〈エルフっちゅうのは、気難しさとプライドを怠惰が支えてる、っちゅう感じのひとらですねん〉
「へえ……」
{長寿で、
〈せやなぁ…… 純血種のハイエルフなんかやと、食欲も好奇心ものーなってしもーて。世界樹から1歩も出たことないひとも、ザラやで〉
「つまり生きてるだけの化石か…… 親近感わくな」
俺の感想に、イリスとゼファーが、ぷっと吹き出す。笑い声が、うっそうと繁る木々にこだました ――
そんな
国といっても、住民のほとんどは樹木と動物/魔獣だ。エルフは中央の世界樹に集まって暮らしているらしく、このあたりでは気配すら、ない。
エルフだけでなく、魔獣や動物も……
「ゼファー。この森はいつも、こんなに静かなのか?」
〈さあ? ちょっと、わかりまへんなあ…… うちらは普通は、空から世界樹へいきますねん〉
「そうか。付き合わせて、悪いな」
〈なに言うてますのん。あんたらだけここに放置したら、すぐに迷ってまうやろ。歩いたら5日くらいはかかるのに〉
{ゼファーさん、優しいのです!}
ぴゅんっ
イリスがゼファーに抱きつく。くすぐったがるゼファー。
〈ちょ、そこは…… うひゃひゃひゃ…… ん……!?〉
ふいに。ゼファーが動きを止めた。首を伸ばし、あたりをうかがっている。
{ゼファーさん? どうしたのですか?}
〈しっ…… あっちから、なんか聞こえる……〉
言っている間に、それは、俺とイリスにもわかるくらい近づいてきた。
かすかな地面の震えが、だんだんと大きくなる……
ぷっぴゅん ぷっぴゅん
危険を感じたのだろう。イリスが分裂し、俺の頭と胴をカバーする。スライムボディーのヘルメットと鎧は、同時にしゃべった。
{{また、
「まただとしたら、多いよな、ほんと」
いったい、どうなってるんだろう、この森は。
「まあ、とりあえず。 《神生の大渦》」
俺はチート能力でバナナの皮を出し、周囲に敷き詰めた。念のため、多めに5千枚ほど。
《神生の螺旋》 が 《神生の大渦》 に進化してからは、いくら物を出しても同時であれば1回にカウントされるのだ。
―― ほどなく。
どおおっ、と地鳴りが聞こえ、揺れがますます大きくなってきた…… と思ったら。
ついに、巨大な影が現れた。
短い
ゼファーが首をかしげる。
〈えーと、あれは、たしか…… 「
〈そう、それですわ!〉
ゼファーが叫んだとき。
どどどどど…… つるっ…… どぉぉんっ…… ばしっ…… ばぁぁんっ……!
続いて、恐ろしい勢いでやってきた魔獣たちも同じく、すべって、あるいは倒れた魔獣につまずいて、次々とこけていく。一部はそのまま、
バナナの皮、最強すぎる ……と。
「いったぁ……」
折り重なって倒れた魔獣の間から、細い声が聞こえた。
まさか…… 誰か、暴走に巻き込まれたのか?
俺は、慌てて声をかける。
「おい、大丈夫か?」
…………
あたりは、しんと静まりかえったままだ。
「…… 気のせいだったか……?」
{{いえ、わたしにも聞こえたのです}}
首をかしげる俺の、頭と胴をガードしているイリスが声を揃えて答えた。
{{もしかしたら、気絶したのかも……}}
〈そこでんな〉
ゼファーが飛び上がりながら、細槍をひとつかみ、アイテムボックスから引き抜いた。
魔獣に向かって、投げつける。
「きゃあっ」
小さな悲鳴と同時に、折り重なって倒れていた数体が
空き地となったそこに残されたのは、薄緑の髪にとがった耳 ―― 青みがかった緑の瞳いっぱいに涙をためてこちらをにらむ、エルフの少女だった。
その口から、不思議な言葉が漏れる……
〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……〗 〈ぶっそうでんな!〉
ゼファーが叫び、はばたく…… その瞬間。
ぶんっ……
ゼファーがいた場所を、植物の
払う暇がない……!
