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第37話 救出作戦が始まった

[マスター! ワッツァップ!? なんか用ねー!]


「ウィビー。この館内の警備用機械生命オートマタの [オッケーねー!]


 まだ俺が全部言い終わらないうち、ア○フォンの画面にずらりとシステムファイルが表示された。


「さすが究極のultimate天才intelligent頭脳brain


[ふっ、そんなことあるねー!]


「なあウィビー。これ、全選択と削除とか、できる?」


 ふと思いついて俺が尋ねてみたら [イッツァ・ピース・オブ・ケイク!] とドヤられた。できるんかい。


「じゃ、このファイルの一括消去、頼む」


[しぶしぶオッケー了解ねー!]


 次の瞬間には、画面のなかのファイルが、自動で全選択され、きれいさっぱり、無くなった ――


[できたよマスター! カンタンねー!]


「うん、ありがとうウィビー。助かったよ」


[当然ねー!]


 くにゃん、とコンニャクのように機体ボディーをそらせるア○フォン。

 俺は、そばで俺たちのやりとりを目を丸くして聞いていた鳥人の少女に告げる。


「ゼファー、案内してくれるか? いまので、警備用機械生命オートマタの無力化に成功したはずだから」


〈リンタローはん、その 《知恵の実》 あとでちょっと貸して?〉


「まさか、ウィビーも量産する気じゃないだろうな?」


〈当然その気や! ぜったい売れまっせ!?〉


[ノーノー、ワタシ、世界でひとつねー! 量産、だれもしたがらないねー!]


〈そんなこと、ありまへん!〉


[ノーサンキューねー! お気持ちちょーだいねー!]


〈もう…… 気ぃ変わったら、いつでも言うてや?〉


 ゼファーが未練がましくア○フォンを見る。ウィビーもなんだか嬉しそうだが…… 量産は無理だろうな。そもそもウィビーは 『世界でひとつ』 が自慢なんだから。

 まあ、それはさておき。


「ゼファー。急いで、イリスの両親とスライム奴隷を、救出にいこう」


〈そうでんな。いまのうち、やもんね〉


 俺とゼファーは、こっそりと館の裏にまわる。普段なら無数に周囲を巡回している警備用機械生命オートマタにすぐ見つかるところだが、いま、彼らは無言でふらふらと館のまわりを飛んでいるだけだ。

 人数が急に減って忙しくなったドブラ邸の使用人が気づくまでには、とうぶん時間がかかるだろう。

 ―― できれば、気づかれる前に、イリスの両親を助け出して、イリスを復活させてあげたい。



〈ここ、ここなんですわ〉


 館を囲む高い塀の、周囲と少し色が違う部分をいくつかゼファーが押す。

 いかにもなシステムだが、これで隠し扉が開くんだろうな…… ん?


「いや、カタッとも動いてないな?」


〈やっぱり、だめやな…… 入口があるのは間違いないんやけど〉


 ぴくりともしない白壁を前に、ゼファーはがっくりと肩を落とした。

 ―― 先日、館内に侵入したイリスを待っている間にゼファーは、この隠し扉からスライム奴隷が搬入されていくところをたまたま見たらしい。

 それで、こっそりと入りかたを探っていたところを、警備用機械生命オートマタに攻撃されたのだという。


〈あんときは、えらいご迷惑かけました。まさか宿までつきとめて襲ってくるなんてなあ……〉


「まあ無事だったし、別にいいが。それだけ熱心に隠すってことは、ビンゴなんだろうな…… あ、そうだ」


〈なんか、わかりはったん?〉 


「うん。もしかして、隠し扉も機械生命オートマタだったり、しないかな、と」


 警備用機械生命オートマタがウロウロしてるような館だ。隠し扉もシステム制御されている可能性はある。

 俺は、ア○フォンに話しかけた。


「ヘイ、ウィビー」


[なにー、またなの? メカ使い荒いのねー、マスター!]


「ウィビー、ここの隠し扉の制御システム、表示できるか?」


[イッツァ・ピース・オブ・ケイク! お安いご用ねー!]


「じゃあ、ロック解除して入れるようにすることは?」


[ウェイトァミニッ、ちょっと待つねー!]


「できるんかい……!」


 この世界でチートなの、イリスだけじゃなかった件。

 1分後。


[できたねー! はやかったねー!] というウィビーの声とともに、入口が開いた。

 白い壁の下にあったのは、地下に続く長い階段。この先に、スライム奴隷たちが隠されているんだな。


「ゼファーは、ここで待ってるか?」


〈なんでやのん?〉


「危ないかもしれない」


〈うちをなめてんのかいな? いくに、きまってますやん〉


 俺とゼファーは、息をひそめて階段を降りていった。

 ダンジョンといっても不思議ではないほど枝分かれし曲がりくねった地下道を、とりあえず、まっすぐに進む ―― しまった。行き止まりだ。

 そこは火山灰で固めた白い小部屋で、何点かの絵画がかけられている。床にも、絵画が立てられたラック。見た目、趣味の絵画保管庫といった感じだ。


〈道、間違えましたんかなあ?〉


「いや、もしかしたら、また隠し扉かも…… ウィビー」


[もーまたなの? 付き合いきれないねー!]


