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第7話【第6話の番外編】君の影は僕のもの

────────────── プロローグ



 水河実梨みずかわみりの指先が微かに震えていたのは、先週死の宣告をされたと同時に彼に頼った自分に驚いたからでもあった。

 封筒に書かれている几帳面な字体には覚えがある。この手紙を受け取ったからには読まなければならない。いや、読む義務があると実梨は思った。


 そういえば、あのペット探偵は彼のことを『この世の悪魔』だと言った。

 恐ろしい例え。

 だが確かに彼ほど、敵に回して恐ろしい男はいないだろう。

 実梨は真っ白い便箋を開く。

 それは悪魔と通じた瞬間だった。



*******



 実梨へ


久しぶりだね。僕たちが別れてから随分と時が過ぎた。

君が別れたいと切り出したときからずっと、僕が待っていたのはこの日だったのかもしれない。


「何があったとしても、僕は君を手放すつもりはない」

あの日、僕が言ったこの言葉を覚えていますか。

これは決して嘘ではない。君は、これからも僕のものだ。


ところで、DGのリストに載ったらしいね。

心配はいらないよ。

何も怖がらなくていい。

僕を頼る限り、永遠に君を守ってあげるから。


僕は満足だよ、実梨。

君が戻ってきてくれて本当に嬉しい。

また楽しい時を一緒に過ごそう。


                        無山恭也


*******



 実梨は手紙を読み終わると同時に、安心感というより自己嫌悪に近い心情を覚えた。この時、永遠の自由を失ったと実梨は悟ったのだ。死と引き換えに囚われたのも同然だった。


 柔らかなキャメル色のレザーバッグに入れてあった携帯の着信音が突然鳴り響く。実梨は心臓が止まったかというような顔で振り向くと、ゆっくり携帯に手を伸ばした。




────────────── 自殺予告サイト




「浴衣なんて一年ぶり。上手に振る舞えるかしら」

「お着物はこの前茶道のお稽古で着たじゃない。だから私たち、所作は大丈夫だと思うんだけど」

「それもそうね」


 ここは湘南、それも海側。

 コットンカフェのテラス席に腰かけ、ふたりは浴衣に合わせたネイルと下駄の相性でも見るかのように仲良く足を揺らす。

 ひとりめの浴衣は、白地に赤や薄紫の朝顔模様。ふたりめは、藤色に桜の花びらが舞っている。それぞれの個性に合った美しさを醸し出していた。


 会話のぬしは私、花野はなのふみと、親友の星野礼美ほしのれいみである。

 着物の所作といっても二人は先日茶道の体験会に参加しただけのことだ。礼美がお稽古やレッスンの体験マニアであるため、私もたまに便乗していた。

 それにしてもつい先程まで浴衣の着付けに格闘、いやほぼ乱闘していたわりにその変わり身の早さは我ながら見事だった。

『十五分で出来る! 浴衣のやさしい着付け方』という、いかにも初心者向け動画を一緒に視聴してからゆうに三時間は経っていたが。


 そろそろ、ここ湘南の眩しかった日差しが夕闇と交代する時刻。

 富士山が薄ぼんやりと見える西側は、鮮やかなオレンジと紫のグラデーションが夕空を染める。鳥たちは皆、寝床へ帰って行った。



「おー、二人とも馬子まごにも衣裳だねー。見違えるべ」

 やかましい。私は心の中でおしとやかにつぶやく。

 彼はコットンカフェのオーナーであり、私のパートナー・西宮真綿にしみやまわたである。

 二十五歳と四十歳という歳の差カップルの私たちはカフェの三階部分にある居住スペースで同棲中。湘南の海風に吹かれながら、ゆるくコットンカフェを切り盛りしていた。


 私はカフェの手伝いをしてるだけではなく、実は片隅のテーブルで『ふみの』という屋号を使用した姓名鑑定士としての顔を持つ。

 名前から人生の流れや運命、トラブル、トラブル回避方法などを導き出すのだ。最近では口コミが広がり、メール鑑定だけでなく少しずつ対面の予約も増えてきていた。対面鑑定はおのずとカフェの利益にも繋がる。有り難いことである。


 そして、いつも一緒にぐだぐだと行動している彼女は星野礼美。学生時代からの親友だ。

 本人曰く、銀座の会員制高級クラブのトップクラスに位置するホステス。

 確かに化粧した礼美の美しさは素晴らしい。群を抜いている。

 髪をミルクティーブラウンに染めて夏仕様になった礼美は、磨き上げられた美肌でさらに色っぽくなまめかしかった。

 だが何というか、まあ礼美の沽券こけんに関わることなので控えめに言うが、あえて言うとすればそのう……私服が非常にダサい。

 普段しか知らない私からすれば、ちょっぴり残念な部類に入ると思う。うーん、私はそういう礼美が好きだけどね。


 で、その銀座で人生経験を磨いた礼美でさえ驚愕を覚えた人物が、何を隠そうペットを捜し出したら半人前、副業である犬の散歩代行で培った観察眼で難事件を推理する名探偵。

 抜群の感性と洞察力で、カフェに居ながらにしてミラクルに謎を解く! 天才ペット探偵、加納伊織かのういおりだ。

 二十三歳という若さ、爽やかで優し気なルックスで穏やかな性格。普段はどちらかと言えば消極的とも思える彼だが一旦謎解きを前にするとあら不思議。いきなり瞳が輝き出し、いくつかの質問をするだけで瞬く間に解決まで導き出してしまう。

 カフェに一人は欲しい、頼れる我らの安楽椅子ペット探偵なのだ。


 現在、午後六時半。

 そろそろ伊織も到着する時間だ。今晩は、茅ヶ崎の花火大会を鑑賞する約束になっていた。

 海へと続くこの通りにはお洒落な店舗が飛び石づたいで建ち並び、しかも昔ながらの古風な店ともうまく共存している。フレンチレストラン、コインパーキング、ラーメン屋、喫茶店、パン屋、駐輪場、美容室……。

 駐輪場の斜め前がここ、コットンカフェ。


 本日は花火大会ということで、レストランやパン屋、喫茶店などはわざわざテラス席を用意してお客様を待っていた。

 もちろん私たちもビーチまでは行かない。とんでもない込み具合だと予想できる。そんな体力と気力は誰も持ち合わせていなかった。

 湘南=スローライフ。

 のんびりと店先のテラスで、ボサノヴァでも聴きながらアルコールや食事を楽しむに限る。

 真綿がキッチンからピザとレバーペーストのカナッペを手に現れた。ピザは湘南野菜が山盛り、私の大好物だ。


 真綿がグラスを手渡してくれた。茶色い前髪が、少し目にかかってきている。私の好きな長さ。そして片目を細め、眩しそうに私に笑いかけた。

 私を幸せにしてくれる日焼けした男らしく逞しい両腕。あの腕に優しく包まれるととろけそうな気持ちになる。

 その時、急になぜか真綿の部屋にたいそう大事に掲げられている言葉を思い出した。

『ゆるくなければ、お前じゃない』

 ……何だろう一体、ハードボイルドの真逆を行くあの座右の銘は。

 強くなければ、男じゃないでしょ普通。

 全くもう、上手い具合にパクりやがって。

 勝手に思い出して、結局勝手にイラッと来る私であった。



 太陽の亡霊がいつまでも名残惜しそうに消えずにいる。そんな夕日の向こうから、一人の若者と二匹の大型犬の姿が見えた。

 あれが、噂のペット探偵。

 その両隣でベージュの艶やかな長毛をゆっさゆっさと揺らし、リズミカルに闊歩しているのはゴールデンレトリバーだ。かなり大きめの健康優良犬に見える。

 中央にいる彼は、ラフなサーフブランドのTシャツとハーフパンツにビーサンという湘南らしい服装。黒いサングラスをかけた伊織の表情は見抜けないが、両脇の二匹はすこぶる笑顔だった。


「いらっしゃい。今日はまた、大きい子連れて来たね!」

 真綿がグラスを掲げ、伊織を歓迎する。

「すみません。犬連れて来てもいいって言われたので、お言葉に甘えました」

「もちろん大歓迎だよー 思ってたよりも大きいけどね」

 ブルーデニムのエプロンをテラス席のイスへ掛け、真綿は二匹のワンコに駆け寄る。子供の頃、見捨てられた犬や猫を拾い育てた経験から彼も動物に目がない。

「お利口だねー お水とクッキー持ってきてあげるよー」

 しゃがむ真綿に喉元をなでられ、ワンコたちは気持ちよさそうに目を細めた。真綿も似たような顔つきになっている。同類だな。

 彼も時々迷子の子犬のような表情をする。その度に放っておけない気持ちになった。そういえば私と彼が出会ったばかりの頃、彼は私の瞳を見つめ……っていうか、そんな話はどうでもいい。


