ。お前が他の男(やつ)といるなんて」
しかもこれって、告られてます!?
まるで――今まではっきりさせてこなかった幼馴染の関係を終わらせに来ている気がする。
好感度上げにしては、内容が濃すぎる!
奏よ、正ヒロイン……幼馴染ルートなの!?
と、言うか。こんなイベントあったっけ?
いや、それより、どうしたらいいの? ……悩ましい問題だ。
私は、幼馴染としては普通に大事なんだよ、彼が。
だいたい、私は彼を本当に、ただの幼馴染としか見てな……
「幼馴染としてじゃなくて、好きなんだ」
うっ……! はっきり言われた! 退路を絶たれた気分だ。
「今までオレを大事にしてくれてありがとう。これからはむしろオレのほうが大事にするから、オレの傍からいなくならないで欲しい」
少し涙をこぼして言う。慰めたくなってしまう。
心の臓にガンガン来る。
さすがに心が揺れる!
……ひょっとして塩対応したせいで、逆に火がついてしまったヤツですか。
どうしよう。
ここはギャルゲーの世界だけれども、今喋っている奏のセリフはゲームでは見たことがない。
いや、実際生きてる人間と、ゲームキャラクターでのデータ量はそりゃ、全く違うけれども。
ゲームならこういう時、選択肢でるんだろうなぁ。
困った……選択肢ぷりーーず!!
……と言いたいところだけれど、奏は真剣だ。
ちゃんと答えなくては。
「あのね、奏。そんな気持ちでいてくれたんだね。でも、そんなに反省もしなくていいよ。……ただね、私達今まで近すぎたんだと思う。私はね、奏のこと、幼馴染と思ってる。だから……少しだけ距離をおかせて」
よし、ちゃんと言えた。
そして、これが今は正解なんじゃないかな。
私の気持ち的にも、奏の気持ち的にもちょうどいい落とし所なのでは?
「だめだ……」
え?
「そんなの絶対駄目だ。ずっと一緒だったじゃないか」
えっ
「……どうして急にそんな事を言うんだよ!」
……執着が! すごい!
夕焼けで世界が真っ赤だ。
こんな時間……そろそろ帰宅する人たちがこの辺りを何人も通ってもいいはずなのに、さっきから人がまったく通らない……。
ひょっとして、主人公補正とかで、邪魔が入らないようにとかなってんの!?
そして、抱きしめられ過ぎて、身体が痛い!
「奏! 痛いよ!」
奏は、ハッとして私を放した。
「ごめん」
「そ、それじゃ、そういう事だから…っ」
私は奏から逃げるように、自宅へ駆け込んだ。
心臓がバクバクしてる。
なんなのこの執着具合は……!!
今までこんなにグイグイきたことなかった!
……も、もし。
もしも、奏が幼馴染ヒロインルートに入ったのだとしたら……
このままでは、死亡フラグが…いっぱい立ってしまう!!