「《広範囲採取》!」
部屋全体を覆う巨大な特殊錬成陣が、俺を中心に浮かびあがる…… 次々と俺に絡みついてきていた蔓の動きが、止まった。
しげっていた葉が落ち、太い触手のようだった茎がパラパラと糸状にほどけていく…… よし。
特殊スキル発動、どうやら成功だ。
「なん…… なの……?」
姉姫が、戸惑ったように俺と蔓を見比べる…… その間にも、錬成陣は蔓を分解し、素材へと還元していく。
「そんな…… 〖"³#〗…… 〖"³#〗 ……!」
焦ったのだろう。
姉姫は世界樹の魔法を何度も唱える…… が、蔓は動かず、次々と素材になって俺のアイテムボックスに収納されていく ――
【『世界樹の葉』 『世界樹の繊維』 『世界樹の雫』 各9999まで収集しました。これ以上の収集には、アイテムボックスのレベルアップが必要です】
いや、もうじゅうぶん。
ゼファーもコモレビ姫も、イリスも解放できたからな。
〈ふぅぅ…… 翼折れるか
「す、すみません…… ゼファーさん……」
〈ええよ。コモレビはんのせいやないし〉
{リンタローさま!}
ぽっぴゅん!
イリスは再びエクスカリバーの姿になって俺の手におさまった。
「なぜ…… どうして……」
世界樹の蔓を操れなくなり、呆然としている姉姫。その喉元に、俺はイリス 《エクスカリバーの姿》 をつきつける。
「理由がわからないなら、いくら魔力が高くても無駄だな」
「
「そのまえに 《分解》」
特殊スキル、発動。
―― 数分後。
「誇り高きハイエルフの娘こと、このルンルモとしましたことが…… なんという失態でございましょう…… このような恥をさらしました以上は、もう死ぬしか……」
「いや、人間…… じゃなくてエルフも、恥をかきながら成長するもんだから。気にするな」
「そうは、申されましても……」
「大丈夫だから、早まるな」
しゅるしゅると彼女の首元にのびてくる世界樹の蔓を、俺はイリス 《エクスカリバーの姿》 で次々に切断していく。
使役者から戦意が失われたせいか、蔓は暴れることなく、床に散らばった。
「生きてれば大体、やり直しは効くもんだ。遅すぎるなんてことは、そんなに多くない」
「ですが、しかし……」
「俺を信じろ、ルンルモ姫」
「…… さようでございますね…… 信じるべき、なのでしょうね…… ええ…… では、そのように……」
説得、どうにか完了。
コモレビ姫の姉 ―― ルンルモ・エスペーロ姫は、両手を胸の前で交差させるエルフ特有の仕草で膝を床につき、俺に向かって震えながら頭を下げる。
「リンタローどのに…… このルンルモ、心より…… 感謝を……」
「いや、いいって」
《分解》 によって体内から
もっとも、違う点もある。
たったいま、ルンルモ姫も、置かれた状況を把握するなり、世界樹の蔓で首を吊ろうとした ――
おかげで止めるのも、一苦労だった。勢いで 『俺を信じろ』 とか言ってしまったじゃないか。あと、前世の俺をちょっと思い出した。いたたまれない……
まあ、ともかくも。
「まずは、いまのエルフ族の状況を、確認したいんだが」
〈たぶん、ほとんどが
ゼファーが暗い顔で、首と翼を縮める。
〈ほんま、すんまへん……〉
「ゼファーのせいじゃなく、鳥人の上層部のせいだろ」
{ですです! それより、みなさんを、助けるのですよ!}
ぷっぴょん!
少女の姿に戻ったイリスが宣言する。
が、それを聞いたコモレビ姫もまた、申し訳なさそうに縮こまった。
「あ…… あの…… じつは自分…… 最近、ずっと…… 鳥人の、行商人たちを…… 追い払ってて……すみません」
〈それは、当然でっせ、コモレビはん。謝らなあかんのは、むしろ、うちらや〉
「えと、その…… それは、そうなんですけど…… 「問題は……」
困ったように口をつぐんでしまったコモレビ姫。そのあとを、ルンルモ姫が引き継ぐ。
「問題は、
〈あー…… さっきのルンルモはんみたいに、やな〉
「やっぱり…… このルンルモ、もう…… 死ぬしか……」
「やめろ。もう言わないから…… それより。つまりは、
「「いえ……」」
エルフの姫ふたりが、同時に首を横に振る。
「エルフは…… 富を、独占しないのです……」 「身分の差なく、みなで…… 公平に…… わけるのです……」
「ああ、そっか……」
一見、単なる社会主義の理想論っぽい。だがしかし、それが
すなわち。
「何人も、どころか、何十人が、いっせいに暴れだすんだな?」
「「あ、あの…… いえ……」」
コモレビ姫とルンルモ姫がますます困った表情で顔を見あわせる…… そのとき。
世界樹の床が、かすかに揺れた。
なにかが、ゆっくりと、だが確実に、近づいてきている……?
