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第47話 エルフ少女に見抜かれた

〈エルフっちゅうのは、気難しさとプライドを怠惰が支えてる、っちゅう感じのひとらですねん〉


「へえ……」 


{長寿で、魔素マナ循環で食べなくても生きていけるからですよね、ゼファーさん}


〈せやなぁ…… 純血種のハイエルフなんかやと、食欲も好奇心ものーなってしもーて。世界樹から1歩も出たことないひとも、ザラやで〉


「つまり生きてるだけの化石か…… 親近感わくな」


 俺の感想に、イリスとゼファーが、ぷっと吹き出す。笑い声が、うっそうと繁る木々にこだました ――


 そんなエルフたち高貴なヒッキーに会い、魔獣大暴走スタンピードの調査について協力を得るため…… 俺たち3人はいま、広大な森のなかにあるエルフの国、イールフォ共和国の入口にいる。

 国といっても、住民のほとんどは樹木と動物/魔獣だ。エルフは中央の世界樹に集まって暮らしているらしく、このあたりでは気配すら、ない。

 エルフだけでなく、魔獣や動物も…… 


「ゼファー。この森はいつも、こんなに静かなのか?」


〈さあ? ちょっと、わかりまへんなあ…… うちらは普通は、空から世界樹へいきますねん〉


「そうか。付き合わせて、悪いな」


〈なに言うてますのん。あんたらだけここに放置したら、すぐに迷ってまうやろ。歩いたら5日くらいはかかるのに〉


{ゼファーさん、優しいのです!}


 ぴゅんっ

 イリスがゼファーに抱きつく。くすぐったがるゼファー。


〈ちょ、そこは…… うひゃひゃひゃ…… ん……!?〉


 ふいに。ゼファーが動きを止めた。首を伸ばし、あたりをうかがっている。


{ゼファーさん? どうしたのですか?}


〈しっ…… あっちから、なんか聞こえる……〉


 言っている間に、それは、俺とイリスにもわかるくらい近づいてきた。

 かすかな地面の震えが、だんだんと大きくなる…… 

 ぷっぴゅん ぷっぴゅん

 危険を感じたのだろう。イリスが分裂し、俺の頭と胴をカバーする。スライムボディーのヘルメットと鎧は、同時にしゃべった。


{{また、魔獣大暴走スタンピードですか!?}}


「まただとしたら、多いよな、ほんと」


 いったい、どうなってるんだろう、この森は。


「まあ、とりあえず。 《神生の大渦》」


 俺はチート能力でバナナの皮を出し、周囲に敷き詰めた。念のため、多めに5千枚ほど。

 《神生の螺旋》 が 《神生の大渦》 に進化してからは、いくら物を出しても同時であれば1回にカウントされるのだ。

 ―― ほどなく。

 どおおっ、と地鳴りが聞こえ、揺れがますます大きくなってきた…… と思ったら。

 ついに、巨大な影が現れた。

 短い前肢まえあしのうえには、鋭い牙と沼底のような目、そして、長い耳。

 ゼファーが首をかしげる。


〈えーと、あれは、たしか…… 「牙兎ファングラビットじゃなかったか」


〈そう、それですわ!〉


 ゼファーが叫んだとき。

 牙兎ファングラビットが跳…… すべって、こけた。

 どどどどど…… つるっ…… どぉぉんっ…… ばしっ…… ばぁぁんっ……!

 続いて、恐ろしい勢いでやってきた魔獣たちも同じく、すべって、あるいは倒れた魔獣につまずいて、次々とこけていく。一部はそのまま、心核石コロケルノだけを残して消える ―― 先日と同じ光景だ。

 バナナの皮、最強すぎる ……と。


「いったぁ……」


 折り重なって倒れた魔獣の間から、細い声が聞こえた。

 まさか…… 誰か、暴走に巻き込まれたのか?

 俺は、慌てて声をかける。


「おい、大丈夫か?」


 …………

 あたりは、しんと静まりかえったままだ。


「…… 気のせいだったか……?」


{{いえ、わたしにも聞こえたのです}}


 首をかしげる俺の、頭と胴をガードしているイリスが声を揃えて答えた。


{{もしかしたら、気絶したのかも……}}


〈そこでんな〉


 ゼファーが飛び上がりながら、細槍をひとつかみ、アイテムボックスから引き抜いた。

 魔獣に向かって、投げつける。


「きゃあっ」


 小さな悲鳴と同時に、折り重なって倒れていた数体が心核石コロケルノになって消えた。

 空き地となったそこに残されたのは、薄緑の髪にとがった耳 ―― 青みがかった緑の瞳いっぱいに涙をためてこちらをにらむ、エルフの少女だった。

 その口から、不思議な言葉が漏れる……


〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……〗 〈ぶっそうでんな!〉


 ゼファーが叫び、はばたく…… その瞬間。

 ぶんっ……

 ゼファーがいた場所を、植物のつるが横切り、俺にからみついてきた。

 払う暇がない……!

