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第53話 のじゃロリ教授にスカウトされた

「アルバーロ先生! ご無事で、なによりですわ」


「なんじゃ急に……! 痛かったのじゃ!」


 ソフィア公女に両肩を揺すぶられ、胸を押さえた山猫ちゃん ―― アルバーロ教授の表情が、しかめつらから不思議そうなものに変わる。

 槍がささっていたはずの箇所を、なんども押さえて首をかしげるアルバーロ教授。


「……ん? なにも、ない? 白昼夢でも、見たのかのう……?」


「いえ先生。リンタローが急ぎ、治療したおかげですの」


「なんと!? リンタローよ…… そなた、異世界人じゃな!?」


「ええっ!?」


 ソフィア公女が目を大きく見開く。びっくりしてるな…… 言ったことなかったっけ、そういえば。


「そうなのですか、リンタロー?」


「うん、そうだな」


{わたしは、知っていたのです!}


 なにげにドヤる、イリス。

 アルバーロ教授がにやりと笑みを浮かべた。


「ま、それがしも、無駄に200年近く生きてない、ということじゃ。そのうち、お主を研究させてくれ、リンタロー」


「残念だが、研究には役に立てないかもな。なにしろ俺の身体は、この世界に来てから世界意思とやらのちょっかいで、再構成されたやつだから」


「ふむう…… じゃったらリンタロー。お主も、エルフに近い存在かものう。もしかしたら、何百年も年を取らんかもしれぬぞ」


「えっ…… まじか」


「うむ。じゃから、暇になってからでよい! 研究させてくれ!」


「普通にイヤなんだが」


「学問の進歩と発展のためじゃ! 約束じゃぞ!」


 黄緑色の瞳が好奇心で、音がしそうなほど輝いてる…… 逃げられるかな、俺。


「それはそれとして。先に、心核石コロケルノ不仲草ハルバタリの成分分析をしてもらえると、ありがたい」


「もちろんじゃ!」


「よろしく頼む…… これが心核石コロケルノで、こっちが不仲草ハルバタリの乾燥物だ」


「ふむ…… 任せるのじゃ! まあ、3日もあれば、分析も終わるじゃろうて」


「よろしく頼む」


 だが改めて分析室のドアを開けた俺たちは、そのまま固まってしまった。

 かなり、荒らされている…… とくに分析用と思われる装置が、ひどい。

 原形がわからないほど破壊されている。


{このひとのしわざですね!} 「拷問ですわね!」


 イリスとソフィア公女が、世界樹の網にからまって転がる鳥人をにらむ…… そうそう。あとでこいつからも事情を聞かないと、だったな。


「これは……」


 アルバート教授が、ぽつりとつぶやく。


「リンタローの身体研究が、先かのう」


「いや、冗談じゃないから ―― 《分解》」


 俺は壊れた分析装置に手をかざした。

 ここまで壊れた機械を修復したことは、これまでなかったが…… まずは、部品レベルに分解して、と。

 それから錬成陣を作って、組み立て直す ―― いや。

 俺はこの装置のこと、まったく知らないんだった。これでは、修復できない。

 ここは、なんでもできるア○フォンくんに協力を頼むか。


「ヘイ、ウィビー」


[マスター! ワッツァップ!? なんか用ねー!]


 相変わらず元気な異世界ア○フォンだ。


「ウィビー、分析装置の設計図、出せるか?」


[ウェイト・ア・ミニッツ! ちょっと待つねー! ……………… これねー!]


「すごいな、ウィビー」


[イッツァ・ピース・オブ・ケイク! お安いご用ねー!]


 俺は表示された設計図を読んでいく。

 基本はこの世界のほかの機械と、同じだな。魔素マナがまるで、前世での電気のような役割をしている。

 制御は機械生命オートマタか……

 機械生命オートマタは人間が魔素マナを有効活用するために作り出し、発展させた機械魔術の産物 ―― 論理的に組み立てたいくつもの術式を物質に彫り込み、さらに組み合わせて、1つの機械生命オートマタにする。

 詳しいことは正直、俺にはさっぱり、わからん…… ということは、暗記しかないな。

 壊されてバラバラになった部品と図面を照らしあわせ、どこになにが使われているのかを集中して覚えこむ。

 ―― よし。いける。


「《錬成陣》 ―― 中心にバフォメット解析と統合アシュタルテ。第1縁、バフォメット解析マルドゥーク。第2縁、バフォメット解析レプト。第3縁、バフォメット解析バアル。第4縁、バフォメット解析アシュタルテ……」


 俺は慎重に錬成陣を組み立てる。

 分析装置だから、各要素に 《解析》 をあらわす半割れのバフォメット解析と統合をあわせたほうがいいだろう。錬金術師の腕の見せ所、ってとこだな…… できた。


「《分析装置 修復》 錬成開始 ―― 《超速 ―― 200倍》」


 錬成陣が輝きはじめた。 

 遠心分離器、濾過器、加熱冷却器……

 さまざまな部品が、高速で修復され、あるべき位置におさまっていく ―― 修復、完了。

 アルバーロ教授が目を丸くする。


「ほお…… やるのお」


{リンタロー様は、すごいのです!}


「さすが、わたくしが見込んだ錬金術師ですわ」


 イリスとソフィア公女が、それぞれにほめてくれるなか……

 ピロン!