「伊織くん、それはそうと何か言うことない?」

 礼美がうさぎ柄の扇子をパタパタさせながら、藤色の帯に手をやり思わせぶりな顔をした。伊織はサングラスを外す。

「あ、すいません。えっと、礼美さん……なんかいつもと違います。いつもは、えっとグレーのスウェットの上下に、あ、でも夏になって、上は地味なTシャ……」

「あーもういいわ!」

 礼美が扇子で伊織の話をさえぎった。

 伊織はわざとなのか天然なのか、女心が死ぬほどわかっていなかった。いつもあれほどずば抜けた推理力を発揮しておきながら、何だろうこの不甲斐ない口ぶりは。


 クーンクーンと毛深いお友達が揃って急かし始めた。

「あ、ごめん。ロー、ミラ、こっちおいで」

 伊織と犬たちがベンチ席の方へと移動して行く。

 真綿が犬用の特製クッキーと水の入った皿を持ってやって来た。犬も人間も満面の笑みだ。

「君たち、美味しいものあげるよー。お名前は何て言うの?」

「はい。こっちの男の子が『ローマ』で、こっちの女の子が『ミラノ』です。友人の犬なんですが僕がしょっちゅう面倒をみてて」

 二匹ともお利口にお座りをしている。伊織が手振りで紹介した。

 犬たちは立ち位置が入れ替わったら、どっちがどっちだかわからないほどよく似ていた。


「イタリア人みたいな名前だねー よろしくね」

 まさかイタリア人が自国の首都を名前に付けるとは思えないが、そんなことはどうだっていいらしい。真綿はもう二匹のワンコにメロメロだった。

 真綿特製のクッキーを砕いて、少しずつ口元へ持っていく。

「ボーノかい? ボーノだね。やっぱり。よーし、よしよし」

 二匹のリードをベンチシートのカタビラに掛け、伊織はグラスに入った氷入りコーラを美味しそうに飲んだ。


「今日はね。実はもう一人お客さんが来るの」

 私が礼美と伊織を見ながら言う。真綿は了承済みだが、ギリギリまでふたりには言うまいと話し合っていた。

「誰よ?」

 礼美がピザにのっかっている薄切りのズッキーニを指でつまんで食べる。

「先月、姓名判断に来てくれたお客様。水河実梨みずかわみりさん。……覚えてる?」

「あー、私がビーチヨガに行ってた時の話ね。自殺……いや、殺人事件だったのよね。幼なじみの事件だっけ。伊織くんが謎解きしたんでしょ!」

 礼美が伊織を指差しながら言った。



 その通り。

 水河実梨は、友人・岩乃麻弥いわのまやの死体を発見した。麻弥の自宅に遊びに行った実梨が、すでに亡くなっていた麻弥とその幼い息子を見つけたのだ。

 不可思議な幾つかのヒントは伊織によって解明された。そしてそのヒントにより、殺人鬼・無山恭也むやまきょうやという男をあぶり出した。

 無山恭也は、以前犯した殺人の罪で今も服役している。

 彼は刑務所に居ながら、操り人形を動かすように人を殺したのだ。手紙による心理操作で恋愛感情を利用して。

 結局、麻弥の死に事件性はなく自殺と判断された。だが、私たちは知っている。すべては無山恭也が意のままに操っていたことを。


「実梨さんが今日来るのは歓迎だけど、それは私たちと花火を見るためだけ?」

 礼美がするどく聞いた。

 真綿も伊織もグラスを持ち寄り、テラス席へ着く。

 ローマとミラノはベンチ席の前で仲良くねんねしていた。

「実はね、この前、藤沢駅で実梨さんの後ろ姿を見たの。改札口あたりで。混み合ってたから近づけなくて声は掛けらなかったんだけど。それでその日の夕方、実梨さんに電話したらね、いきなり泣き出して……殺されるって」

「はあ? 一体どういうこと!?」

 礼美は目をパチパチして私を見つめた。


「わからない。でも私が見かけたって言った途端、実梨さんすごく動揺してヤバかった。尋常じゃなかったの。殺されるって何度も口走って。だから話を聞かせてほしいって、実梨さんについ言っちゃった。……それでみんなが集まる今日、来てもらうことにしたの。出来れば助けになれないかなって思って」

 私は上目遣いで言った。このメンバーには通用しないと知りつつ。

「ふみちゃんはトラブルを引き寄せる才能がある子だからね。許してやって。まあ、詳しい内容は本人に直接聞いた方がいいと思う」

 真綿があごをクィっと斜め横に向けた。顎の先には先月より少し痩せた実梨が見えた。


 実梨の肩までの茶色いウェービィヘア、シンプルなジーンズのコーディネートは先月会ったときとほとんど変わっていなかった。

 可愛らしさを強調する丸顔が痩せてシャープになったように思う。笑顔はとうの昔に忘れてきたようだ。

「こんばんはー。実梨さん、待ってたよ。こっちこっち」

 真綿が陽気に手を振り、実梨を促す。実梨は見つめる私たちにぺこりとお辞儀をした。

「こんばんは。今日はお邪魔してしまって、すみません。先日ふみさんに電話をもらって……その時に、実は取り乱してしまったんです。そうしたら、今日相談にのって下さるって」

 実梨が目の周りを赤くし、少し泣きそうな声で言った。はかなげな女性を目の前にして男性陣の心はすでに決まったようだった。


 私が紹介する間もなく、礼美が口を挟んだ。いつにも増して態度が上からだ。

「私、ふみの友達で星野礼美って言うの。よろしくね。ふみから話はもう聞いてます。私たちが相談にのるってことはあなたとっても運がいいわ。花火が始まる前までには解決してあげるから、大船おおぶねに乗った気で……えっ、何?」

 うさぎ柄の扇子で実梨を指しながら適当なことを言う礼美の口を封じようと、私と真綿が「まあ、まあ、まあ」と夫婦漫才のように割り込んだ。

 まったく礼美ったら、何を言い出すかと思えば、花火が始まる前までに解決だなんて。


「実梨さん。私たち、真面目に相談にのります。だから心配しないで、全部お話してほしいの。伊織くんがこの前みたいに謎を解いてくれるかもしれないし」

 私の言葉に少し心強く思ったのか、実梨はやっと微笑した。

「実梨さん、何飲む? 何でも言ってね。食べながら話そう」

 冷たいウーロン茶とお礼の言葉を真綿に言うと、実梨は私たちに顔を向ける。心をを決めたようにゆっくりと話し始めた。



「最近、ネット界隈で話題になっている『DG』っていうサイトをご存じですか。現れては消える幻のサイトって噂になってます」

 私たちは皆、首をかしげた。唯一礼美だけが、ん?という顔をしたが。

「でーじー? アルファベットかそれは?」

 そこからっ!? ウーロン茶のグラスを実梨に手渡しながら真綿がおじいちゃんのように聞く。

「はい。ディージーです。ご存じですか?」

 真綿が少し眉間にしわを寄せた。集中しているような何にも考えていないような、結局何も思い付かなかったような。

 ハッと真綿が顔を上げて私を見た。

 まさか、何か思い浮かんだのだろうか。

「あれだ。ディー、ジー。……堂本ジョージ。新人の演歌歌手か」

 ……私に聞かないで! 頬がみるみる紅潮するのを感じながら、自分の彼の残念さを改めて認識させられる。

 お願い、もう一生黙ってて。その時、私の心の声を知ってか知らずか礼美が隣でつぶやいてくれた。

「もしかして、……ドッペルゲンガー?」

 実梨が礼美を見つめ、そして頷いた。


「少し前にうちのお店でも話題になったの。誰が言い出したのかわからないけど。その『DG』っていうサイト、自殺予告のサイトなのよ」

「自殺予告!?」

「うん。確かに幻のサイトって言われてる。アップされたかと思えば、数十分で消えちゃうの。それを偶然見つけた人が口コミで広げてる感じ。そうよね?」

 礼美が実梨の顔を見た。

「そうです。ドッペルゲンガー、通称DGです。自殺予告を公表するサイトなんです。常時、十数人がそのリストに名前を連ねてます。今までに何人もそのリストの人物が自殺しているんです。私が調べた中だけで、半年の間に四名が亡くなっていました。そして、この前……そのリストに、私の名前が書き込まれてたんです」


 誰も声を発することが出来なかった。実梨は細い肩を震わせる。

「あれは、自殺志願者が自分で登録するサイトじゃないの!?」

 沈黙を破ったのは礼美だった。

「違います! 私は登録してないですし、死にたくなんてありません!」 

「勝手に誰かが登録したってことか」

 真綿が腕を組んだ。

「私、絶対に死にたくないんです。リストの中の亡くなった人は皆、自殺で処理されてました。警察も事件性がなければ本気には動いてくれないと思います。お願い……助けてください」

 実梨の頬を涙がつたう。それまで微動だにしなかった伊織がゆっくりと体勢を変えた。


「早速ですが、その『DG』というサイトの中で亡くなった人物の死亡状況を教えてもらえますか。実梨さんが知っている四名でいいので」

 伊織が声を発すると、ベンチの前でおとなしく眠っていた二匹の耳がぴくりと動いた。実梨はバッグの中から小さなメモ帳を取り出す。

「伊織さん……ありがとうございます。あの……一人目は、紺野健市こんのけんいちという三十代の独身男性です。都内の自宅マンションの四階から飛び降り自殺をしました。特に遺書はなかったようです。詳しい内容まではわかりませんが、靴を脱いだりといった自殺めいたことはしてなかったそうです」

 皆、おとなしく話を聞いている。伊織は合わせた両手を顔にあて、目をつぶり黙っていた。


「二人目は、磯川彩奈いそかわあやな。茅ヶ崎にあるR女子高の生徒です。横浜駅のホームから飛び込み、電車に轢かれました。彼女も遺書などはありません。友達と別れ、一人になってすぐに飛び込んだそうです。友達が自殺をするような子じゃないと言ってたので事故かと思われたのですが、ホームにいた乗客が電車が着く瞬間彼女が駆け出すのを見たと。そしてDGのリストに名前が載っていました」

 実梨はメモをめくった。

「三人目は、島崎宏平しまざきこうへい。川崎市在住の四十代後半の男性です。彼は橋から飛び降り、川へ落ちました。彼もリストに名前がありました。……ですが彼は実は亡くなってません」