いきなり
〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……〗
もう1本の蔓が、ふたたびゼファーを狙う。
ぎりぎりでかわすゼファー…… エルフ少女の大きな目に、焦りが浮かぶ。
〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……!〗
ひゅっ…… ぶんっ……
ゼファーを襲う蔓が、さらに増えた。
〈ちょ、姫さん! これ見い!〉
ゼファーが胸元に下げたペンダントを、エルフ少女に示す。きれいに磨かれた、エメラルド色の
〈うちは認可済みやで! 不法入国やないで!〉
〖§³¦º«、°、<、!}¦¹¢……!〗
ゼファーの言うことは聞こえているはずだが…… エルフ少女の攻撃は、ますます激しくなる。
ひゅっ…… ぱしぃぃぃっ…… 〈ああっ…… しもたぁ!〉
ついにゼファーも、蔓にとらえられた。
〈ちょい、姫さんっ! なんでやの…… ううっ……〉
抗議の声をあげるゼファーを、蔓がますます、しめつける。
無言でそのさまを見上げる、エルフ少女。ふたりは知り合いじゃ、ないのか?
エルフ少女の透き通るようなほおに浮かんでいるのは、はげしい怒り…… もしかすると。
森や仲間を守ろうとしている……?
彼女は、
「俺たちは、
俺は叫んだ。
「彼女も俺も、
エルフ少女が、驚いたようにこちらを見る…… やはり、そうか。
「俺たちは、
〖$(-³ª#+»、……〗
蔓がもう1本、どこかからのびてきて俺をまさぐる…… くすぐったい…… いや、やめろ! まじで、くすぐったいから!
{{リンタローさま!}}
イリスがキレかけ寸前の声で、ささやいてきた。
{{おとなしくしといたほうが、いいんですか?}}
「そうだな…… ぶふっ…… まだ、がまんだ…… ぐふっ……」
俺が、どうにかイリスに返事をしたとき。
エルフ少女は大きくうなずき、片手をあげた。
〖,¦"=$,¦"=$&……〗
しゅるしゅると蔓が引っ込んでいく…… ふう。やっと解放された。
エルフ少女が、胸の前で両手をクロスさせ、俺たちにむかって頭を下げる。
「たいへん、失礼いたしました」 〈ほんまやで、姫さん〉
すかさずツッコむゼファー。
エルフ少女は、とまどった表情でうつむく…… 臨機応変な会話ができないんだな。
さすがは、数千年のヒッキー民族…… わかりみ深い。
俺はエルフ少女に、先に気づいたことを確認してみた。
「
「…… すみません……」
ますます縮こまるエルフ少女…… 悪い子じゃなさそうだ。
そしてゼファーも、無言でうつむいた。気まずそうな表情 ―― 仲間の商人が
だが、イリスはまだ怒ってるな。俺の頭と胴を保護した姿のまま、ぷるぷると震えているのが、その証拠だ。
{{でも、あんなにリンタローさまを、なでまわすこと、ないのですよ!}}
「す、すみません…… そちらのかたが言うことが真実か、世界樹の魔法で探っていました……」
{{もうっ! リンタローさまが嘘を言うわけが、ないのですよ!}}
「はい。あの…… 世界樹がおっしゃるには、そちらのかたは…… 本質的に非常に怠惰で…… わざわざ嘘をつく労力は、惜しまれるかただと…… 〈ぶはっ〉
{{言い方! なのです!}}
「すっ、すみません…… いえ、あの、その…… つまりは…… 嘘つくには、面倒くさがりさんすぎる…… 〈ぶはっ〉
再びゼファーが吹き出し、イリスが怒り、エルフ少女が縮こまって謝る …… が、あたってるので俺は、なんとも言えない。
「と、ともかくですね…… 詳しい話は、落ち着いてから…… 自分たちの居住空間 ―― ええと世界樹の上に、ご案内します」
「いいのか?」
「は、はい…… みなさまが、
「もちろんだ。協力してもらえるなら、助かる」
「はい…… そのつもりです。では……」
エルフ少女は深呼吸すると、また、あの不思議な言葉を紡ぐ ―― 呼応するかのように、数十本の蔓が降りてきた。先端が絡み合い、大きなゴンドラのような形になっている。
「どうぞ……」
エルフ少女にうながされ、俺たちはそれに乗り込んだ。
最後にエルフ少女が乗り込む。
〖~%²µ……〗
ゴンドラは、すごいスピードで上昇し始めた。 ――