 文句を言いながらもア○フォンが調べてくれたところによると ――

 壁の絵画をラックから指定の順に掛けかえることで、壁が開くシステムらしい。


[これ実際にやるのが一番カンタンねー] とウィビーが言うので、俺とゼファーで絵画を運ぶことになった。


[まず左の左ねー ラック、右から2番目ね。それから右の右ねー…… ラック、真ん中ね。 左の右と右の左はさわらないね。その次は奥の右、最後に奥の左ね。順番に外して、ラックの上に置くね!] 


 ウィビーの指示がなければ、絶対クリアできないやつだな、これ。


「奥の右……重っ…… よし、次。奥の左、と…… やっぱ、重っ」


 嫌がらせのようなサイズの名画っぽいやつを2枚、続けてラックの上に置く…… と。

 うぃぃぃぃん

 機械的な音を立てて、奥の壁が左右に別れた。

 そして。


 ひゅっ……


 針の出た注射器が、飛んできた。


「危ないな!」


 かろうじて避けたところに、また1本。

 ―― 注射器を投げているのは、白衣と眼鏡がよく似合う、いかにも研究員ぽい女性だった。どうやら壁の陰で俺たちを待っていたようだ。


 ひゅっ…… また飛んできた1本を、ゼファーが槍で叩き落とす。ガラスの割れる音。

「あーあ」 と、研究員がおおげさに肩をおとす。


「貴重な器具と薬剤を ―― もったいないこと、しないでくださいよ…… っ! なんですか、あなたは……!」


 芝居じみた言動も、つかのま。

 研究員は、もがき出した。

 研究員の隙をついて背後にまわったゼファーが槍の柄を使い、彼女を羽交い締めにしたのだ。

 理知的な顔が苦しそうに歪む。


「くっ…… いきなりとは、卑怯です!」


〈あんたが言うのは、どうなんや思うけどなあ?〉


 たしかに、出会って0.01秒で注射器投げてくるひとから言われたくないよな ―― さて、俺は、ガムテープでも出して研究員をサックリ拘束するか。


「ゼファー、すまんが、もうちょい押さえててくれ」


〈はいな〉


「っ! ゼファー! 離れろ!」


 なんと研究員、槍で押さえられずに自由になっていた左手で再び注射器を取り出したのだ。そのポケット、どんだけ注射器入ってんの!?

 ゼファーの脇めがけて、勢いよく針を突き立てる……!


〈ひぇっ!〉


 間一髪。

 ゼファーは研究員を放し、天井に飛び上がった。

 短く舌打ちをする研究員。


「いや、ひどいな!?」


「侵入者は実験台にしていいのが、当研究所のルールです」


〈誤解してはるわ、あんた。うちら、ただの商人でっせ〉


「ただの商人が、自力でここまで来れるわけ、ないでしょう!?」


 天井すれすれのゼファーに、またしても注射器を投げる研究員。

 この隙に……

 俺はそっと 《神生の螺旋》 を唱える。が、研究員に気づかれた。

 注射器が、とんでくる……!


 カーン! …… カシャンッ


 注射器は俺が取り出したモノに跳ね返され、床に落ちて壊れた。


「なんですか! そのフライパンみたいなものは!」


「高級・鉄製フライパン。熱伝導がよく手入れがしやすく、おまけにこれで調理すると鉄分も摂れる優れモノ」


 このフライパン、俺がで休職した際に、心配した同僚がくれたものだった。じつは当時は、症状がひどすぎて料理の手順がまったく頭に入らなかったため 『せっかくもらったのに料理すらできない俺、ダメなやつ』 と自分を責める道具でしかなかった。が、今さらながら有難い……

 盾のように使って注射器をガードしつつ、研究員に近寄れる、という点で。


「……っ! やめてっ! こないでほしいです!」


「というか、注射器投げないでほしいです。もったいないだろ」


「だって警備用機械生命オートマタが動かないから!」


「あー…… それは、すまん」


 すでに研究員の間合い、ぎりぎりだ。

 新たな注射器を俺に向けてかまえ、ぶるぶる震える研究員。危険人物には違いないが、実は俺以上に戦闘慣れしていないんだな……

 だからといって、もちろん同情も油断もできないが。

 さて。

 注射器とフライパン、どっちが速いか ――


 注射器の針が、俺の胸めがけて、すごい勢いで繰り出される。

 避けきれない……!?

 ちくっと胸の中央付近に痛みが走る。しまった……!


 だが、同時に俺は、研究員の頭めがけて、フライパンを思い切り振り下ろしていた ――


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