「えっ」

 私たちは顔を見合った。

「どうして?」

 誰ともなく実梨に聞いたが、よくよく考えるとかなり失礼な質問だ。

「はい。彼は川へ落ちましたが、運良く橋のたもとにそこを寝ぐらにしていたホームレスの男性がいたんです。しかも水泳の得意なホームレスだったみたいで、溺れた島崎宏平は助かりました」

「相当運のいい男だな。それで、彼は自殺したと言ってたの?」

 ビールを片手に真綿が感心しながら聞く。

「そこなんです。島崎宏平は自殺なんかしてないと言ってるんです。お酒を飲み、酔いを覚まそうと深夜、橋を歩いて渡っていたそうです。高さはありますが狭く短い橋です。一人で歩いていたら急に車が突っ込んで来て、慌ててよけた拍子にバランスを崩し橋から落ちてしまったらしいです」


「彼はと言ったんですね」

 伊織が自分にも言い聞かせるように言った。

「はい、そうです。ですが警察でそう言っても信じてもらえなかったようです」

 なぜだろう。本人が自殺じゃないと言ってるのだから、信じるも信じないもないだろうに。

「その橋へ向かう道路沿いにコンビニがあるのですが、防犯カメラにはその時間帯、車の行き来がなかったそうです。なので警察は彼が嘘を言ってるんだと思い、自殺未遂で終わらせたみたいです」

「なるほど、面白いですね。わかりました。では、四人目の自殺者はどのような方でしょうか」

 伊織がそう言うと実梨は唇を噛んだ。

「四人目は……麻弥です。岩乃麻弥。リストに載っていました」


 私たちは唖然とした。

「麻弥さんがリストに? でもあれは自殺だったけれど、厳密には自殺じゃなかった! 無山恭也に操られていた殺人よ。そんなばかなことって」

 私は憤りを感じた。

 麻弥さんは自分が心の病に壊れていき、最愛の息子を自らの手で殺すかもしれないという恐怖に怯えていた。息子のるいくんを守るために、苦しんで苦しんで死を選んだのだ。しかも無山に心を支配されて。

 そんな麻弥が、自分の自殺を予告するなんてありえない。


「私も何かの間違いかと思いました。麻弥はひと言もDGの話はしてなかったですし。そんなサイトに自分の名前があるなんて、絶対知らなかったと思います」

 実梨は目を伏せた。今でも麻弥の亡くなった姿を思い出すに違いない。 

「麻弥さんの名前がこのリストにあるということは、何かしら無山と『DG』に関連性があると考えてもおかしくなさそうですね」

 伊織が実梨の顔を見る。いつもの優しげな伊織は影を潜め、厳しい表情をしていた。

「実梨さん、どうですか。違いますか。それから話を聞いていると、理解出来ない箇所があるんです。……どうしてふみさんが駅で見かけたと電話をした時、そんなに取り乱したんでしょうか」


「それは……DGの死の兆候が私に表れたからです。DGのリストに載った人たちは、自分のと呼ばれる自分にそっくりの人間を見るんです。ふみさんから電話をもらった時のように、人から自分を見たと言われることもあります。私はあの日、駅には行っていなかった。ふみさんが私を見ることは絶対にないんです!」

 実梨が感情的に声を荒げた。そして、そのまま感情を吐き出すように泣き出した。子供っぽい、理性を無視した精神的に追い詰められた人間のそれだった。


「実梨さん、大丈夫。落ち着いて。伊織くんはあなたを助けたくて質問をしてるの。決して意地悪で言ってるんじゃない。伊織くんなら、きっとあなたを助けてあげられる。お願い、落ち着いて……全部話して」

 私もある意味必死だった。私たちを頼ってくれた人をこんな状態のまま帰すわけにはいかない。死と隣り合わせにいるのだ。それは真綿も礼美も同じ気持ちだと思う。

 私たちは弱いもの、苦しんでいるものを放ってはおけない。


「DGのリストに載った自殺志願者と呼ばれる人たちは死ぬ前に皆、同じ経緯を辿ります。必ず自分にそっくりの影、いわゆる分身を見るんです。それは自分以外の人が目撃する場合も多いです。今回ふみさんが私を見たと言った時、影を見られたと思いました。ホームレスに助けてもらった島崎さんも第三者に分身を見られ、自分でも見ています。はっきりと自分の目で自分を見たそうです。それでやけになってお酒を飲んだ帰り道、橋から落ちたんです」

 実梨はそう言うと、ひと呼吸置いて黙った。


「……島崎さんは、姿と言ったんですね」

 伊織が目を開けた。彼の瞳にまだあの輝きは見えてこない。いつも華麗な謎解き段階に入ると瞳がきらきらと輝き出し、ただならぬオーラに包まれる。

 私たちはそれを何度も見てきた。

 人差し指を天に掲げ、百獣の王ライオンが崖の上から遠くを見つめるようなまなざしで謎を解いていく。彼の瞳はそのとき……

「あっ、ちょっと前をごめんねー」

 私の目の前を菜箸さいばしが通り過ぎていった。礼美が唐揚げをせっせと銘々の小皿に分けている。

「数が決まってるものはね、一応分けといたほうが。実梨さんなんて遠慮してなかなか唐揚げは取らなさそうだしね。よーし、これでOK。ん? 何? ふみちゃん、礼なら別にいいわよ」

 礼美が唐揚げを頬張りながら私を見た。いいえ、何でもないです。唐揚げをどうも。



「……実梨さん、無山恭也のことで知ってることを教えてもらえませんか」

「えっ、あの、何をですか」

 実梨はなぜか動揺しているように言った。

「知ってることを何でも。容姿、性格や家族構成、趣味思考……あと殺人で逮捕されたいきさつについてもお願いします」

 真剣な伊織をよそに真綿が私の肩に腕を回し、その流れで腕時計を覗く。

 暑いし筋肉質の腕は重かったが、それより真綿の小学生並みの集中力がきれて欠伸でもしだす方がまずいと思った。

「今、七時十五分! 三十分から花火、はっじまーるよー」

 伊織はお酒が入り上機嫌になった真綿を無視したまま、実梨から目をそらさずにいた。実梨は覚悟を決めたように喋り始めた。


「無山くんとは、小学生のときに同じクラスになったのをきっかけに話すようになりました。彼はIQが高いということで一目置かれる存在だったんです。私たちは当時、他の生徒とコミュニケーションが取れず孤立してました。それで、自然と仲良くなって一緒にいるようになったんです。私たちの家庭が複雑だったのも理由としてあります。無山くんは母一人子一人で、私の両親は離婚寸前でした。その後岩乃麻弥が転校してきて、今度は三人で固まるようになりました。一年後、麻弥が引っ越してしまうまで」

 実梨は一息ついた。その後、実梨と麻弥が再会するまで十数年の月日を要することとなる。


「私と無山くんはそれから同じクラスになることは一度もありませんでした。高校も別でしたし。彼はご自宅で着付け教室をしているお母様とずっと湘南で暮らしてました。美人で魅力的なお母様だった。私たちは地元なので偶然ばったり会うことが何度かあって。……そして高二の夏、付き合い出しました」


「はぁ!? 無山と付き合ったぁ」

「嘘でしょ!?」

 皆、それぞれ最大級の驚きを表わした。真綿は腰を浮かしてのセリフ。右手を見ると菜箸でフライドポテトを食べていたようだ。全くもう!

「真綿。箸、箸」

「ん? おっと、わりぃ。いやだけどさ、無山と付き合ってたってマジで驚きだよね。最低な奴なんだろ?」

 真綿の言葉に実梨はハンカチを両手で握りしめた。


「無山くんは……彼は、一緒にいると穏やかで優しい人なんです。私なんかと違ってすごく頭のいい人なので自信家な面はあるかもしれませんが。彼のそばにいると危険はないんです。逆に守ってもらえる感覚があるくらい……」

「そんな訳はないよね。彼は実際、殺人を犯してる」

 真綿が冷たく言い放った。

 私でさえ不自然なおかしさを覚えた。実梨は無山を正当化しようとしている。

 恋心は軽々と理性を超えるがそれとはまたちょっと違う。実梨の怯えた顔つきから、例えば何と言うか洗脳に近い感じさえした。

「では、もし実梨さんが彼を裏切ったら?」

 伊織が意地悪な質問をする。

 実梨の顔は途端に青ざめていった。

「べ、別にそれは彼じゃなくても、誰だって怒ると思います。でも……無山くんの元へ戻れば、彼は……きっと許してくれると思います」


「実梨さん、何だかその関係、危険な香りがプンプンするわ」

 それまでお利口さんに話を聞いていた礼美が口を開いた。礼美は銀座で男女の恋愛事情をうんざりするほど見てきている。

 野心家な男、男性的で自信満々な男、子供っぽく甘え上手の責任感のない男は、共通して女好きする要素を持っている。どういう方面からかは違えども女心をくすぐるタイプなのだ。

 それに合わせ、プライドが高いともっと厄介なことになる。

 自分が頂点で世界が回ってると勘違いするため、わがままで思い通りにならないとキレやすい人格になるらしい。

 一緒にいても気持ちの休まることはないだろう。それが日常化し、周りにいる人間は振り回され徐々に疲弊していく。感覚は次第に麻痺していき、気が付いた時には常識とは程遠い世界の住人になっているのだ。

