「ドブラ議員か」 「あのクソ野郎ね!」
俺とベルヴィル議員のセリフが、重なる。
いやまあ95%くらい、そうじゃないかと思ってたけどな。
―― ドブラ議員は、スライム奴隷から
つまり、イリスが動かなくなった直接的・間接的原因のすべてがドブラ議員にあるといってもいいのだ。
よし、さっさと倒そう。そして、イリスとイリスの両親と、スライム奴隷たちを助ける。
「許せませんわ!」 〈天誅でんな!〉
ソフィア公女とゼファーも力強く、うなずく。
俺たちはさっそく、作戦会議に入ったのだった ――
3日後。ベルヴィル議員の申請により招集された
委員は賛成多数で
ドブラ議員の逮捕を指揮するのは、ベルヴィル議員。ドブラ議員邸があるのは8区だが、8区の委員が3区のベルヴィル議員に仕事を譲った形だ。
(それだけベルヴィル議員の怒りが、すさまじかったともいえる)
俺たちは別行動をとり、スライム奴隷の救出を行う。イリスの両親さえ助けたら、イリスの
あと少しで ―― イリスにまた、会える。
「じゃな。健闘を祈る」
「あら。リンタローとゼファーもね」
「ドブラは任せてね、リンタロー!」
〈あとで、お祝いやで! イリスはんも一緒に、みんなでな!〉
十人委員の緊急会議から、さらに5日経った朝 ――
ドブラ議員の逮捕作戦は、ついに決行を迎えた。
ソフィア公女は、リベレコ港へ。狙いは、港に停泊しているドブラ議員の交易船である。ソフィア公女ならではのやりかたで、船を破壊して積み荷と兵力に損害を与え、ドブラ議員を
ドブラ自慢の私兵は、本人の護衛以外はすべて
そしてゼファーと俺は、普通に行商人と錬金術師としてドブラ邸へ向かった。
°○。°。°○。°
〈このリンタローはんっちゅうおひとの凄いところはやね、どんなケガや病気でも、錬金術で、ふぁさっと治してしまいよるとこなんですわ〉
「ほう…… それは前代未聞ですな。
〈もちろん、ほんまのことでっせ〉
ドブラ邸の応接室。
滑らかな営業トークを繰り出すゼファーに、割かし好意的な反応をしてくれているのは、ドブラ議員そのひとだ。
白髪まじりの茶色の髪と明るい茶色の瞳。少し垂れ目がちで口角のあがった、人なつこい犬みたいな顔立ち ―― このひとが裏でやってることをあらかじめ知らなかったら、絶対に誤解する。 『良い人』 だと。
〈ほら〉 と、ゼファーは背中の翼をひろげ、ドブラ議員に見せる。
〈おたくの警備用
「ああ…… その件は、申し訳ありませんでしたな。改めて、補償を……」
〈そんなん、ええですから。そのかわりと言うてはなんですが、ぜひ、このひと
「そうですなあ…… 錬金術で怪我は治せるかもしれませんが…… たとえば夢見の悪さなどは、無理でしょうな」
―― かかった。
実は俺たちはここ1週間ほど、ドブラ議員に
ベルヴィル議員を襲っていた
これまでの復讐に、とびきりの悪夢を見せると張り切っていたから ―― ドブラ議員はかわいそうだが、自業自得だな。
俺はさりげなさを装い、ドブラ議員の顔を見た。目の下にうっすらクマができている。
「夢見が……? よく眠れないのか?」
「仮に、の話ですな。錬金術師では夢見の悪さなど、どうにもできますまい」
「まあ、そうだな」
だが、なにも期待していなければ、俺のような無名の錬金術師に、わざわざ会おうとは思わないはずだ。
本心では、
ならば望みどおり、
――
その間に、ソフィア公女が竜使いの能力で
「夢見はどうにもならないが、よく
「ほう。
「心あたりが、あるのか?」
「いや…… 聞いたことも、ありませんな」
この程度の
いまの俺の目的は証言集めではないから別に、いいが。
「おすすめしたいのは睡眠の質を高める…… つまりはよく眠れるようになるための、栄養剤だ。特殊なポーションの錠剤タイプ、くらいに思ってくれたらいい」
俺は、あらかじめチート能力で出しておいた数種類の睡眠サプリをドブラ議員の間に並べる。
―― 長時間型の強力な睡眠薬を勧めて深く長く眠らせ、その間に色々とやってしまったほうが、ことは簡単なんだが……
どう考えても、きちんと診察もせずに眠剤を処方するのは、俺にはできなかった。たとえ相手が悪人でも…… 医療は、人を助けるためにあるのだ。逆はない。
―― 結果、サプリしか選択肢がなくなってしまったわけである。我ながら不本意だ。
しかしまあ、いまは単に時間稼ぎができれば、それでいいからな。
ドブラ議員は、俺が並べた錠剤を下目で見て、咳払いをした。
「見たこともない薬ですな」
「当然だ。オリジナルだから」
「効きますかな?」
「それは、ひとつずつ試してもらうしかないな。効き目には個人差があるんだ」
ちなみに睡眠サプリの類はどれも、前世の俺にはあまり効果が実感できなかった…… ことは言わず、サプリのひとつひとつについて、なるべく丁寧に説明を始める。
しばらくたったとき。
「失礼します!」
ふいに、緊迫した声とともに応接のドアが激しく叩かれた ―― やっと、きたか。
「失礼します! リベレコ港にて、
「なんですと!?」
家令 (だか執事だか) の報告に、ドブラ議員が立ち上がる。
ソフィア公女、うまくやったみたいだな…… 竜使いの実力発揮だ。
「船の警備用
「全機、海に引きずりこまれ、損壊、ある位は機能停止しております!」
「なんと…… 客人、すまぬが、また日を改めていただけますかな」
こんなときでも、ドブラ議員は丁寧さを崩さないんだな。こんな人が、裏で悪事を働く理由がわからない。
〈もちろんですわ。大変でんなあ!〉 と、ゼファーが翼をばたつかせた。
〈よろしければ、なにか手伝いまひょか?〉
「いえ、けっこう…… では、失礼」
「ああ、俺たちも、これで失礼する」
俺とゼファーはわざとゆっくり、応接室を離れる。館には、ドブラ議員が使用人たちに何事かを指示する声が響いていたが、すぐに静かになった。
―― 最低限の使用人と警備用
「予定どおり」 〈でんな!〉
残った数少ない使用人に見送られ、いったん門の外に出た俺とゼファーはハイタッチで作戦の成功を祝った。
さて、本番はこれからだ。
一刻も早く、イリスの両親とスライム奴隷を救出し、イリスの
まずは、残りの警備用
「ヘイ、ウィビー」
俺はアイテムボックスから天才的なア○フォンを呼び出した。