ビッ…… ビビビッ
赤や青の稲妻が強化ガラスのなかを駆け巡り、そのたび、ガラスに少しずつヒビが入る。
ビビビビビビッ……
最後は、中から放電しているような、まばゆいばかりの白い光 ――
いっそ美しいほどの音とともに、ガラスが粉々に砕け散る。
くそ…… こんな芸当ができるなら、こいつも-196℃で凍らせてから封入すれば、よかった。
現れたドブラ議員は、落ち着いた表情で俺を指し示した。その口が、神聖魔法の呪文を紡ぐ。
「〔
あ。これ、危ないやつ。
目を焼くような白い光が、ドブラ議員の指先から、まっすぐに俺に向かってくる……!
速い。
〈リンタローはんっ!〉 {{リンタローさまっ!!}} {{{{危ないのですっ}}}} 「「リンタロー!!」」
ゼファー、イリスの両親、スライム少女たち。ベルヴィル議員と、ソフィア公女。みんなの叫びが重なるが、不思議と、ひとりひとり聞き分けがつく。
みんな、心配してくれてるのか…… ありがたい。
まばゆい光の矢が俺に届く直前。
俺は、瞬間的に考えていた。
―― 少なくとも、俺が避けなければ。
イリスの心核を修復する時間稼ぎが、できるはずだ。
心核の修復が完了して動けるようにさえなれば、イリスは無事に逃げられる ―― そしたら、これだけ味方がいるんだ。協力してドブラを倒すことだってできるだろう…… 俺が、いなくても。
{ 反 射 ! な の で す ! }
ふいに俺の手の甲に、革のベルトにはさまれているような感触が生じる。
走馬灯にしてはやたら、はっきりとした声。
そして、光は俺を、突き刺さなかった。
光の矢は急に現れた盾に弾き返され、ドブラ議員の肩を貫く。
「ぅぐぉぉぉおおおっ……!」
血を吐くような、うめき声。
ドブラ議員が肩を押さえてうずくまった。トリガーポイント直撃されたな、あれは。
{さらに! 石 化 な の で す !}
ぷるんっ
ドブラ議員は、スライムの姿になった。どうやら姿だけで、動いたり変身したりはできない ―― つまり、スライムの置物になったようだ。
反射的に俺は、ツッコんだ。
「いや、石化じゃなくてスライム化なのか!?」
{それは、本物のアエギス・メドザみたいには、いかないのです}
アエギス・メドザ ―― すなわち伝説の盾の姿になったイリスは、俺の手にくっついたまま、ほわりと笑った。
{リンタローさま! 会いたかったのです!}
うわ…… どうしよう。
イリスが武具化してる…… しゃべってる……
イリスが、普通に生きてる……
胸がいっぱいになって、これ以上、ことばがでてこない…… どうしたんだ、俺。
{リンタローさま? リンタローさま、大丈夫なのですか? ……って、ちょっ、はわわわわっ……!}
AIが 【冒険者レベル、アップ!】 とか 【スキルレベル、アップ! リンタローのスキルレベルが30になりました。MPが+940、技術が+836……】 とか言ってたが、そんなのどうでもいい。
こんな感覚は、前世ふくめて初めてだ。
俺はいつのまにか、イリス 《伝説の盾の姿》 を、思い切り抱きしめていた。
〈あーあ。うちら、お邪魔虫みたいやな〉
ゼファーが呆れたように声をあげ、ソフィア公女とベルヴィル議員が 「そうですわね」 「外で待ちましょ」 と、さっさと戸口に向かう。
スライム少女たちがそのあとに続き、最後にイリスの両親が {{がんばってくださいね!}} とサムズアップして出ていった ―― って、御両親さん!? なにをがんばれって??
そもそも、なんでそんなに遠慮してるの!?
俺をおしのけてでも、とんでくるもんだろ普通? お嬢さんが、せっかく目をさましたんだから! 感動の再会はどうした…… あれ?
これ、引き留めるべきなんじゃ?
いや、もしかしたら。俺の知らない、スライムなりの流儀があって、遠慮してるのか……?