 ……そのようなことを含め、礼美は要約して言った。

「実梨さんあなた、まだ無山と関係続いてるでしょ?」


 答えは一目瞭然だった。ついでに一瞬、時も止まった。

「マジかぁ……なんでそういうことになる?」

 真綿が文字通り頭を抱える。

「私、私……わかりません。DGのサイトで自分の名前を見付けた時、気が動転してどうしたらいいか分からなくなりました。頼れる人は誰もいなかった。でも無山くんの側にいれば、もしかしたら助かるかもしれないと思ったんです。彼は人の生き死にまで左右出来るような、カリスマ性のある人です。……私、彼に手紙を書いてしまいました。そして、刑務所から返事がきました。彼は昔みたいに優しかった。普段は決して威圧的な人ではないんです。私は彼と付き合うしか選択技はなかった」

 実梨は泣いていた。涙は後から後から溢れてきて、止まらなかった。


「よくわかりました。話してくれて、ありがとうございます。ですが、無山と付き合ってハッピーエンドなわけがない。それをわかっているから実梨さんは今日、ここへ来たのでしょう? いくら優しげに思えても彼はどこまでも犯罪者です。実梨さんが添い遂げる相手ではありませんよ。無山の容姿と逮捕内容についても教えてもらえますか」

 伊織が優しくも厳しい口調で言った。それは有無を言わせぬもので、不安定な実梨を安心させる効果があった。


「容姿……、背が高くて痩せ型。黒髪です。以前は……白いシャツを好んで着ていました。それから、黒ぶちの眼鏡をかけていることも多いです」

 空中に漂う記憶を追いかけるようにして実梨は答えた。

「逮捕されたのは四年前の冬でした。見ず知らずの男性をいきなり刺して殺したんです。あとでわかったんですが殺された人は性加害の前科があって、それを繰り返している人でした」


 伊織は立ち上がり、おもむろに日の落ちた空を仰いだ。

 えっもう、謎解き!? 伊織はベンチ席へと歩き出す。ああ、まだ謎解きタイムではないようだ。

 仲良く眠っていたローマとミラノは伊織の気配に気付き目を開けた。彼はそばへ近寄りしゃがみ込むと二匹を優しくなでる。

 突然前触れもなくドンという爆音と、夜空を引きちぎるような音がした。

 まわりの店舗にいたテラス席の人々から歓声が上がる。通行人も立ち止まって、夜空を見上げた。

 頭上には満開の花火が幾つにも重なり、夜空をいろどり始めた。




────────────── DG vs ペット探偵




 丹精込めた花火がこの日のために打ち上がる。連続し、さらに大きく。

 しかしこの世の終わりと思うのか、どこかで犬が激しく吠えた。それに続くようにまたどこからか犬の声が聞こえてくる。

「音に怯えて、吠えたり逃げ出したりする子が時々いるんですよ。かわいそうに」

 ローマとミラノを撫でながら伊織がつぶやく。二匹はごろりと横になり、伊織の手に合わせ体をよじった。

 コットンカフェ界隈の飲食店はそれぞれ賑わいを見せ、客が花火見物に興じている。本日、花火大会の穴場と言えるテラス席はどこも埋まっていた。

 小さな子供連れの若い夫婦、浴衣姿のカップルや仕事帰りと思われるワイシャツ姿の男性たち、アロハシャツが馴染んでいる近所の老夫妻、年齢不詳の女子会の皆さん。

 携帯で花火の写真を撮る人たちもあちらこちらにいた。


 伊織は二匹をまだ撫でている。彼はうつろな表情で通行人のほうを見つめ言った。

「……ふみさん、ちょっとお願いがあるんですが」

「いいよん!」

 なぜ、真綿が先に返事をする? 

「うん。なあに?」

 私がグラスを片手に言った。礼美は肘をついて眠たげに見ていた。

「無山の姓名判断をしてもらえませんか。簡単で結構です。彼の性格や特徴を知りたいんです」

 伊織がこんなお願いを私にしたのは初めてだった。いつもならとっくに謎解きに入ってることだろう。だが、無山は普通の犯罪者ではない。私たちの想像をはるかに超えた遠隔殺人者だった。

 伊織の喜怒の少ない穏やかな素顔の下に、苦悩のようなものがこの時見えた気がした。


「もちろん大丈夫。すぐ観てみるね」

 私は店内へ入り、占い専用テーブルから姓名判断用の用紙を一枚取り出した。店内は冷房が効いていてひんやりと素肌に心地良い。

 無山恭也。

 私は名前の横にさらさらと画数を書き出す。簡単でよければ、あとは数字を見ながら喋ることが出来る。通常の依頼は、私が経験と研究で書き付けてきたノートを見ながら詳しく観させて頂くのだが。

 天格 十五、人格 十三、地格 十三 外格 二十三、総格 二十八。

 私の頭の中で、無山の名前が持っている数字たちの特徴が瞬時に当てはまった。

 この組み合わせでは運勢はこう動く。この数字は、今は影響がないが将来強く意味付けられるといった具合に。


 名前から性格や運勢などと思われるかもしれないが、生まれて物心がつく前から私たちは自分の名前と一緒に生きている。

 自分にそのような意識がなくとも周りはその名前で呼び、その名前で認識する。そしていつしか名前は自分そのものへとなっていく。ぼんやりしていても、自分の名前を呼ばれると細胞が気付くのだ。

 ある茶人は、陰陽五行で表現された茶室を宇宙だと言った。

 ある数学者は、数学で宇宙が解釈出来ると言った。

 私は名前が持つ数字と五行で、宇宙の欠片かけらである人を説明する。


「おまたせ」

 テラスのテーブル席へと着く。伊織もすでにテーブルにいてピザをおとなしく食べていた。レトリーバーの二匹は安心し、またウトウトと夢の中へ入っている。(犬も夢を見るんですって!)

「無山のことは何でも知りたいって感じ?」

「はい。この謎を解くには無山がキーワードとなるのは間違いないんです。ですが無山の人物像がまだ見えてきません。彼が刑務所に入ってまで、連続殺人を犯す動機。何か理由があるはずだ」

 伊織は現実と想像の中に紛れ込んだ思考に取り付かれ堂々巡りしたのち、観念して戻ってきたといったような顔をしていた。


「私の鑑定だと、無山恭也っていう人はね。……彼は生まれながらの表現者。聡明で多才、精神力もある。見た目も良くて華がある人物、どんな場所でも人気者になれるタイプ。まわりからもそう思われている。器用で、優秀。ん……集団生活がちょっと苦手かな。彼、頭の回転が速くて他人より優れている分、傲慢でプライドが高かったりはするんだけどね。普通に行くとエリートコースまっしぐらって感じ。でも……」

「でも?」

 礼美が繰り返す。さっきの眠たそうな表情はどこにも見当たらなかった。

「晩年が良くない。人生の要所要所でその運気は見え隠れしてるはず。ていうか、もうすでに刑務所の中だしね。突発的なトラブルが多くて、波乱の多い人生。優秀な人は嫉妬の対象になりやすいっていうのもある。……肉親との縁も薄いなぁ。自身の言動を改めないと将来は孤独よ」

「冷酷な連続殺人鬼だもの、当たり前じゃん」

 礼美の言葉に実梨が反応した。

「よく当たっていると思います。でもちょっと違う。彼は……彼はもっと人間味もある人です。優しいところも……本当にあるんです」


「そうね。実梨さん、まだ聞いてて。気になる点があるの。ここなんだけど……地格 十三、人格 十三。同じ字画が上下にあるでしょ。これを姓名判断では、縦同格というの。こういう同格現象があると災難や不運に巻き込まれやすい。運命に翻弄されてしまうのよ。だからそういう人って苦労してる分、人の気持ちがわかったりするはずなのよね」

 伊織はぼんやりと遠くを見る目つきで私の話を聞いている。

「伊織くん大丈夫? どこ見てるのかな。現実に戻ってこれそう?」

 私と礼美がクスクスと笑いを忍ばせた。



 その時だ。

 伊織の表情がわずかに変化した。いや、確実に変化したと思う。

 あの、例の謎解き段階に見せる顔。同じ人間なのかと疑いたくなるほどの自信溢れる顔だ。

 そして私たちを虜にしてやまない、ペットの登場だ!

