「出席をとりますよ」
メガネをかけた黒髪のイケメン先生がそういう。
うぅん。声優の意志田アキラさんにやってもらいたい感じの美青年だわ。
優しそうでいて、実はなにか腹黒設定ありそうなやつ。
多分、実際はそんな人ではない。
この人が担任でよかった。
妄想がはかどる。そして目の保養。
このゲーム、男キャラも手を抜かないで描いてたからなぁ。
そこは女プレイヤーとしては嬉しいポイント。
「天ヶ瀬(あまがせ)奏(かなた)くー」
「はああああい!!!」
ガラリ、とドアを開けて、そこで立ち尽くして激しく息をしている幼馴染が現れた。
青みがかった黒髪に、青い瞳。NOT日本人カラー。NOT地球人カラー。私が言うな、だけど。
主人公なので、それなりにイケメンではある。
ギャルゲーって、うだつが上がらないダメそうな見た目の主人公が、たまにいるけど、そっちタイプではない。
普通にモテそうな見た目はしている。
それはともかく。ちゃんと出席までには間に合ったか。
頑張ったね。
クラスの連中がヒソヒソする。
「…あれ? 奏いなかったの?」
「そういえば、花音ちゃんは今日一人で登校…」
「あいつら喧嘩でもしたのか?」
違います。
今までが、異常に仲良すぎただけなんです。
「ん~。ちょっと迷ったけど、間に合ったことにしてあげよう。天ヶ瀬くん、じゃあ席について」
「ハァハァ……。ありがとうございます……はい…」
奏は息を整えながら……そういえば席が隣だった。
「花音……」
まだ息があがってる。お疲れ。
「おはよう」
「どうして今日は起こしにこな」
「ん? なんで私がそんな事をするの?」
「え、いや……いつも、来てたから」
「そういえば、そうだね」
「え、なんか塩対応じゃない? オレ何かした?」
「ううん、何も?」
「そ、そうか?」
起こしにいくといつも、うざそうにもしてた。
親切で起こしに行っているのに、まるで反抗期の子供を叩き起こすお母さん化してた。
やっぱり幼馴染に起こしてもらうなんて、高校生にもなって恥ずかしすぎるよね。
幼馴染ヒロインに甘えすぎだよね。
そういう設定にしたのはゲーム会社だから、と思うと奏に罪はないかもしれない。
でも、前世を思い出したからには、悪いけれど付き合えない。
幼馴染ヒロインにも人生がある。
いつまでも、あると思うな幼馴染ヒロイン。
◆
昼休み。
私は今日、お弁当を作らなかったので、食堂に行こうと立ち上がった。
服の裾が引っ張られた感じがして、振り返ると、奏が捨てられた子犬のような目をしている。
う……。
ちょっと可愛いと思ってしまったが、情を移していては切りがない。
「えっと、弁当……は?」
「……ああ。いきなりで悪いんだけど、作らない事にしたの」
「なんで!? 朝も起こしに来なかったし、いや……本当にオレ何かした?」
奏は困惑したような少し泣きそうな顔をしていて、それを見ると、胸が痛んだ。
いやいや。ダメダメ。
これからはビシッと関係を正していたないと。
「んー、なにかしたかっていうと……だって、お金かかるし……。なんで奏の弁当代が我が家持ちなのかと、我に返ったのよ。私も朝から大変だし。その時間は勉強や自分の時間に当てたほうが良いかなって」
「金………! ご、ごめんなさい!?」
現実的に金の問題を持ち出す。大事な事だよね。
「それに私は朝5時半とかに起きてお弁当作ってるのに、奏は起こしに行っても寝てて全然起きてくれないし。今までは私が好きで作ってたけど……疲れちゃった。だからやめました」
ストレートに伝える。
これも本当の事だし。
「か、かの…ん…。ご、ごめん。本当にごめん」
「いや、私が押し付けの善意をしていただけだよ。ごめんね、奏の生活に割り込んじゃって。これからは邪魔しないから。……ああでも。よく考えたら急になくなったら困るよね。ほんとごめん。よかったらこれ――」
私が食堂代金を今日の分だけは渡そうと財布を開こうとした時。
「なんだなんだー? 喧嘩かな!?」
オレンジ色のおかっぱ少女が現れた。
……でたな。自称花音の親友ヒロイン。
カメラを持ち歩いている新聞部キャラ。
おそらく奏狙いの口実で、勝手に花音の親友枠におさまっている。
私は認めていないがな!
こいつは花音のことを親友☆とか言いつつ、主人公がこいつのルートを選択すると、急にメスの顔をし始めて、親友の幼馴染を何くわぬ顔でかっさらっていく。
名前は橘広美。
たしかこいつも不人気キャラだったはずだ。
とにかくウルサイし、容姿は可愛いけど男ウケしなかった模様。
「いや、今日、花音に弁当作ってもらえなくてさ」
うーん。やはり、私が作るのが前提になっている。
「なんとー! ならば☆この広美ちゃんが力になって差し上げよう! これ、貸しだからね☆」
といって広美は奏の手に、ジャラジャラと小銭を置いた。
「今日のA定食代金ぴったりさ☆感謝したまえ?」
なぜかピースポーズを取って決める。
「……おお、広美、サンキュー」
……なんか良い雰囲気ですね。
あ、これイベントだったかな?
ヒロインがたまたまお弁当を忘れた時に、その時一番好感度が高いキャラがやってきて、昼飯をなんとかしてくれるっていうヤツ。
奏、おまえ広美と仲良かったのか。
……ふーん。まあいいけど。私には関係ない。
そう、関係ないし。
イベントなら邪魔しちゃいけないだろう。
奏よ、広美と末永く幸せにね。ふんだ。
私は焼きもちなど決して妬かない、ストイックな幼馴染ヒロイン。
奏が誰と恋愛しようと、平気の平左。
私はその場をそっと離れて、食堂に向かった。
関わってたら昼飯逃すからね。
お弁当じゃない昼食って久しぶりだ! 何食べようかな!