 俺にしか聞こえない通知音が響いた。


【スキルレベル、アップ! リンタローのスキルレベルが32になりました。MPが+179、技術が+190されました。特典能力 《神生の大渦》 の使用回数が17になりました。MPが全回復しました! 鑑定スキルがlv.4になりました。錬成陣スキップがlv.4になりました。《超速の時計》 時間停止が10秒延長されました!】


 お、錬成陣スキップのレベルが上がった…… これで、武具の錬成陣がスキップできるようになるはずだ。武具はこれまでチート能力とイリスに頼っていたが、これからはもっと柔軟にいろいろとできそうだな。

 まあ、そんな事態が起こらないよう、世の中が平和になるのが一番なんだが。


「お、おお……!」


 突然、アルバーロ教授が声をあげた。どうしたんだ?


「リンタロー、そなた、分析装置にいったい、なにをしたのじゃ!?」


「ああ、すまん。うまく、動かなかったか?」


「逆じゃ! 逆! もう、分析できてしまったぞい! これが分析結果じゃ!」


 アルバーロ教授が結果記録用のロールペーパーを引きちぎるようにして、見せてくれる。


「それ、速すぎるんじゃないか? 修復錬成時になにかミスした可能性が高いな」


「だったら、試してみるぞい」


 アルバーロ教授がポケットから数種類の鉱物を取り出し、順に分析装置にかける。

 結果が一瞬で出てくるたび、教授は 「おおふ!?」 「おおお!?」 と声をあげ…… やがて、厳粛な表情で俺たちに向き直った。


「この装置は…… 正確に、動いておるのじゃ!」


「…… 俺、いったい、何をしたんだ?」


{リンタロー様なら、当然なのです!} 「まあ、わたくしが見込んだ錬金術師ですからね」


 イリスとソフィア公女が、それぞれにドヤるなか……

 ピロン!

 俺の耳に、警告音が再び響いた。


【錬成陣にしつこくバフォメット解析を組み込むからww 分析の性能が、大幅に上がってしまいましたwwww】


 ―― 理不尽!


 まあ、装置は間違いなく正確に動いているようだから、悪いことではないんだが。


「それで、分析結果はどうだったんだ……?」


「うむ。これを見るがよいのじゃ」


 アルバーロ教授がロールペーパーに記された2つの文字列を交互に指し示す。

『▲名称不明』 と記された成分の含有量…… 不仲草ハルバタリに含まれるそれはわずか3%だが、心核石コロケルノの組成は90%以上が 『▲名称不明』 だ。

 なるほど…… 心核石コロケルノは、前世の覚醒剤などと比べると純度は低い。しかし、おそらくこの世界では、そのままでもじゅうぶんにとして通用しているだのろう。

 ―― これで、俺の予測の裏がとれたな。

 やはりォロティア義勇軍マフィアは、なんらかの方法でイールフォの森に不仲草ハルオピオを大量発生させているのだ。

 そして、それしか食べられない状況に魔獣を追い込み、心核に蓄積された成分によって大暴走スタンピードが起こったタイミングで、狩る……


「だいたい、わかった。じゃ、俺たちはもう行くよ。急ぐんだ…… ありがとう、アルバーロ教授」


「うむ。新たな知見が得られて、それがしも楽しかったぞい!」


 俺はアルバーロ教授としっかり握手を交わした。

 次はイールフォの森に戻り、不仲草ハルオピオを大量発生させた犯人をつかまえる ―― そこから、ォロティア義勇軍マフィアにつながっていくだろう。


「また、くるのじゃ!」


{はい! また、会うのです、アルバーロ教授!}


「ありがとう存じますわ、アルバーロ先生」


「うむ、優等生も達者でな!」


 みなで別れを惜しみつつ、分析室の外に出たとき。

 むちっ……


 俺は、なにやら弾力性のある、固めの壁にぶつかった。


「ふん…… 久しいな、青二才」


 もはや見慣れたガチムチなシルエットが、俺の襟首を片手で吊り上げる。

 もう片手には、さきほど俺が網でがんじがらめにした鳥人。


「我が忠実なるしもべを返してもらいにきたら、そなたらと会うとはな……!」


 ぐうっと俺の喉から変な音が漏れる。

 首がしまって、息ができない…… 苦しい……


「もう、おやめになってくださいませ!」


 ソフィア公女が悲鳴のような声をあげた。


「―― お父様!」


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