「……なるほど。ふみさん、興味深い鑑定をありがとうございました。現実がここにあることを僕は忘れていたみたいです」

 伊織が私に微笑みかける。言ってる意味はわからないが私も微笑む。お役に立ててなによりです。

 そして私たちを応援してくれるかのように、伊織の背中越しで金色に輝く大輪の花火が勢いよく咲いた。


「この事件は、とても巧妙に仕組まれたものでした。DG、ドッペルゲンガーというオカルト的な現象を使って、自殺志願者と呼ばれる自殺予告サイトのリストに記された人々を不安の渦に招き入れる。実梨さんの話から全員が自ら希望した自殺志願者ではないと仮定すると、これは言わば計画的な殺人サイトに他ならない。リストに載った人々は自分の影、いわゆる分身を見る。あるいは人に分身を見られる。そして、見られたら死ぬというドッペルゲンガーの恐怖から精神をいたぶられ、変調をきたしていく。の狙いはそこにあります」

「きゃれら!?」

 真綿が真っ先に食いついた。全然言えてないし。どれだけ飲んだの? 顔、真っ赤なんですけど。


「はい。これは、無山恭也の名を語った悪の組織です」

「悪の組織って! 組織がらみだったっていうこと? じゃあ、じゃあ何?  無山は加害者? 被害者? どっちなの!?」

 礼美がミステリ好きらしい、上出来な反応を見せる。意識はもうそこにしかない。

 礼美は気付いていないようだが、自分で着付けた浴衣はそろそろ限界を迎えていた。ただ着崩れはうまい具合はんなり乱れて、またそれが隙をつくり礼美を色っぽく見せていたが。

「被害者と言えば、そう言えるのかもしれない。ですが殺人者であることは確かです。実梨さん、過度な期待はしないで下さい」

 実梨の複雑な想いを察してか、冷たくも感じる言葉で伊織は先に釘を刺した。

 涙は今では実梨の専売特許のようだった。深入りしてはいけない想いは昇天させてあげなければならない。ちゃんと、前へ進めるように。


「まずは一連のDGによる、不思議な現象の謎を説明しましょう。実梨さんが調べてくれた、ここ半年以内に自殺した四名に絞りますが……」

 私たちは伊織に注目する。花火の美しさ、音、歓声などはもう何も気にならなかった。

「一人目。マンションの四階、エレベーターを降りてすぐの通路部分から飛び降り自殺をした紺野健市という人物。彼の自殺は誰も見た人がおらず、謎に包まれています。遺書も何も残っていない。真夜中、ふわりと手すりを飛び超え亡くなった。もちろん警察では検視の結果が出ていると思いますが、例えばドラッグをやっていたとか、誰かと格闘して突き落とされたといった場合のような証拠らしきものは出ていません。出ていれば新聞にも載るでしょうからね。そうですよね、実梨さん」

 伊織が実梨に確認する。


「はい。新聞やインターネットはほとんど調べました。何も自殺めいたそぶりはなかったそうです。あ、両足首に微かに圧迫痕があったようですが、それは特に問題になりませんでした。……自殺の予兆もなく、逆に結婚まで秒読みの彼女がいたとかで幸せの最中だったんじゃないかと思います。自殺予告サイトのリストに名前があったのも、本人が知っていたかどうか怪しいです」

 伊織は「圧迫痕……」とだけつぶやくと、目を細め頷いた。


「次は二人目。R女子校の生徒、磯川彩奈さん。彼女は横浜駅構内で電車が到着した瞬間、自ら飛び込み轢かれました。彼女は友達と別れ、ひとりになった直後だったそうです。まわりにいた人から彼女が自分から突然駆け出し電車へ飛び込んだという証言があった。そうですか?」

「はい、その通りです。彼女のことも新聞の記事以上のことは特にわかっていません」

 実梨はメモを見ながら言った。


「三人目は、四十代後半の男性、島崎宏平さん。彼は運良く自殺を免れた。変な言い方ですね。ですが橋の下に勇敢なホームレスがいなければ、他の自殺志願者同様亡くなるところでした。彼の話を聞くことが出来たのは本当にラッキーです。真実を聞けるということは、確実に真相に近付ける」

 伊織はそう言ったが、彼の頭の中ではもう事件はほぼ解決してるに違いない。

 きっと伊織は私たちをらせ、今や脳内に散らばるパズルピースを当てはめたことへの快感を楽しんでいるはずだ。名探偵たちの悪い癖を伊織もご多分にもれず引き継いでいた。

 私はその時、無山を思い浮かべた。彼と伊織はたぶん同じ匂いがする。

 同じ種類の人間。善か悪か、その差に過ぎない。いや、もちろんそれが大きな差ではあるが。

 殺人事件などパズルゲームの一つとでも言うみたいだった。覚醒した伊織は残酷なまでに、死の残照ざんしょうを確かに楽しんでいた。


「島崎さんはリストに自分の名前があることを知って、自暴自棄になりました。かなりお酒を飲んだ後、酔いを覚ますつもりで橋を歩いて帰宅した。川から橋までは高さこそありますが、郊外にある素朴な小さな橋です。古い街灯がまばらにあるだけで夜は薄暗い橋なんです。深夜だったため、この時人通りはなかったようですが、普段日中は通学や通勤でも使用されている人々に馴染みのある橋です」

 実梨は自分の足でつかんだ情報を披露した。

「そして橋の中程まで渡ったときに突然、車が島崎さんのほうへ突っ込んできたそうです。島崎さんは逃げ切れず、とっさによじ登った手すりからバランスを崩し落ちてしまった。ですが警察に調べてもらったところ、その時間帯、付近のコンビニの防犯カメラの映像には車は一台も映っていなかった。なので彼は自殺などしていないにも関わらず、信じてもらえなかったそうです」

 実梨の情報に私たち(伊織以外のね)は首をひねった。


「そして、四人目の犠牲者が……岩乃麻弥さん」

 伊織が重々しい口ぶりで言った。麻弥さんが亡くなった経緯は私たちには分かりすぎていた。

 麻弥さんは無山に遠隔で精神をコントロールされて、無残にも自殺に追い込まれた。幼い子供をこの世に残し、麻弥さんはひとり死んでいったのだ。

 もしかすると最後まで無山を信じていたのかもしれない。偏執的へんしゅうてきな手紙に惑わされ、儚い夢を見たのだろうか。


「以上、四名の当時の状況が今、僕たちに提示されました。これが謎の全てです。どなたか真相がわかった方はいますか」

 くぅ、なんて意地悪なの。伊織くんってこんなにドSだったっけ?

「ああっ!!!」

「こ、この謎の真相はー!」

 私は真っ赤な顔で人差し指を立てる真綿を押さえ込み、口を手で封じる。ばかなの、この酔っぱらいめ。

「伊織くん降参。みんなもそうよね?」

 私は「こうさーん!」と叫ぶ真綿をさらに羽交い締めにしつつ、ふたりに聞いた。不安げな実梨と渋々の礼美が頷く。


「先程、僕はふみさんに現実に戻れるかと冗談で聞かれました。僕はその時、推理という名の迷路に迷い込んでしまってました。想像が深く現実を飲み込み、何ともいえない奇妙な現実感を味わっていたんです。そこから引き戻された時、もしかしたら無山の現実とはこのような感じなのかもしれないと思い付いた。例えるとしたら……VR」

「ブィアール? またアルファベットかよー」

 真綿が一気に萎える。

「ええ。ヴァーチャルリアリティ、仮想現実です」

「仮想現実!?」

 私と礼美の声がハモった。これは一体全体、意味不明な。

「仮想現実とは、現実そっくりな仮想の世界。人間の五感を含む感覚を刺激することによって得られる、人工的な現実感のことです」

「伊織くんはまったく小難しいわね」

 礼美である。


「すみません。……彼は刑務所内での生活を余儀なくされています。彼の現実とは、刑務所。実梨さんや一般の人々と関わることは出来ないに等しい。そこで彼は、脳内で想像するんです。人と交わること。人を愛すること。人を殺すこと」

「その発想はぞっとするけど。でも、想像で人を殺すことは出来ないわよ。いくら無山でもね。超能力でも使わない限りは」

 私の言葉に伊織が喜ぶ。正確には唇の端を得意そうに歪めただけだけど。

「超能力なんてまさか。……彼はきっと、ずっとそうしてきたんです」

 伊織はそう言うと、ほんの少し悲しげな横顔を見せた。


「この事件の発端は、DGという怪しげな自殺予告サイトにあります。このサイトは何のために必要なのか。誰が利益を得るのか。利益と言っても、金銭に関わることではないと思います。麻弥さんや実梨さんがリストに載ったことを考えると、金銭というより無山に関わることと考えたほうが自然なんです」

 礼美が口を尖らす。

「じゃあ、無山とその一味が連続殺人を犯してたってこと? でもどうやって。まさか無山が手紙で一味のやつらに指図してたとか? スパイ映画じゃあるまいし、きっと手紙も刑務所で検査されたりするわよね」

「もちろん手紙の検査もあるでしょうし、殺しの指図をしたところで誰が簡単に人殺しなどしてくれるでしょうか」

 伊織は礼美をかるく一瞥いちべつして言った。


「まあね。そうだろうと思ったわよ。じゃあ、一体何なのよ。犯人も動機も殺害方法も全くわからない。結局、自殺でした……ってことになるんじゃないの?」

 礼美が頬を膨らませながら伊織に詰めた。

 確かに礼美がそう言いたくなるのも理解出来る。真綿など、もうコクリコクリと船をこぎ始めてるじゃないの、こらー!