 いきなりつるにしめつけられ、宙吊りにされるとか。まったく、理不尽だな。


〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……〗


 もう1本の蔓が、ふたたびゼファーを狙う。

 ぎりぎりでかわすゼファー…… エルフ少女の大きな目に、焦りが浮かぶ。


〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……!〗


 ひゅっ…… ぶんっ……

 ゼファーを襲う蔓が、さらに増えた。


〈ちょ、姫さん! これ見い!〉


 ゼファーが胸元に下げたペンダントを、エルフ少女に示す。きれいに磨かれた、エメラルド色のまるい石…… イールフォエルフの国に通行を認められた商人の証だ。


〈うちは認可済みやで! 不法入国やないで!〉


〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……!〗 


 ゼファーの言うことは聞こえているはずだが…… エルフ少女の攻撃は、ますます激しくなる。


 ひゅっ…… ぱしぃぃぃっ…… 〈ああっ…… しもたぁ!〉


 ついにゼファーも、蔓にとらえられた。


〈ちょい、姫さんっ! なんでやの…… ううっ……〉


 抗議の声をあげるゼファーを、蔓がますます、しめつける。

 無言でそのさまを見上げる、エルフ少女。ふたりは知り合いじゃ、ないのか?

 エルフ少女の透き通るようなほおに浮かんでいるのは、はげしい怒り…… もしかすると。

 森や仲間を守ろうとしている……?

 彼女は、がもたらすものを、森に入れまい、としているのかもしれない。


「俺たちは、を売りにきたんじゃない!」


 俺は叫んだ。


「彼女も俺も、夢見薬ドゥオピオは持っていない! ほんとうだ!」


 エルフ少女が、驚いたようにこちらを見る…… やはり、そうか。


「俺たちは、魔獣大暴走スタンピードの原因を探りにきたんだ! 止めるために!」


〖$(-³ª#+»、……〗


 蔓がもう1本、どこかからのびてきて俺をまさぐる…… くすぐったい…… いや、やめろ! まじで、くすぐったいから!


{{リンタローさま!}}


 イリスがキレかけ寸前の声で、ささやいてきた。


{{おとなしくしといたほうが、いいんですか?}}


「そうだな…… ぶふっ…… まだ、がまんだ…… ぐふっ……」


 俺が、どうにかイリスに返事をしたとき。

 エルフ少女は大きくうなずき、片手をあげた。


〖,¦"=$,¦"=$&……〗


 しゅるしゅると蔓が引っ込んでいく…… ふう。やっと解放された。

 エルフ少女が、胸の前で両手をクロスさせ、俺たちにむかって頭を下げる。 


「たいへん、失礼いたしました」 〈ほんまやで、姫さん〉


 すかさずツッコむゼファー。

 エルフ少女は、とまどった表情でうつむく……  臨機応変な会話ができないんだな。

 さすがは、数千年のヒッキー民族…… わかりみ深い。

 俺はエルフ少女に、先に気づいたことを確認してみた。


夢見薬ドゥオピオをこれ以上、イールフォエルフの森に入れたくなくて攻撃してきたんだな? あのを売りにくるのは、鳥人の商人だから」


「…… すみません……」


 ますます縮こまるエルフ少女…… 悪い子じゃなさそうだ。

 そしてゼファーも、無言でうつむいた。気まずそうな表情 ―― 仲間の商人がを売るのを止められなかったことに、責任を感じてるんだろう。

 だが、イリスはまだ怒ってるな。俺の頭と胴を保護した姿のまま、ぷるぷると震えているのが、その証拠だ。


{{でも、あんなにリンタローさまを、なでまわすこと、ないのですよ!}}


「す、すみません…… そちらのかたが言うことが真実か、世界樹の魔法で探っていました……」


{{もうっ! リンタローさまが嘘を言うわけが、ないのですよ!}}


「はい。あの…… 世界樹がおっしゃるには、そちらのかたは…… 本質的に非常に怠惰で…… わざわざ嘘をつく労力は、惜しまれるかただと…… 〈ぶはっ〉


{{言い方! なのです!}}


「すっ、すみません…… いえ、あの、その…… つまりは…… 嘘つくには、面倒くさがりさんすぎる…… 〈ぶはっ〉


 再びゼファーが吹き出し、イリスが怒り、エルフ少女が縮こまって謝る …… が、あたってるので俺は、なんとも言えない。 


「と、ともかくですね…… 詳しい話は、落ち着いてから…… 自分たちの居住空間 ―― ええと世界樹の上に、ご案内します」


「いいのか?」


「は、はい…… みなさまが、魔獣大暴走スタンピードを止めに来られたのであれば…… 自分とも、関わりがあると、思いますので…… もし、よろしければ……」


「もちろんだ。協力してもらえるなら、助かる」


「はい…… そのつもりです。では……」


 エルフ少女は深呼吸すると、また、あの不思議な言葉を紡ぐ ―― 呼応するかのように、数十本の蔓が降りてきた。先端が絡み合い、大きなゴンドラのような形になっている。


「どうぞ……」


 エルフ少女にうながされ、俺たちはそれに乗り込んだ。

 最後にエルフ少女が乗り込む。


〖~%²µ……〗


 ゴンドラは、すごいスピードで上昇し始めた。 ――

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