俺が困っているのを察したのか、イリスの両親が、わざわざ引き返してくれた。
{どうぞ、ごゆっくり!} {わたしたちは、この子の元気な姿が見られただけで満足ですから!}
{はぅわっ…… 両親ズですか!?}
イリスが慌てたように、盾から少女の姿に戻った。
ぷぴゅんっ
俺の腕から抜けて、御両親のもとにとんでいく。良かった…… が、なにか残念だ…… けど、良かった。
{{◎△$§>∞!!}}
とんできたイリスを、御両親はがっちりと受け止めている ―― 3人とも、なんて表情してるんだろう…… どうも最近、俺の目からやたらと汗が出るようになって、いけない。
{両親ズ! もとに戻ったんですか!?}
{そうですよ、◎△$§>∞} {リンタローさまのおかげでね。◎△$§>∞も、よく御礼申し上げるのですよ}
{……! ふみゅ…… みゅうううう…… 両親ズ…… 良かったので…… ぷみゃぁぁぁ…… ですぅぅぅ…… リンタローたまぁ…… もう一生…… ふみゅ…… 恩返し…… ぴみぇぇぇぇ……}
{あらあら。相変わらず、泣き虫ですね} {心配をかけましたね、◎△$§>∞}
泣き出すイリスを、ほほえましく見守るイリスの両親。
{ほんとですぅぅぅ…… ぴええええ…… 会いたかったのですぅ…… ぶみゃぁぁぁあ……}
お、本格泣きに移行したな。
なら、バケツを…… あれ。
「イリス。こんだけ泣いてるのに全然、溶けてないな?」
{うう…… ぷみゅ…… あれ。ほんとなのです}
ピロン……!
俺にしか聞こえない音が、耳の奥に響いた。
【特殊スライムの個体◎△$§>∞ ―― 呼称 『イリス』 は、心核の再構成により、スライムに特有の、各種弱点を克服しました】
え…… まじか。
じゃあ、泣いても溶けないってことか?
【はい。あとは熱耐性と氷耐性も獲得していますww】
俺…… もしかして、心核の修復成功させようとして、とんでもない錬成陣を作っちゃったのか…… ?
いや、まさかそんな 【その、まさかですww】
シュリーモ村の秘伝を、そんな簡単に超えられるわけないだろ!?
【今回は経験に論理が勝ったと申しましょうか…… つまり、あなたが頭でっかちに理詰めで構成した錬成陣のほうが、たまたま、秘伝より正確だったということですねww】
なんか申し訳ない……!
【wwww】
俺はバケツのかわりにハンカチを取り出し、イリスに渡す。
イリスが涙を拭いているあいだに、御両親は再び俺に向かってサムズアップし、そっと実験室を出ていったのだった。
あとで絶対、親子水入らずでゆっくり過ごしてもらおう。
―― それから俺とイリスは、改めて簡単にこれまでのことやこれからのことを話しあった。
イリスにとっては時間は、ドブラ議員の警備用
俺がイリスに、ドブラ議員邸に侵入してイリスの両親を助けるまでに至った経緯を話すと、イリスは {ふわあああ…… リンタローさまにも、みなさまにも、たくさん恩返しなのです……!} と、ひたすら恐縮していた。
{リンタローさま……! もう、一生、恩返しするのです……!}
「うん、それ、さっきも聞いた」
{えへへ…… 何回でも言いたい気分なのです}
笑うイリスを見ていると、なんともいえない、温かい気持ちになってくる……
「イリスが元気に回復してくれただけで、じゅうぶんに恩返しだろ。それに、俺のレベルもかなり上がったし」
{えっ、そうなのですか?}
「うん。ちょっと確かめてみるか」
前世のゲームにはもちろん、ステータス表示機能があった。ということは、今世でも俺の生存本能だかで、ステータス表示は可能なはず ――
『ステータス・オープン』
空中を指さして念じてみる…… と、そこに、ゲームっぽいウィンドウ画面が現れた。成功だ。
だが画面は、どうやら俺にしか見えていないらしい…… やはりこれ、無意識の生存戦略の一種、ってことになるのかな。
ともかくも、確認してみよう。
〖冒険者レベル:lv.22 HP79 力36 防御31 素早さ30 特典アイテム:《きれタマ》new!)〗
〖スキルレベル:lv.30 MP1166 技術1037
☆称号☆ 武具錬金術師 大錬金術師 new!
《神生の螺旋》 ⇒ 《神生の大渦》15回new!
《超速の時計》超速1日3回 時間経過3日に1回 時間停止1日1回、3分間 new!
《一般スキル》アイテムボックスlv.6 鑑定スキルlv.3 採取スキルlv.4 鍛冶スキルlv.2 錬成陣スキップlv.3
《特殊スキル》分解、縮小化、統合 new!、高範囲採取 new!〗
「冒険者レベルも上がったが…… スキルレベルが半端ない」
{そうなんですか?}
「うん。一気に9レベルupだ。
{すごいのです、リンタローさま!}
「うーん。いくらなんでも、上がりすぎだと……」
それに、チート能力が進化 (?) している…… なんだ? 《神生の大渦》 って。
ピロン
急に警告音が俺の耳に響く。
【無理めな錬成を無理に成功させたのでww MPも技術力も幅、最大で上げましたww】
やりすぎだろ、AI……
それで、 《神生の大渦》 のほうは?
【前世・今世、含めて知っているものを、
あまり変わらんな……? なのに使用回数が激減か……
【ww まあ、使用回数はまた増えますし。悪いことではないはずですよww】
なんか、納得いかない。
―― だが結局。
このレベルアップは悪いことでないどころか、しばらくののち、すごく役立つことになる。