「VRというのは、無山的思考の模型モデルなんです。回りくどく、とても緻密な。彼はこの思考方法で今までずっと人を愛し、人を殺してきた。僕も彼のやり方でこの謎を考えました。そうすると、静かに見えてきたものがあります。……謎を解明します」

 伊織は有無を言わせぬ沈黙を強いた。



「まずはマンションの四階から飛び降り自殺をした、紺野健市さん。彼はエレベーターで四階まで行き通路へ歩き出してすぐ、自らの意思で飛び降りたかのような殺害をされました。彼はどのようにして殺されたのか」

 礼美がグラスにあと僅かのビールを飲んだ。喉の奥でゴクリと音がした。

「この犯罪は組織的なものです。一人では決して成しえない。彼は犯人に突き落とされました。しかし成人男性が暴れもせず、マンションの手すりからやすやすと突き落とされるものでしょうか。考えられる殺害方法は、この場合……紺野さんが手すりから深く下を覗き込めば、犯人はだけで簡単に突き落とすことが出来るというやり方です」

「簡単にって!? そんなことが……犯人はマンションの通路でずっと待機してたってこと?」

 礼美が慌てて口を挟む。


「いいえ。紺野さんが帰宅する時に一緒にマンションに入り込む。そしてエレベーターに一緒に乗り、一緒に四階で降りる。それだけです」

「それが出来たとしても、どうやって下を覗かせる?」

 真綿も黙ってはいられない。

「紺野さんには結婚間近の婚約者がいたとか。例えばその人が、下から紺野さんを呼んだら……どうでしょうか。普通、手すりから下を覗き込みませんか」

「じゃあ、婚約者がDGの共犯者なのかっ!?」

 いやいや真綿、それはなんだか違う気がするよ。

「例えばです。誰が声掛けしてもいい。人は思うより、自分の名前に敏感です。……犯人はあとで説明することにしますね。まずは殺害方法からです」

 あー、焦らすなぁ。


「共犯者は婚約者のふりをして、マンションの下からを紺野さんに聞かせました。録音した声でいいです。その言葉は、紺野さんの名前だけで充分だと思います。静かな夜中でしたら四階だとしても声は届く。そこで、手すりから深く下を覗き込む紺野さんに対して、後ろにいた犯人がすぐさま両足を持ち上げ落下させたのです。両足首の圧迫痕も説明がつきます」

「シンプルな犯行なだけに簡単に出来そうな気はするけどね。気だけね」

 これは私。伊織がちらりとこっちを見た。



「次は女子高生が、横浜駅で電車に飛び込んだ事件です。この事件には目撃者が周りにいたそうです。その人たちによると、電車を見て駆け出すようにして飛び込んだと。彼女は本当に自分から飛び込んだのでしょうか。これも例えばですが、線路の向こう側に何かを見たとしたら……どうでしょう。何かとは、もちろん自分自身です。自分の分身を見たと仮定して下さい」

「あっ」実梨が言った。

「磯川彩奈さんは電車が来る直前、線路の向こうにふいに現われた自分の分身を見た。彼女は今時の女子高生で情報弱者ではありません。DGのサイトについても必ず知っていたと思います。友達の間でも、当然噂になっていたのではないでしょうか。彼女は自分を確認してしまった。犯人の共犯者が、磯川さんそっくりに扮していたんです。真正面からでなく雰囲気でも似ていれば、人は惑わされる。マスクや帽子も普段からしていればその人の特徴になるんです。骨格が似ていれば、女性はメイクで限りなく寄せることも可能ですしね。……驚いて思わず身を乗り出した瞬間、後ろにいた犯人が彼女を線路へ突き飛ばしたんだ」


「犯人の共犯者が扮した自分そっくりの雰囲気に惑わされたなんて……。じゃあ、自分で自分自身をはっきり見たっていう人は?」

「それは、きっとポータブルプロジェクターを使用したんでしょう。今はコードレスのとても小さいサイズのものが売られてます。ちょっとした壁があれば、野外でもどこでも映せますし。それまでに自分の分身を人に見られてる。自殺志願者としてリストにも掲載され、疑心暗鬼になってるところに突然ぼんやりとでも自分の姿を見たら、身の毛もよだつと思いますよ」

 必ず、犯人は近くにいる。DGのリストに載った自殺志願者を狙って。



「三人目の被害者、島崎宏平さん。彼は幸いにも生き残った自殺志願者です。彼の場合は特殊でした。無事、助かったからです。そのおかげで真相に近づくことが出来たと言ってもいいでしょう。彼に話を聞いてくれた実梨さんに感謝します」

 伊織からの思いがけない言葉に、実梨は慌てて恐縮するそぶりを見せた。

「その日島崎さんはかなり酔っ払い、深夜歩いて橋を渡っていました。古く小さな橋。たぶん、車一台分が通れるくらいの幅だと想像出来ます。そして橋の中程のところで、彼は存在しない自動車に突進されて川へ落ちた」

 私たちは全く声も出ない。存在しない自動車……、そこにはどんなトリックが隠されているのか。

「彼は間違いなく車と言ったんですね、実梨さん?」

「はい。間違いないです。そう言いました」

 伊織は改めて実梨に確認すると満足そうに頷いた。


「彼は確かに車だと思ったんですよ。……そののことを」

「えっ、自転車!?」

 私たちが揃い踏みして言う。

「はい、普通の自転車です。なので付近の防犯カメラの映像に車は映ってなくても、自転車は映ってるはずですよ。二台、ちゃんとね」

 二台って? どういうこと!?

「深夜の暗い夜道。遠くから二台の自転車が並行して走って来る。……想像して下さい。今はかなり明るめのライトを自転車に取付けてる人たちがいますが、たまに勘違いして車が向かって来てると思ったことってないですか?」

 あーそう言えばあるかも。車のライトと同じくらいの車幅で、自転車を並行して乗ってる人たちって紛らわしい。

「あるわ! 私この前あった! 先週の夜中ね、街灯の下で自転車のサドルだけいやに高く調節して、乗ってる男の人がいたんだけど。薄暗くて遠目だったから、頭の部分しかはっきり見えなくて自転車が見えなかったの。私、人が馬に乗ってるのかと思っちゃった!」

 礼美ちゃんったら、その勘違いはないわぁ。


「礼美さん、貴重な体験談をありがとうございます。そうです。人の脳は簡単に錯覚してしまい、テーブルマジックでよく行われるように目の前で起こる事象も自分に都合のいいように勝手に置き換えてしまうんです」

「いやいや、だけどさすがに車と自転車くらいの見分けはつくだろ。いくら深夜飲み過ぎたとしてもさ、普通」

 この手の錯覚に関して一番怪しい真綿が、伊織にもの申した。

「はい。そうですね……普通は」

「え、じゃあ、どうして」

 伊織はうつむき、携帯の画面に指を滑らせ何かを検索している。

「……脳が騙されるように仕掛けられたからですよ」

「仕掛けられた!?」

「あ、これだ。はい、そうです。えっと皆さん。クロスモーダル現象ってご存じでしょうか?」

「……」

「……」

「……知ってる訳ねーし!」

 真綿が思いっきり伊織に裏手ツッコミを入れた。


「すみません。えっと……そうですね。例えば、風鈴を見て風鈴の音色を聞くと涼しく感じたりしませんか」 

「うん。それはするかもね」

「ふみさん、まさにそういうことなんです。人によっては風を感じることもあるそうです。視覚、聴覚など五感のいくつかを刺激することにより、他の感覚を補う現象のことなんです。島崎さんは橋を歩きながら帰宅していた。そうすると、橋の反対側から一台の車が現われる。それはスピードを増し、島崎さんを轢き殺しそうな勢いだった。……実際には並行する二台の自転車が眩しくライトを点灯し、猛スピードで近づいて来ただけのこと。ただ臨場感ある車のを響かせながらですが」

「えー、そんなトリックで?」

 島崎さんはお酒を飲んでいたので、もちろん普段より騙されやすい状況だったのかもしれない。

 彼は眩しく光る二つのライトとエンジン音を聞き、瞬間、本物の自動車と思い込んでしまった。そして避けようと思わず手すりによじ登り、そのまま落ちてしまったのだ。


「そっか、考えたものね。で、犯人は一体誰な……の、あっ」

 礼美は言葉の途中だった。

 伊織が立ち上がろうとテーブルに手をついた時、手に触った箸と小皿が地面に転がり落ちた。すぐに屈み、拾おうとする。

「すみません。やってしまった。実梨さんと真綿さんの足下に箸が……」

「はい」

「おっ、こっちにもか」

 三人はしゃがんで拾い出した。


「大丈夫?」

「ふみちゃん。箸と小皿、追加で持ってきて」

「はーい」

 などという飲食店にありがちなトラブルの後、私たちは改めて席に着いた。

「すみませんでした。僕は不覚にも動揺してしまったみたいです」

 伊織がなぜか得意顔で謝る。

 その顔、なんかおかしいよね。

 あ、でもこの流れは……例の、いわゆる謎解きタイムかもしれない!



「皆さん、お待たせしました。僕は無山の思考方法で考えると言いましたね。そうすると、自然にの卑劣な犯行が見えてきました」

 真犯人!? 

 伊織の右手の人差し指がゆっくりと天を向いた。気を集めるかのような集中の動作。いつもの謎解きクライマックスの合図だ。

 その時だった。

 ベンチ前でおとなしく眠っていたベージュの二匹がふわりと耳を動かし、ムクムクと同時に起き出す。そして凜々しい顔を伊織に向けて、美しいお座りをした!

「どしたー?」

 真綿も声を上げ、伊織以外の私たち四人は犬たちの反応に驚く。

 ちらりと二匹を見た伊織は無表情で指を下げ「フセ」と一言。二匹は何事もなかったようにその場に顎をつけ、またペタリと寝そべった。


 なるほど。謎が解けた。

 伊織が毎回謎解きの際に見せる指を立てる行為は、犬へのお座りのコマンドだったのだ。伊織の集中が極限へと達すると、無意識に出てしまう可愛らしい癖なのかもしれない。 

 まぁ、そんなことはこの際どうでもいい。それよりも、真・犯・人!

