「いやあ、面目ない! これくらい、受け止められるだろうと、思ったんだがね!」
「明らかに体格差あるだろ…… とはいえ、パパさんのおかげで、鳥人さんは目立った外傷なし、だ」
{ウッウパパさん、偉いのです!}
「パパ、かっこいい!」
「いやあ、はっはっは。それほどでも、あるかな!」
俺たちが到着したとき、ウッウパパは、気絶した鳥人に完全に押し潰されていた。
俺とイリスで鳥人を横に寝かせ、まずはウッウパパの治療を行う。幸い、頭には直撃していない。怪我は、打撲と
俺のチート能力 《神生の螺旋》 で必要なものを出して応急処置し、イリスにポーションを錬成してもらってウッウパパに渡す。
ポーションを飲んで3分経ったら包帯を外して、と……
「おお!? もう、動かせるぞ!?」
騒ぎを聞きつけて集まってきた
「治癒魔法よりすごいな!」 「大錬金術師さま……!」 「もう、ずっとここにいて!」
いや、だから、適切な応急措置とポーションによる体力回復の相乗効果に過ぎないんだが…… って、誰も聞いてないか。まあ、いい。
さて、次は鳥人だな。
体温、呼吸はやや低めだが、正常範囲内。目立った外傷はやはり、なし。
それより問題は、意識レベル。熟睡ならいいが、意識障害だと厄介だ。 《神生の螺旋》 でMRIとか出せるかな? 前世で検査技士さんにお願いしてたのが、使ったうちに入るといいんだが……
とりあえず、
あとは声かけ・物理刺激で覚醒するか……
「もしもーし」
耳元で話しかけると、うるさそうにそっぽを向かれた…… 目は閉じられたままだ。
こんどは肩に手を掛け、揺すぶる。
「もしもーし。起きれますか?」
お。うっすら目が開いた…… どうやら、MRIは必要なさそうだ (ほっ) ―― っ!?
いきなり鳥人が、ガバッと跳ね起き、背後に飛びすさった。次の瞬間。その手にいつのまにか握られていた槍が、俺の胸に向けて繰り出される……!
{リンタロー様っ}
イリスが俺にかぶさってくるのと、ほぼ同時。
ガンッ……!
「イリス…… 防具にもなれたのか」
{まにあってよかったのです!}
ガンッ、ガッ、ガッ、ガンッッ……
イリスが返事するあいだも、攻撃はやまない。
たしかに俺は無事だが…… いやもう、そんなに突かないで!
{あっ、前にも言いましたが、スライム族の外皮粘膜は痛覚ゼロですし、傷は一瞬で、修復されるのです! どんどん突かれて大丈夫ですから!}
「あー、ならいっか…… って、ならんだろ! ちょっと待て、落ち着け鳥人さん!」
〈人間に人権はない! 滅ぼす!〉
「なんか、すごい言葉聞いた…… だから、待てって!」
ガンッ、ガッ、ガッ、ガンッッ……
{あれー? うっるさいハエさんですねえ?}
高速で繰り出される突きの嵐にも、イリスは余裕で耐え…… なんなら
けど、あまり突きまくられると痛いんだよ! 俺の心が! 申し訳なくて!
