{リンタロー様を、放すのです!}
ぷっぴゅん!
スライム化したイリスが、
「ふんっ」
{あっ……}
勢いよく振り払う
イリス 《スライムの姿》 は、ぽにゅんと床に落っこちた。
{もう! 許さないのです!}
イリス 《スライムの姿》の攻撃、再び。
だが、またしても、あっさり振り払われてしまう。
「義によって助太刀いたすのじゃ!」
アルバーロ教授が、
ぽかぽか殴られているのをまったく気にせず、
「お父さま…… リンタローを放してくださいませ!」
「…………」
沈黙で応じる、
俺の
いま俺は、
いつまで、もつか……
声さえ出せたら、自分の服を 《分解》 して脱出できるんだが…… ん? まてよ。
たしか、魔族は呪文を唱えなくても魔法を発動できる。日常的に生活魔法を使っていることによる慣れと、豊富な魔力のなせる技だ。
俺も錬成陣なら、同じようにイメージだけで描けたりしないかな……?
よし、やってみよう。
俺は上着に意識を集中させる。声には出さないが、やりかたはいつもと同じだ。
―― 《分解》!
魔力が上着に向かい、錬成陣が浮かび上がる…… 布が、しゅるしゅるほどけていく。
「な…… なにごとだ!?」
床に両手をついて衝撃をやわらげ、大きく息をする。
―― 助かった…… 成功だ……
「うがぁぁあああああああっ……!」
とつぜん、
人間とは思えない吠え声とともに、その筋肉がさらに膨れあがる……!
がっ……
壁に頭を打ち、ソフィア公女が声もなく崩れる。続いて、第2撃……
{させないのです!}
イリス 《スライムの姿》 がかろうじて、ソフィア公女を守った。
そのまま、イリス 《スライムの姿》 は細長く変化し、ロープのように
これでは
{どうして、そんなことをするのですか? ソフィアさんは、あなたのお嬢さんなのですよ?}
「ふん……
{――――――っっっ!}
イリスが声にならない悲鳴をあげ、
見る限りでは、少し力をこめただけ…… なんてよく膨らむ筋肉なんだ……!
「覚悟せよ!」
どぉぉぉぉおおおんっ!
大理石の床が、あとかたもなく消え、柱が折れ、天井が、落ちてくる……!
俺はとっさに 《超速の時計》 を取り出した。
「《時間停止》!」
天井が、俺の頭ぎりぎりで止まる…… 間に合った。
アルバーロ教授の目がきらりと光る。
「お
「研究は、断る…… 《錬成陣スキップ ―― 防御壁》 錬成開始 《超速 ―― 600倍》」
ごぉぉぉぉぉっ
地鳴りとともに周囲の地面が隆起。
そして、 《時間停止》 終了。
ガタッと天井が落ちる…… が、防御壁が支えているおかげで、俺たちには、細かい欠片が少し降ってくるだけだ。
―― ひとまずはこれで、なんとかなるな。
「アルバーロ先生!」 「先生、ご無事ですか!?」 「なにが、起こったんです!?」
学院生が数名、叫びながら駆け寄ってくる…… まずいな。
「お主ら、こっちに来ては、ならん! 暴漢なのじゃ! 応援を呼ぶのじゃ……!」
アルバーロ教授が、学院生たちを押し戻し、外に誘導していく ―― よかった。これで少なくとも、教授と学院生たちは無事だ。
「ふっ……」
センレガー公爵が鼻でわらった。片手に持っていた鳥人 (気絶してる) を地面に起き、剣を抜く。
「応援など来るまえに、そなたらをひと思いに片付けてやろう!」
しまった……
ぶんっ……
凄まじい速さで胴を横薙ぎにしてくる刃から、俺は、なんとか身をかわす。
「イリス!」
{はいです!}
青く輝く剣が、俺の手にとびこんできた。
次の瞬間きた、強烈な突きを、エクスカリバーが弾く。腕がしびれそうな力だ……
反動を利用し、そのまま敵の指先に刃を叩きつける……! が、
鋼がぶつかりあう澄んだ音が響く。
かろうじて受けたものの、エクスカリバーじゃなければ危なかったな。普通の剣なら、折られていた…… かわりに衝撃をもろにくらった、肩と腕が痛い。
ガチムチ筋肉のくせに身軽に宙返りした
着地するなり、2回目の突き。
ぎりぎりで避け、反撃…… かわされる。高速の斬撃を跳躍で越え、こちらから斬り込む。
頭上からの攻撃は、しかし、大きく横に跳んで、やはり、かわされてしまう。
一瞬の油断もならない、だが、決着のつかない攻防を繰り返しながら…… だんだん壁際に追い詰められているのは、俺のほうだった。
冷たい大理石が、背中にあたる。
―― いや、最近なんか俺、思い上がってたが…… やっぱ歴戦の猛者には、なかなか勝てんよな。
「ふん…… 青二才にしては、なかなか手こずらせてくれたな」
ここまでか…… いや、俺だけなら別に、いいんだが。
さっきの
打開する方法は…… くそ、チート能力さえ使えていれば、なんとかなったのに……!
ピロン!
俺だけに聞こえる、覚えのある通知音が響く。
こんなときに、なんだっていうんだ、AI……
【冒険者レベル、アップ! リンタローのレベルが23になりました。HPが+12、力が+6、防御が+5、素早さが+5されました。体力が全回復しました!】
いやほんと、なんでいま…… 空気読めよな、AI。
【スライム◎△$§>∞、通称 『イリス』 のレベルが48になりました。HPが+30、力が+15、防御が+7、素早さが+8されました! 《粘性》 を獲得しました!】
このとき ――
ぷっぴゅん!
イリスが俺の手から飛び出した。剣からスライムに姿を変えつつ、
俺を助けようとしてくれてるんだな、イリス。振り落とされるのが、わかっているのに…… いや。
まだ、イリスは、振り落とされていない……!
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
{絶対に、リンタローさまを守るのです!}
センレガー公爵は、前よりももっとすごい勢いで首をぶんまわしている…… だが、イリス 《スライムの姿》 は、その顔面にくっついたままだ。
そっか…… レベルアップで付与された 《粘性》 の効果だ。AI、いい仕事してるな! 空気読めとか思って、すまん。
「……っ! ううっ……! ぅぐぅっ……」
センレガー公爵のガチムチ筋肉ボディーがふらつき、だんだん紫色になっていく……
からん。
ついに、その手から剣が落ちた。
やっと、
「《神生の大渦》 …… イリス、もういい。こんなおっさんでも、殺しちゃダメだ」
{リンタローさま! ご無事でなによりなのです!}
「うん。イリスのおかげだ。ありがとう」
ぽっぴゅん!
イリスが少女の姿に戻る。得意そうな表情だ。
{がんばったのです!}
「そうだな…… さて、さっさと凍らせてしまおう」
俺は液体窒素ボンベを
風が吹くたび、少しずつ短くなっている……?