―― この世界では、医療も医薬もさほど発達していない。だからこそ、『前世の医療知識 + ポーション』 の合わせ技が画期的だったわけだ。
だが、
そうだ。
俺はずっと昔、まだ母親が元気で、医者になろうとかまったく思っていなかったころは、ごく普通のゲーム少年で…… この世界のゲームのほかにも、いくつかのゲームをやっていた。
そのうちのひとつに、あのアイテムはあったのだ。
思い出せ。明確にイメージしろ。
色と形、透明度。味と匂い、材料から容器まで ――
「《神生の大渦》 ――
もちろん、この世界にも前世にも、そんな薬はない。
だが 《神生の大渦》 で出せるのは、
俺には当然、取り出すことができるはずだ。それも、俺が望む形で。
「――
俺の前に注射器と消毒用のアルコール綿がそれぞれ詰めこまれた箱が並ぶ…… まずは成功、か。
あとは効力を試すだけだな。
「《神生の大渦》 ――
『
〈ちょ、なにするつもりやの、リンタローはん!〉
「ちょっとした人体実験だ。イリス」
{はいです!}
「俺は今からこの 『
で、状態が改善しなければ、次はこっちの 『
{わかったのです、リンタローさま!}
イリスが、こくこくとうなずいた。
ゼファーが叫ぶ。
〈ちょっと、リンタローはん!? あたま、大丈夫なん!?〉
「危険…… です……」 「おやめ…… ください……!」
エルフの姉妹姫、ルンルモとコモレビが両側から俺の腕にすがりついて止めてくれようとしているが……
効力がわからない薬を、他人に施すわけにはいかない。自分を実験台にするのは、基本だ (個人的見解)
「大丈夫だ。万が一、
俺のカンでは、
「時間がない。やるぞ」
俺を止めようととりついてくるルンルモ姫、コモレビ姫を強めに振り払い (すまん) 、自分の静脈に
横向きに寝転んで、気道を確保。
「しばらく動かさないでくれ」
そのまま、症状が現れるのを待つ…… これまでの例から推測すると、軽ければ多幸感や幻妄と眠気。確率で嘔吐や腹痛、悪寒、悪心があらわれ、重篤なら呼吸抑制に昏睡、最悪は死ぬ、ってところか。
いまで、注射してから2分。そろそろだな。
―― ふいに、身体がふわっと浮く感覚。
自分が自分でなくなるような、すべてがどうでもよくなるような、強い酩酊感…… これか。
というか俺、こういう感覚、そもそも大嫌いなんだよな…… あはははは…… ま、嘔吐とか昏睡とかじゃなくて、よかったか…… というか、あはははは…… 理由もないのに笑いだしたくなるとか、理不尽でほんとイヤだわ…… あははは……
イリスがめちゃくちゃ、びっくりした顔してるな…… あははははは!
{り、リンタローさま……!?}
「あはははは……
「「リンタローどの……!!」」
「あは……
〈あー…… なさけな。やられてるやん〉
ゼファーがためいきをついてるのも、まったくそのとおりすぎて、おかしいな…… あははは……
「あは…… いりす……
{は、はい……! わかったのです……!}
イリスが俺の腕をとり、
やっぱりイリスは、すごいな…… あははは…… って。
…… だから! 俺は、こういう酩酊感は、大嫌いなんだよ。ふわふわして気持ちいいのが、ものすごく気持ち悪い。
「―― ありがとう、イリス。
{リンタローさま! もう! 心配したのです……!}
ぷにゅん!
イリスが俺をぎゅうぎゅう抱きしめてきた…… 呼吸が……
〈イリスはん、あとにしぃや。気持ちはわかるけどな〉
{はっ、はい…… ごめんなさいです}
ゼファーにたしなめられて、イリスが俺から離れてくれたところで。
ルンルモ姫が、
「あの…… これを…… みんなに……?」
「そうだ。幸い、この世界でも普通に効くみたいだからな。すべての状態異常を解除する
「ですけれど……」
コモレビ姫もまた、おずおずと聞いてくる。
「
「
俺は前世の知識を披露する。鬱になった経験がなかったらたぶん、実感としてはわからなかっただろう。
だが、いまの俺は自信を持って断言できる。
「なぜなら、希死念慮も、状態異常のひとつだからな」
―― 俺はそれからルンルモ姫とコモレビ姫、ゼファーとイリスにも改めて注射と消毒のしかたを教え、それぞれに
《超速の時計》 をかまえ、スノードームのガラス壁にびっしりひっついているエルフたちに向ける。
「制限時間は3分。いくぞ」
《時間停止》 ―― ゾンビのような動きをしていたすべてのエルフが、止まった。
俺は即座に、スノードームを 《分解》 する。俺たちとゾンビエルフを隔てていたガラスが消えた。
〈よっしゃ。やるでえ!〉
さっそくゼファーが
「ゼファー? そんなやりかた、教えてないぞ?」
〈狙いはバッチリやで! 見てみい!〉
「ほんとだ……」
なんでこれで、きっちり注射できるんだ…… まあ、異世界だしな。
〖"¼-゛$(@-゛¼〗〖"¼-゛$(@-゛¼〗
コモレビ姫とルンルモ姫は、注射器に世界樹の蔓を巻きつけ、数十本、同時に注射を施していっている。
いちばん遅いのは俺とイリスだ。
普通に手で、ひとりずつ注射していくので、どれほど急いでも1分間に4~5人が限度…… 〈貸しぃ!〉
ゼファーが余った
「わたしたちも……」 「お手伝い…… いたします……」
ルンルモ姫とコモレビ姫の操る世界樹の蔓が、残りの注射器をぜんぶ巻きとり、まだ注射できていないエルフたちに次々とぶっさしていく。
2分57秒後 ――
「まにあった……」 {ですね……}
俺とイリスは肩を寄せあって座りこんでいた。
ゼファーとルンルモ・コモレビ姉妹姫も、肩で息をしながら同じく座り込む…… 彼女らのおかげで、なんとか全員に
効き目は、どうだろう ――