もう、いい加減やめて…… あれ、でも。
攻撃は胸だけにワンパターンで、防御してない頭や目、喉元には、なぜか来ていない。つまり……
俺への敵意というより、
「《神生の螺旋》…… 『帝室技芸員月山貞一』!」
俺がチート能力で取り出したのは、日本刀。鋭く光る刀身からは、威厳すら感じられて ―― 手にするだけで自然に姿勢が正される。さすが名工の作品、といったところか。
鳥人の振り回す刃が、うなりをあげて迫ってくる。
〈秘伝・風雷斬……っ!〉
「おっと」
秘伝、とか言っちゃうの、ノリいいな。
『風雷斬』 は、槍を風車のように回して胴を
だが刃が届く前に、俺は大きく跳んで間合いから離れる。イリス 《鎧の姿》 のサポートのおかげで、動きはスムーズだ。
さて。
勝負は、一瞬で決まりそうだな。
―― 鳥人の持つ槍は、長い木の柄の先に短剣をつけたもの。鳥人の移動力と間合いの可変域の広さ (柄を短く持つことで、近接戦にも対応可能) で、ほぼ無敵の武器と言っていい。
だが…… イリス 《鎧の姿》 を着ている俺は、槍によるダメージを気にすることなく、
〈はぁっっっ!〉
間合いを再び詰めるための、強烈な突き。
ざっ……
俺は再び、後ろに跳ぶ。穂先が届かず、鳥人が舌打ちした。
{ワンパターンですよお?}
煽るイリス 《鎧の姿》 。
〈はぁっっっ! せいっ! ちょこまかとっ! 避けるなっ!〉
俺は続けざまに跳び、槍を避ける…… もうすぐ、行き止まりだな。
背後はご近所さんの家の横に積まれた、
「イリス」
{はいです!}
「次の攻撃、左に一歩避けながら、前に出る。見切れるな?」
{ふふっ…… 誰に向かって聞いてるんですか、リンタロー様!?}
「よし」
俺は刀を構えた。我流・肩上段からのバックハンドの型……! (時代劇の斬られ役がやってそうな点については、あえてスルー)
鳥人が翼を広げ、すさまじい勢いで迫ってくる。
〈奥義・驟雨烈風!〉
猛烈な速さで全身を狙う突き…… だが俺は、その場にはもういない。
ガダガダガダガダガダッ……
何度も槍を
「奥義! 月山貞一斬!」
バックハンドで
バキッ……
槍が折れた。スッパリ斬れるかと予想していたんだが、意外。
〈ああああああっ……!〉
鳥人の悲鳴が、響き渡った。
【冒険者レベル、アップ! リンタローのレベルが17になりました。HPが+12、力が+4、防御が+4、素早さが+3されました。体力が全回復しました!】
おお、一気にレベルが2も上がった。
【自前の武器であることと、相手を傷つけなかったことでボーナスがつきましたww】
平和だな!
※※※※
〈すんませんでした……!〉
「きみたち、ほんと土下座うまいな」
槍を折られて鳥人は、やっと目が覚めたらしい。猛烈すぎる攻撃だったが、原因は熟睡からの急な覚醒による一時的な
さて、魔族共通のスキル・スライディング土下座で俺たちに謝り倒してくれたあと ――
どっと疲労感に襲われているらしい鳥人にポーションを飲ませてから、俺たちは家でゆっくりと事情を聞くことになった。
帰宅し、まずはウッウとウッウパパに、ママへのプレゼントをそれぞれ渡しておく。
ウッウはスノードームを 「パパにも内緒!」 とすぐに隠した。
「大将、センスあるねえ!」 と、ウッウパパもアンクレットの出来ばえに満足そうだ。
そして鳥人を問診。とくに痛むところや、しびれる箇所、力が入らない箇所はなし。
そうこうしているうち、イリスが人数ぶんの湯気のたつカップとお菓子の載ったトレーを持ってきてくれた。
{コーヒーです! 苦ければ、ハチミツとミルクをどうぞ}
「ありがとう、イリス」
「ボク、ミルクとハチミツいっぱい!」
「いやぁ、おかまいなく! ……そうですか、ではでは、せっかくなので、遠慮なく!」
この大陸ではコーヒーの樹は自生しておらず、南の大陸からごくわずかにもたらされる貴重品だ。
だからコーヒーは、一般にはほとんど知られていない飲み物…… だが、俺は 《神生の螺旋》 でコーヒー豆を出せるのでイリスはもとより、ウッウもパパもすっかり慣れてくれている。
しかし、鳥人はどん引いて黒い液体を見つめた。
〈なんですか、これは……っ〉
「ああ、コーヒーという飲み物だ。苦いから、ミルクとハチミツ入れたほうがいい。ほれ」
〈…………〉
おそるおそる口をつけた鳥人の目がひとまわり大きくなり、それから、ふわっと和んだ。
〈おいしいです……〉
「それはよかった。じゃ、事情を聞こうか」
〈申し遅れました。うち、ピトロ高地の
「へえ……」
たしか、センレガー公爵領の南がピトロ高地で、そのさらに南がイールフォの森。世界樹があるエルフの本拠地だったな。それから、その西がラタ共和国…… 前世のゲームでも行ったことがないが、人間の国だったはずだ。
「で、その辺で商売してるゼファーさんが、どうしてこんなところまで、飛んできた?」
〈それが、うちらが最近、エルフたちに売り始めた
「え゛」
―― ああ…… すごい、嫌な予感。