 伊織が気を取り直し瞳を閉じる。息を吸い、酸素を脳へ送り込む。

 瞼をゆっくりと開ける。その瞳には、すべてを見通す輝きを放っていた。



「改めて、解明します。この事件は理解不能な狂人による、至上最低な連続殺人事件です。人を殺さなくては気が済まないシリアルキラーによる身勝手な快楽のみの犯行なのです」

 今の伊織の発言で、すでに私たちはたじろいでしまう。

「無山を遙かに上回る、悪の思考の持ち主です。悪の根源と言ってもいい。自分の欲望のためだけにDGサイトを運営し殺人リストを作った。そのリストの人物は全員無山に関係のある人々なのでしょう。リストを公開することによって、無山を奮い立たせ思い出させようとした。破壊の連鎖をね」

 私は途中から意味がわからなくなってきた。破壊の連鎖とは何かしら。

 真綿を見るとキョロキョロと通りを見てばかりだ。きっと真綿もついて行けてないのだろう。


「一連のシリアルキラーによる犯行。……連続殺人犯の真犯人とは、無山恭也のです」


「えっ!? 嘘よ。そんなの信じられません!」

 実梨が驚いて伊織に言った。

「無山くんのお母様は、着付けの先生をされていて、とても上品で素敵な方なんです。先生のファンも多くて、熱心なお弟子さんもいらっしゃるくらいです。シリアルキラーなんて馬鹿げてます。ありえない。無山くんのことに心を痛めていて、殺人とは一番縁遠い位置にいらっしゃる方だわ」

 伊織は実梨にどう言えば理解してもらえるか、悩んでいるようだった。

 確かに私たちも連続殺人なんて怖い事件の黒幕が、女性のしかも上品な着付けの先生だなんてちょっと想像を絶する。

 伊織は続けた。


「紺野健市さんがマンションから突き落とされて殺されたとき、下には着付け教室の熱心なお弟子さんがいて、指示された通りに動いていたんだと思います。弟子というよりは信者と言ったほうがいいですね。シリアルキラーを崇拝している悪の信者です。彼らは魅力的でカリスマ性のある無山の母親を畏怖崇拝し、犯罪に加担していた。ですが、実際に手を下したのは母親だけでしょう。信者は彼女の駒にすぎない。彼女は殺人という行為を欲し、人を殺さずにはいられないんだ。……狂気に満ちている」

 伊織が激しい憎悪をにじませた。


「彼女は、和服姿の楚々とした美女なのでしょうね。もしも、エレベーターで一緒になったとして警戒する人間がいるでしょうか。紺野さんも同じです。彼女はエレベーター内の開閉ボタンの前に立ち、紺野さんを先に降ろした。外から信者によって紺野さんに名前を聞かせて、手すりから下を覗かせる。殺人鬼はそこでいきなり両足を持ち上げ、突き落としたんだ」

「でも紺野さんが自分を呼ぶ声に気付いて下を覗いたとしても、女性が男性の足を持ち上げることなんて出来るかしら。男の人って痩せていても結構体重あるでしょう?」

 礼美が納得出来ずに聞く。


「礼美さん、彼女は……心の底から狂ってるんですよ。異常な精神状態なんです。その怪力はまさに火事場の馬鹿力のようなもの。通常、脳は勝手にセーブするため、八十パーセントほどしか機能しませんが、快楽時はリミッターが外れ百パーセント以上の力が出る。彼女の場合、殺人行為によってアドレナリンが噴き出すんだ。無山の母親は自分の中に湧き起こる強い欲情を満たすためだけに、人を殺すんです」


 恐ろしい欲は殺人行為を繰り返し、そこにはもはや動機という概念さえない。それは自然に生まれ、着実に蔓延はびこっていった。私たちの周辺まで、何食わぬ顔をして。

「無山くんも……そうなんですか?」

 実梨は静かに涙を流していた。

 私は胸のつかえを取ることが出来ず、何も言えない。

「無山は母親とは根本的に違います。彼は母親の凶悪な遺伝子を受け継いではいなかった。彼はただ……運命に翻弄されたんです。ですが、麻弥さんを遠隔で自殺に追いやったのは無山に間違いありません」

 伊織は私の占いを黙認するように、あえて翻弄という言葉を使った。無山は太刀打ちできなかったのだ。強い宿命に操られる悲劇から。

「実際、無山には殺人の動機が二つあります」


「ふたつも!?」

 真綿ったら、もう少し小さな声でお願い。

「はい。彼は幼少の頃、すでに殺人を犯してますよね。以前、実梨さんが子ども時代の秘密を教えてくれました。その後もことあるごとに殺人を行っていたはずです。彼は試され、そして受け入れた。無山が大人になった時に見えた景色は絶望と、そして実体のない仮想現実でした。動機の一つ目は、愛。彼は、悪魔のような母親に愛されるために人を殺し続けたのです」


 歪んだ愛情を、そうとは知らず受け入れた過去の断片。それは吐き気を覚えるほどの悪夢だったに違いない。

「母親が子どもに殺人を強要したってこと!? それって子どもに対する虐待よね! どんな理由があったとしても正当化出来ない。人として、絶対に許せない!」

 礼美が激しくいきどおった。噛みしめた唇が赤い。

 伊織は今もなお無山的思考とやらで、旅を続けているのか。暗い瞳の中の真実は、私の想像をはるかに超えていた。


「虐待というより、悪の英才教育と言ったほうが近いのかもしれません。悪魔が与えた歪んだ愛情はそちらの世界では正常なのです。彼は母親の喜ぶ顔が見たくて、ただ殺人を犯した。……僕はずっと前に似たような光景を見たことがあります。洋服屋で子どもに万引きをさせている母親がいました。子どもは商品を盗めば、お母さんに褒めてもらえる。もし見つかっても、母親は子どもが勝手に持ってきた……と言えば済むと思っているのでしょう。ですが子どもの気持ちを考えると、僕は未だに胸が苦しくなります」

 伊織は来る気配のない夜明けを待つような暗い表情で言った。


「二つ目の動機は、大切な人を守るため。実梨さんと麻弥さんは、無山の唯一の幸せな記憶です」

「じゃあ、なぜ麻弥を殺したの!!」

 実梨が取り乱した。涙が乾く間もなく、また溢れ出す。

「……わかりません。実梨さん、すみません。ただ無山には無山の、何か法則のようなものに従って、麻弥さんを死に向かわせたのだと思います」

 謎解きの途中、めずらしく伊織の顔に疲労の陰が見えた。彼の精神は異常犯罪を追い詰め、疲れ切っていた。

「無山には大切な人があと一人います。……母親です」

 子どもはどこまでも母親を愛する。それがいくら異常な母親だとしても。


「彼は大人になり、常識と相反する母親との間で悩み苦しんだ。それでも母親を見捨てることが出来なかった無山は自ら刑務所へ入り、母親と距離を置くことにしたんです。その事件が、きっと現在服役中の殺人の罪。連続性犯罪者を殺して、自ら逮捕されました」


「無山はわざと逮捕された……。それなのに、母親は今もまだ無山に殺人をけしかけてるの? 彼の知り合いばかりを狙って、興味をそそらせ誘惑してるんだわ。無山に犯罪を強要してるんでしょ?」

 伊織はそう言った私に向かって、少し微笑んだ。

「ふみさん、その通りです。さすがですね。無山はVRという独自の方法で、自分で狂気から逃れるすべを覚えた。現実の殺人行為を、リアルではない架空の現実で人を殺したと思い込むこと。自らの精神をコントロールすることで、彼はかろうじて狂わずに済んだ。それなのに母親は異常な正義を振りかざし、息子を甘美なる殺人へと誘惑している。今現在も。殺人を継承する遺伝子。遺伝子レベルの執着。呪われた輪廻りんねなんだ」


「私、耐えられません!! もう失礼します!」

 突然、実梨が立ち上がりバッグを掴むと人のまばらな通りの中央へと駆け出した。私たちは驚き、一瞬動けない。事件を解決するどころか、実梨を怒らせてしまった。

 伊織は追いかけようとする私の腕を掴み制止させる。

「だめだ。ふみさんはここにいて」

 真綿も私を抱き寄せ、イスに座らせようとする。

「どうして! 追いかけなきゃ! 実梨さん、あのままじゃ……」

 私の声が真綿の胸板にかき消された。


 伊織がベンチ席へと歩み寄る。ローマとミラノがすかさず身を起こした。するりとリードを引き、二匹に視線をやる。

 立ち並ぶ店舗のテラス席こそ人で賑わっているが、花火が終わりの気配を迎えている今、通りにはほとんど人の流れがなかった。

 伊織が二匹を連れ出し、通りまで出る。実梨の後ろ姿を見つめた。

 その時だ。

 真綿は抱きしめていた私を放り出し、なぜかいきなり通りの反対側へ駆け出して行った。えっ、なんで!?

「ロー、ミラ! 今だ、行けーー!!!」

 伊織が実梨の方向へ大声で叫び、何かを投げる。

 二匹はベージュの長毛を優雅に揺らし、ものすごい速度で嬉々として何かに向かって走って行った。



 この時のことは後で思えば走馬灯のように、ゆっくりとした感覚で思い出せる。だけど、その瞬間の出来事はおかしな夢のように私を混乱させた。

 事件性を察知したのか、何やら懐かしい走りのフォームで二匹を追う礼美もいた。

 彼女は中学時代、陸上部の短距離走で活躍していた。ポニーテールをなびかせ、美しい白馬のように気高く走る姿を私はよく教室の窓から見ていた。

 そう言えば、パソコンの時間。礼美ちゃん、ダブルクリックに苦戦してたなぁ……なんて一瞬のうちにそこまで思い出した気がする。


 実梨の後ろに、浴衣姿のカップルがぴたりと寄り添った。先程まで喫茶店のテラス席で花火を観ていたカップルだと思う。

 伊織の投げたものがカップルに当たりそうになる。男の方が振り返った。

 その後ろから大型の愛らしい二匹が猛突進を続けている。

 二匹は伊織の投げたもの(どうやら、あれは犬用のボールらしい)を追いかけ、カップルへ向かって高くジャンプした。

「きゃー!」

 その騒動を見てた人たちから悲鳴があがる。

 私も夢中で追いかけた。ただ、浴衣と下駄では限界があった。ローマかミラノのどちらかが男へ突っ込んだ。

 その懐から何か落ちる。その直後、タッチの差で到着した礼美が身をていして何かに覆い被さる。

 カップルは酷い形相で逃げる姿勢を見せた。


 追いついた伊織が、男のほうへ掴みかかろうとした。

 その時。

 近くにいた若いサラリーマン風の男性ふたりが伊織の加勢に入る。

 ここからはあっという間だった。

 浴衣のカップルは腕に覚えのある助っ人の男性らに取り押さえられ、その後すぐに真綿が交番のおまわりさんを連れて来たのだ!


