「《錬成陣スキップ ―― 金装飾》」
俺の手のしたに、光る錬成陣があらわれる。
中心に
これから俺が作るのは、ウッウママのためのアンクレット ―― 足の装飾品は、こけないためのおまじないとして
誕生日プレゼントとしてウッウパパから依頼されたので、世話になっている礼もかねて無償で引き受けた。
「《アンクレット、錬成開始》」
俺はバフォメットの上に金のインゴットを置いた。ぱっと幻影の炎があがり、インゴットが溶けていき、俺のイメージに合わせて形を変える。
幾本もの細い糸にした金を、もふもふの毛が絡みにくいように隙間なく編み上げて、と。
できた。
「《鑑定》 …… おお」
『《金のアンクレット》 ランクC レベルS 売価 350,000
レベルS、それに転倒防止のほか、
【スキルレベル、アップ! リンタローのスキルレベルが20になりました。MPが+34、技術が+30されました。特典能力 《神生の螺旋》 の使用回数が29になりました。MPが全回復しました! アイテムボックスがlv.4になりました。レベル20到達特典として 《超速の時計》 に新機能 《時間経過》 が追加されました。3日に1回まで使用可能です】
おっ、俺のスキルレベルもついにlv.20か…… アイテムボックスも、順調に成長。 《超速の時計》 の機能追加も、地味にありがたい。レベルの高い錬成ほど、時間がかかるからな。
あと、MPと技術の上げ幅すごいな? なんかしてくれたのか、AI?
【いえいえww ここのとこずっと、
そっか…… ピエデリポゾ村に帰ってきてから、ずっと錬金術師の仕事ばかりだったからな。
ポーションの需要はほとんどなかったが、村のみんながちょくちょく、皿やら農具やらの錬成を頼んでくれるのだ。
「平和って素晴らしい」
俺は、錬成部屋の高い丸天井を見上げた。
天井には、魔王ルキアと6大魔族の紋章が基本の錬成陣の形に刻まれている。
―― 俺とイリスが
天井の刻印は、錬成の効果が最大限に引き出せるように、という
「このまま平和にのんびり、スキル上げていきたいな……」
【フラグだったらどうしますww】
それは言わないでほしい。
{リンタローさま、お昼ごはんなのです!}
「ボクも、おてつだいしたよ、ししょー!」
イリスとウッウが、俺を呼びにきてくれた。
―― ウッウは最近、俺の家にいりびたりだ。
『錬金術師にボクもなる!』 と宣言して、イリスや俺を手伝ってくれている。
「そうだ、ウッウ。パパからの依頼、できたぞ」
「ママへのプレゼント? ボクも作りたい!」
「そう言うと思って、インゴットを少しとってあるんだ」
「やったぁ!」
ふわふわの茶色い毛玉みたいな小さな手が、ばんざいした。なごむ。
「ボク、まだポーションlv.1だけど…… 金ぱくいりとか、できるかなあ?」
「そうだな……」
{よかったら、わたしも協力するですよ、ウッウさん!}
「ほんと!?」
{ですです! ウッウママさんには、わたしもお世話になってるのです}
「わぁい!」
手をとりあう、イリスとウッウ。ふたりの青紫の目と黒い目が同時に俺に向けられた。
{いいですよね、リンタローさま?}
「いいですか、ししょー?」
「もちろんだ。錬成陣の描きかたは勉強しなきゃだが、ママさんへのプレゼントは特別だからな」
「やったぁ!」
ウッウがまた、ばんざいした。
「ウッウは、なにを作りたいんだ?」
「あのね、ガラスのなかに、家があるの」
ウッウは壁にはめられた
やわらかく光る白い
「ああ…… スノードームだな」
「うん! きれいなの!」
「よし、昼食のあとで、いっしょに作るか」
「ボクがつくるんだからねっ! ししょーは、みてて!」
{楽しみですね、ウッウさん}
ウッウがスキップし、イリスがほわんと笑った。
コカトリスのけんちん汁と親子丼、それに白マンドラゴラの漬け物…… 昼食は、使ってる材料こそ異世界っぽいが、かなり和風だった。
デスソース入りの
―― こっちに帰ってきて、もうすぐで2ヵ月。
すでにイリスは、米の釜炊きをマスター。日本の炊飯器に勝るとも劣らない、ごはんが炊けるようになっている。
それどころか、意外なところで凝り性を発揮し、味噌や醤油の
{原材料さえあれば、いつでも味噌や醤油を錬成できるのです!} と張り切っているのだ。驚異の能力が、とどまるところをまじに知らない……
昼食のあとは、スノードーム作りだ。
「錬金釜に材料を入れて指示を出し、作りたいものをイメージする。イリスは優秀だから、いまは自分のレベルは気にしなくていい。イメージが明確なほど、良いものができるぞ」
「うん! わかりました、ししょー!」
錬金釜になったイリスに、ウッウがインゴットときれいな色の石を入れた。
「スノードームの錬成がしたいです! おねがい、おねえちゃん!」
{了解しました。 《スノードーム》 の錬成を開始します……}
イリス 《錬金釜の姿》 のなかから虹色の光が放たれ、ウッウの真剣な顔を照らす。
どんなスノードームにするか、いっしょうけんめい想像しているところなんだろうな、ウッウ。
イリス 《錬金釜の姿》 も、ウッウの黒い目も、きらきらしてる。
{錬成度、70%…… 80%…… 錬成度、95%…… 100%。錬成、終了。 《スノードーム》 の錬成に成功しました}
少女の姿に戻ったイリスが、ウッウにスノードームを差し出す。
{どうぞ、ウッウさん}
「わぁ、きれい! ママ、よろこぶかな」
「そりゃ、よろこぶだろ」
金と白銀の混じった雪が降るスノードーム。なかには、広場をはさんでウッウの家と俺の家が…… ん? 俺の家、錬成室の窓からちっこい俺たちが見えてる…… あ。ウッウの家のドアが開いた。
ウッウパパがママとウッウの弟妹たちに手を振って、俺の家に向かって歩いてくる…… これが、異世界仕様のスノードームか。
「つまりこのスノードームのなかの俺たちが持ってるスノードームのなかには、さらにちっこい俺たちが?」
{ですけど、なにかおかしいですか?}
ミクロの世界への扉、簡単に開きすぎだと思うんだが。
―― あれ? 空から……
「おんなのこがふってきた!」
「え? 大きめの鳥じゃないのか?」
{鳥人の女の子ですよ、リンタロー様!}
スノードームの空から、鳥のような頭と翼、黒白まだら模様の羽毛に包まれたボディーの少女が落ちてくる。半分閉じた翼と、ぎゅっと縮こまった手脚…… 飛び疲れて気絶したのか?
このまま落ちると、地面に激突する……!
ウッウパパも気づいたようだ。あわてて駆け寄る…… 魔法で、浮遊させるつもりか?
「パパさん、重力魔法使えたんだな」
「んーん? ふつうのまほうしか、つかえないよ?」
ふつうの魔法ってのは、日常生活の範囲で使う地火風水の四大元素魔法のことだ。たとえばちょっと薪に火をつけたり、風で洗濯物を乾かしたり、という。
この程度なら魔族は訓練せずに使えるが、攻撃魔法や重力魔法は、魔族であっても訓練と免許が必要なのだ。
―― ということは、このまま衝突……!?
「まずい。助けに行かんと……!」
{急がないと、ですね!}
部屋をとびだす俺とイリスの背後では、ウッウが 「パパー!」 と叫んでいた。