「{もしかして}」
俺とイリスに、無言でうなずくエルフの姫たち。
ゼファーがしばらく耳を澄ませたあと、ぽつりと言った。
〈200人は、いまんな……〉
冗談であってほしい。
俺のささやかな願いは、すぐに消えた。
血走った目をしたエルフたちが、ドアを突き破り、部屋になだれこんできたのだ ――
「
〖〖"³#……!!〗〗
コモレビ姫とルンルモ姫が同時に世界樹の蔓を走らせる。さすがというべきか、目にも止まらぬ素早さだ。
先頭の数十名が蔓に手足を絡めとられる。彼らが障壁となり後続は入ってこられない…… いや違う。
後続は、激しい力で彼らを押し倒し、前に進もうとする……!
ぶちっっ…… ぶちっっ…… ぶっっっ……
勢い、世界樹の蔓にとらえられていた幾人ものエルフの手足がちぎれ、その身体が次々と床に投げ出されていく。
「うわ…… これ、錬金術でくっつけられるか?」
「あっ…… ちぎれた部分は…… 月のひとめぐりほどで…… また、生えてくるので…… 心配…… いらないです……」
エルフって植物だったのか。
―― コモレビ姫が説明してくれているあいだにも、ルンルモ姫の新たな蔓が、さらに数十人をとらえ…… だが彼らはまたしても、後続のエルフたちに押されて倒れる。
まるで見えていないかのように、倒れた者たちを踏みつけ。
100人以上のエルフが、俺たちに迫ってくる……!
「「「「「「「「「「…… 薬を……!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
〖〖"³#……!!〗〗 〖〖"³#……!!〗〗
悲鳴をのみこみ、エルフの姫ふたりは懸命に世界樹の魔法を唱え続ける。
無数の蔓は、今度はエルフたちの足元を次々とはらっていく。残った者は倒れた者をさらに踏みつけ、蹴飛ばし。倒れた者は、ちぎれて散乱した手足からこぼれる無色透明の血を、夢中になって
だが、まだ数十名、こっちに来てるな。
「《錬成陣スキップ ―― ガラス装飾》! スノードーム、錬成開始! 《超速 ―― 1000倍》!」
俺はとりあえず、周囲にスノードームを築く。なんといっても、まずは俺たち自身を、ゾンビエルフから保護しなければ…… ふう。
ぎりぎり、間に合った。
「出して……」 「
エルフたちがガラスに貼りつき、すごい勢いで叩いてくる。透き通るような肌に整った目鼻立ちの美男美女ばかりだが、それがかえって、こわい。
さて。こいつら、どうするか……
考え込む俺に、コモレビ姫がすがるような眼差しを向ける。
「あの…… 先ほど、姉さまに…… してくださった術を…… 使っていただく…… わけには……」
「それもちらっと考えたんだが…… 実用的じゃないんだよな、この場合」
「…… わかります……」
ルンルモ姫が、うなずく。
「もし、リンタローどのの術で…… 全員が、我に帰って…… 恥ずかしさのあまり…… 死に向かってしまいますと……」
「まさにそれ。多すぎて、止めきれないからな」
ぽっぴゅん!
今度はイリスが電動フルオート銃の姿になり、俺の腕に飛び込んできた。
{では、ペッパーX弾乱射でとりあえず気絶させて、ひとりずつ解除するのは、いかがです?}
「せっかくだが…… 却下だな」
{がーん、なのです!}
一生懸命考えてくれたイリスには悪いが、エルフの
ペッパーX弾でも気絶せず、かえって凶暴化してしまう可能性もあるし、逆に、
だが…… たしかに、この世界以外のものでも、効くものはあるかもしれないな。
「イリスのおかげで、ひとつ思い付いた」
{リンタローさま! なにを思い付いたのですか?}
「うん…… とりあえず、やってみるよ」
俺は腕を水平よりやや斜めに伸ばした。
チート能力、 発動……!
「《神生の大渦》!」
《神生の大渦》 は、前世今世問わず、知っているものを目の前に再構成できる技。
ならば、こんな使い方もできるはずだ ――