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■2■ いつまでも、あると思うな親と幼馴染ヒロイン。

「出席をとりますよ」


 メガネをかけた黒髪のイケメン先生がそういう。

 うぅん。声優の意志田アキラさんにやってもらいたい感じの美青年だわ。

 優しそうでいて、実はなにか腹黒設定ありそうなやつ。


 多分、実際はそんな人ではない。


 この人が担任でよかった。

 妄想がはかどる。そして目の保養。


 このゲーム、男キャラも手を抜かないで描いてたからなぁ。

 そこは女プレイヤーとしては嬉しいポイント。



「天ヶ瀬(あまがせ)奏(かなた)くー」


「はああああい!!!」



 ガラリ、とドアを開けて、そこで立ち尽くして激しく息をしている幼馴染が現れた。


 青みがかった黒髪に、青い瞳。NOT日本人カラー。NOT地球人カラー。私が言うな、だけど。

 主人公なので、それなりにイケメンではある。



 ギャルゲーって、うだつが上がらないダメそうな見た目の主人公が、たまにいるけど、そっちタイプではない。

 普通にモテそうな見た目はしている。

 それはともかく。ちゃんと出席までには間に合ったか。


 頑張ったね。


 クラスの連中がヒソヒソする。


「…あれ? 奏いなかったの?」

「そういえば、花音ちゃんは今日一人で登校…」

「あいつら喧嘩でもしたのか?」


 違います。


 今までが、異常に仲良すぎただけなんです。



「ん~。ちょっと迷ったけど、間に合ったことにしてあげよう。天ヶ瀬くん、じゃあ席について」


「ハァハァ……。ありがとうございます……はい…」


 奏は息を整えながら……そういえば席が隣だった。



「花音……」


 まだ息があがってる。お疲れ。


「おはよう」


「どうして今日は起こしにこな」


「ん? なんで私がそんな事をするの?」


「え、いや……いつも、来てたから」


「そういえば、そうだね」


「え、なんか塩対応じゃない? オレ何かした?」


「ううん、何も?」


「そ、そうか?」


 起こしにいくといつも、うざそうにもしてた。


 親切で起こしに行っているのに、まるで反抗期の子供を叩き起こすお母さん化してた。


 やっぱり幼馴染に起こしてもらうなんて、高校生にもなって恥ずかしすぎるよね。


 幼馴染ヒロインに甘えすぎだよね。


 そういう設定にしたのはゲーム会社だから、と思うと奏に罪はないかもしれない。


 でも、前世を思い出したからには、悪いけれど付き合えない。



 幼馴染ヒロインにも人生がある。


 いつまでも、あると思うな幼馴染ヒロイン。





 昼休み。


 私は今日、お弁当を作らなかったので、食堂に行こうと立ち上がった。

 服の裾が引っ張られた感じがして、振り返ると、奏が捨てられた子犬のような目をしている。


 う……。


 ちょっと可愛いと思ってしまったが、情を移していては切りがない。



「えっと、弁当……は?」


「……ああ。いきなりで悪いんだけど、作らない事にしたの」


「なんで!? 朝も起こしに来なかったし、いや……本当にオレ何かした?」


 奏は困惑したような少し泣きそうな顔をしていて、それを見ると、胸が痛んだ。

 いやいや。ダメダメ。

 これからはビシッと関係を正していたないと。


「んー、なにかしたかっていうと……だって、お金かかるし……。なんで奏の弁当代が我が家持ちなのかと、我に返ったのよ。私も朝から大変だし。その時間は勉強や自分の時間に当てたほうが良いかなって」


「金………! ご、ごめんなさい!?」


 現実的に金の問題を持ち出す。大事な事だよね。


「それに私は朝5時半とかに起きてお弁当作ってるのに、奏は起こしに行っても寝てて全然起きてくれないし。今までは私が好きで作ってたけど……疲れちゃった。だからやめました」


 ストレートに伝える。

 これも本当の事だし。


「か、かの…ん…。ご、ごめん。本当にごめん」



「いや、私が押し付けの善意をしていただけだよ。ごめんね、奏の生活に割り込んじゃって。これからは邪魔しないから。……ああでも。よく考えたら急になくなったら困るよね。ほんとごめん。よかったらこれ――」


 私が食堂代金を今日の分だけは渡そうと財布を開こうとした時。



「なんだなんだー? 喧嘩かな!?」


 オレンジ色のおかっぱ少女が現れた。



  ……でたな。自称花音の親友ヒロイン。


 カメラを持ち歩いている新聞部キャラ。


 おそらく奏狙いの口実で、勝手に花音の親友枠におさまっている。

 私は認めていないがな!


 こいつは花音のことを親友☆とか言いつつ、主人公がこいつのルートを選択すると、急にメスの顔をし始めて、親友の幼馴染を何くわぬ顔でかっさらっていく。


 名前は橘広美。


 たしかこいつも不人気キャラだったはずだ。


 とにかくウルサイし、容姿は可愛いけど男ウケしなかった模様。


「いや、今日、花音に弁当作ってもらえなくてさ」


 うーん。やはり、私が作るのが前提になっている。


「なんとー! ならば☆この広美ちゃんが力になって差し上げよう! これ、貸しだからね☆」


 といって広美は奏の手に、ジャラジャラと小銭を置いた。


「今日のA定食代金ぴったりさ☆感謝したまえ?」


 なぜかピースポーズを取って決める。



「……おお、広美、サンキュー」


 ……なんか良い雰囲気ですね。


 あ、これイベントだったかな?


 ヒロインがたまたまお弁当を忘れた時に、その時一番好感度が高いキャラがやってきて、昼飯をなんとかしてくれるっていうヤツ。


 奏、おまえ広美と仲良かったのか。


 ……ふーん。まあいいけど。私には関係ない。

 そう、関係ないし。


 イベントなら邪魔しちゃいけないだろう。

 奏よ、広美と末永く幸せにね。ふんだ。


 私は焼きもちなど決して妬かない、ストイックな幼馴染ヒロイン。


 奏が誰と恋愛しようと、平気の平左。



 私はその場をそっと離れて、食堂に向かった。

 関わってたら昼飯逃すからね。


 お弁当じゃない昼食って久しぶりだ! 何食べようかな!




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