 身を挺してうずくまり何かを守っていた礼美は、サラリーマンの一人に手を差し出され起こしてもらっている。

 そして同じく騒動に巻き込まれ突き飛ばされてしまった実梨も、もう一人の若者に手を差し出されていた。

 その男性は言った。

「……水河実梨さんですね。お怪我はないですか?」





 本日、大活躍したローマとミラノは真綿からご褒美のおやつをもらい、またベンチ前でおやすみしている。

 私たちはコットンカフェの店内で涼むことにした。礼美は着崩れてひどい有様だし、私たちも全員汗だくだった。

 あの騒動のあと、浴衣のカップルは警察に連行されて行った。

 例の助っ人男性ふたりによる彼らは実梨を狙っていたという証言と、礼美が命がけで守った浴衣の男の懐から落ちたが物的証拠となった。


 助っ人らの話によると、あのカップルは無山の母親の手先で今夜人気のない場所まで実梨を誘導する役目だったそうだ。

 もし伊織が気付かないまま実梨を帰していたら、実梨は今頃、無山の母親に殺されていたかもしれなかった。想像するとぞっとしてくる。

 でもなぜ真綿はあんなにタイミング良く、警察を連れて来ることが出来たのだろう。


「伊織さん。さっきの私、どうでした?」

 実梨が微笑みながら伊織に聞いた。

 なんのこと?

「実梨さん、完璧でした。真綿さんも僕が思ってた以上にタイミングばっちりでしたよ」

「思ってた以上って何だよー。俺だってまだまだイケるって」

 三人が嬉しそうに笑い合う。


「ちょっと、どういうこと!? 何なのよ。三人だけで通じる話して」

 傷だらけの礼美が、足を私に預けたまま怒っている。とっさの判断で下駄を放り投げ、裸足で駆け出して行った礼美の足に私は絆創膏を貼ってあげていた。

「あっ、ご心配をかけてしまってごめんなさい。……実はさっき、私が怒って出て行ったのはだったんです」

 実梨が驚きの告白をする。

「演技!?」

 私と礼美は同じくらい目を丸くした。あんなに心配したのに、なんてこと!


 急いで、伊織が説明する。

「礼美さん、ふみさん、本当にすみませんでした。実は僕がお願いしたんです。どうしても今夜、真相を突き止めたくて。犯人グループを捕まえるには、あの時実梨さんに協力してもらうしか方法がなかったんです。花火の途中で、斜め向こうのテラス席にいた浴衣のカップルが怪しいと気付いたんですが確証が何もなかった。そこで僕が小皿を落とした時に、テーブルの下で実梨さんと真綿さんにお願いしました。真綿さんには警察を呼びに行ってもらい、実梨さんには一人で帰る演技をしてもらったんです。予想は当たりました。ただ……まさか実梨さんが、ずっと無山に守られていたとは気付きませんでしたが」


 そうなのだ。

 私たちは今日、驚きの瞬間に何度も立ち会っていた。

 その中でも信じられないような出来事があった。あの最後の見せ場で登場した、サラリーマン姿の男性二人。彼らは無山をカリスマとして活動している熱烈なファンだったのだ。

 無山の母親の信者とは、真逆の位置にいる無山の支持者。彼らもまた組織化され、無山の指揮のもと行動していた。

「あの人たちは無山に指示されて、実梨さんをずっと母親から守っていたのね」

 礼美がしんみりと言う。

 伊織も続けて言った。

「車に轢かれそうになり川から落ちて、水泳の上手なホームレスに助けてもらった島崎さんですが……僕は、そのホームレスがあの彼らだったとしても全く驚かないですね」 



 通りの店舗が終了時間となり、ぽつりぽつりと灯りを消していく。

 真綿の瞼も今にも閉まりそうだ。

「伊織くん。なぜ、あの浴衣のカップルが怪しいと思ったの?」

 私の質問に伊織が少し恥ずかしそうに答える。

「これと言った理由が特にあるわけじゃないんです。何というか……勘みたいな」

「でも、何かきっかけくらいはあるんじゃない?」

 伊織が首を傾げる。

「……そうですね。あ、彼らは携帯で写真を撮っていたんですが、なぜか花火じゃなくてこちらを撮っていたり。あと、……浴衣がちょっと」

「ん? 浴衣が何?」

 伊織が私と礼美を見て、気まずそうな顔をした。


「あの、浴衣が、違うなって……」

「え、どういうこと?」

 とっくに謎解きモードから、通常の草食モードに切り替わっている伊織を問い詰める。

「はい。あの……浴衣が、違うなって」

「うん。それはわかったから。浴衣の何が違うの?」

「……あのカップルの浴衣は、時間が経っても同じだったんです。でも、ふみさんや特に礼美さんの浴衣は、時間が経つと段々……」


 このまま伊織に喋らせていてもらちがあかないので私が代弁する。

 伊織が言いたかったのは、カップルの浴衣の着崩れ方が私たちの浴衣とはまったく違ったらしい。向こうは時間が経っても、和装のモデルさんみたいに綺麗なまま。

 こっちは温泉旅館で目を覚ましたときの室内浴衣のような、寝起きの着崩れ方だったそうだ。(そこまで酷くないと思うけど!)

 もし無山の母親が着付けたとしたら、あんな感じなのではと思ったらしい。

 だが美容室で浴衣を着付けてもらう人だってたくさんいるのだから、そんなことぐらいで犯人を断定した伊織はやっぱり凄すぎる。

 私たちにはわからない、特別な名探偵の勘が存在するに違いない。


「ちょっと伊織くん。そんなのひどい! 私だって実梨さんのために、必死で走ったの。走ったりしなかったらもっと綺麗だったはずよ」

 今度は腕に絆創膏を貼られながら、礼美が今にも泣き出しそうな顔をして言った。

 みんな、わかってるよ。礼美ちゃんが必死で頑張ったこと。

 礼美は決定的な物証になるナイフを確保したんだもの。

 そうじゃなかったら、あのカップルを警察へ突き出すことなんて出来なかった。ひいては無山の母親なんて到底逮捕出来ない。

 礼美の手柄でカップルは自供するだろう。身勝手な悪の根源に、忠誠を誓うなんて馬鹿げている。

 シリアルキラーが逮捕されるのはもう時間の問題なのだ。


 伊織が礼美を見て、小声で優しく言った。

「今日の礼美さん……世界中で一番綺麗でした。僕、一生忘れません」

 礼美の頬が淡く染まる。

 その表情は懐かしくてあどけない中学生の礼美だった。頑張り屋さんで、可憐な礼美の顔だった。




────────────── エピローグ




 殺人的な暑さがかげりを見せ、夏が終わりを告げようとしていた。

 実梨は白い封筒を手に取る。

 無山恭也からの手紙だった。



*******



  実梨へ


お元気ですか。


君も知っているとは思いますが、母が逮捕されました。

現在は精神病院にいます。

彼女はやがて発狂してしまうでしょう。僕はすべて受け入れるつもりで覚悟をしています。

母のことでは、君にも大変迷惑をかけました。

申し訳なく思っています。


出来ればここで麻弥について少し書きたいと思う。

僕と麻弥は大人になり、手紙の交換で交際をしていた。彼女は誰かに頼らないと生きていけない人だ。

だが母はそのことを知り麻弥をDGリストへ載せ、殺す準備を始めた。母は昔から僕と親しくする人間を激しく嫌う。表向きにはわからないが。


麻弥はもともと心を病んでいた上に、嫌がらせを受け神経衰弱に陥った。

彼女は君が思っているよりも病気が悪化していたんだ。麻弥の息子の命さえ、危ぶまれる精神状態だった。

僕は幼い頃の自分を思い出した。悲しい愛情の記憶しかない。麻弥はいずれ息子を手に掛けてしまうだろう。

僕は見過ごすことが出来ず、手を貸してしまった。


これからも僕はここで罪を償うつもりだ。

実梨。

僕は君が思っている以上に君のことを知っている。

ずっと君を想像し、愛してきた。

瞳を閉じれば、これからもすぐに逢える。

ただ、まぶたに浮かぶ君にはずっと影がなかった。きっと実体がなかったからだね。


でも、もう違う。僕の精神は信じられないほど落ち着いている。

君の優しい心が見える。

僕は君の影までも今は見えるんだ。


ありがとう。

実梨、愛してる。


そして、さようなら。



                         無山恭也


*******



 実梨は手紙を胸に抱いて、子どものように泣きじゃくった。

 大粒の涙がこぼれては落ち、実梨の頬を濡らす。


 遠い記憶。

 幸せだった頃の三人。

 もう二度と触れ合うことさえ出来なくなった。


 でも瞳を閉じれば、いつか――。

 眩しい笑顔の君に逢うことが出来るだろうか。





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