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第28話 空から女の子が降ってきた

「《錬成陣スキップ ―― 金装飾》」 


 俺の手のしたに、光る錬成陣があらわれる。

 中心にバフォメット解析と統合、周囲にマルドゥークが3、アシュタルテが2、レプト1、バアル1が配置され、外縁にルキア

 これから俺が作るのは、ウッウママのためのアンクレット ―― 足の装飾品は、こけないためのおまじないとして二足歩行犬コボルト族に人気の贈り物だ。

 誕生日プレゼントとしてウッウパパから依頼されたので、世話になっている礼もかねて無償で引き受けた。


「《アンクレット、錬成開始》」


 俺はバフォメットの上に金のインゴットを置いた。ぱっと幻影の炎があがり、インゴットが溶けていき、俺のイメージに合わせて形を変える。

 幾本もの細い糸にした金を、もふもふの毛が絡みにくいように隙間なく編み上げて、と。

 できた。


「《鑑定》 …… おお」


『《金のアンクレット》 ランクC レベルS 売価 350,000Nニャン ※錬金術師が心を込めて作ったアンクレット。転倒防止、火傷やけど防止効果つき』


 レベルS、それに転倒防止のほか、火傷やけど防止の効果までつけられた。順調だな。


【スキルレベル、アップ! リンタローのスキルレベルが20になりました。MPが+34、技術が+30されました。特典能力 《神生の螺旋》 の使用回数が29になりました。MPが全回復しました! アイテムボックスがlv.4になりました。レベル20到達特典として 《超速の時計》 に新機能 《時間経過》 が追加されました。3日に1回まで使用可能です】


 おっ、俺のスキルレベルもついにlv.20か…… アイテムボックスも、順調に成長。 《超速の時計》 の機能追加も、地味にありがたい。レベルの高い錬成ほど、時間がかかるからな。

 あと、MPと技術の上げ幅すごいな? なんかしてくれたのか、AI?


【いえいえww ここのとこずっと、錬成お仕事がんばってたからですよww】


 そっか…… ピエデリポゾ村に帰ってきてから、ずっと錬金術師の仕事ばかりだったからな。

 ポーションの需要はほとんどなかったが、村のみんながちょくちょく、皿やら農具やらの錬成を頼んでくれるのだ。


「平和って素晴らしい」


 俺は、錬成部屋の高い丸天井を見上げた。

 天井には、魔王ルキアと6大魔族の紋章が基本の錬成陣の形に刻まれている。

 ―― 俺とイリスが心核薬あぶないクスリの調査に出ているあいだに、ピエデリポゾ村では中央広場近くの空き家をきれいにリフォームしたうえ、新しく錬成部屋を増築してくれていたのだ。

 天井の刻印は、錬成の効果が最大限に引き出せるように、という領主様アシュタルテ公爵の指示だそう。彼女のこと、使えない人間は踏みつぶし使える人間は駒扱いする血も涙もない魔族じゃないかと、ちょっと思っていたが…… そればかりではないらしい。


「このまま平和にのんびり、スキル上げていきたいな……」


【フラグだったらどうしますww】


 それは言わないでほしい。



{リンタローさま、お昼ごはんなのです!}


「ボクも、おてつだいしたよ、ししょー!」


 イリスとウッウが、俺を呼びにきてくれた。

 ―― ウッウは最近、俺の家にいりびたりだ。

 『錬金術師にボクもなる!』 と宣言して、イリスや俺を手伝ってくれている。


「そうだ、ウッウ。パパからの依頼、できたぞ」


「ママへのプレゼント? ボクも作りたい!」


「そう言うと思って、インゴットを少しとってあるんだ」


「やったぁ!」


 ふわふわの茶色い毛玉みたいな小さな手が、ばんざいした。なごむ。


「ボク、まだポーションlv.1だけど…… 金ぱくいりとか、できるかなあ?」


「そうだな……」


{よかったら、わたしも協力するですよ、ウッウさん!}


「ほんと!?」


{ですです! ウッウママさんには、わたしもお世話になってるのです}


「わぁい!」


 手をとりあう、イリスとウッウ。ふたりの青紫の目と黒い目が同時に俺に向けられた。


{いいですよね、リンタローさま?}


「いいですか、ししょー?」


「もちろんだ。錬成陣の描きかたは勉強しなきゃだが、ママさんへのプレゼントは特別だからな」


「やったぁ!」


 ウッウがまた、ばんざいした。


「ウッウは、なにを作りたいんだ?」


「あのね、ガラスのなかに、家があるの」


 ウッウは壁にはめられた黒板ブラックボードまで、てとてと走っていき、銀色のペンをとった。

 やわらかく光る白い魔素マナインクが黒板に、たどたどしい線を残していく。


「ああ…… スノードームだな」


「うん! きれいなの!」


「よし、昼食のあとで、いっしょに作るか」


「ボクがつくるんだからねっ! ししょーは、みてて!」


{楽しみですね、ウッウさん}


 ウッウがスキップし、イリスがほわんと笑った。


 コカトリスのけんちん汁と親子丼、それに白マンドラゴラの漬け物…… 昼食は、使ってる材料こそ異世界っぽいが、かなり和風だった。

 デスソース入りのハー○ンダッツアイスクリームにハマったイリスが、俺の前世の料理を知りたがったおかげだ。

 ―― こっちに帰ってきて、もうすぐで2ヵ月。

 すでにイリスは、米の釜炊きをマスター。日本の炊飯器に勝るとも劣らない、ごはんが炊けるようになっている。

 それどころか、意外なところで凝り性を発揮し、味噌や醤油のこうじの育成まで始めた。

{原材料さえあれば、いつでも味噌や醤油を錬成できるのです!} と張り切っているのだ。驚異の能力が、とどまるところをまじに知らない……


 昼食のあとは、スノードーム作りだ。


「錬金釜に材料を入れて指示を出し、作りたいものをイメージする。イリスは優秀だから、いまは自分のレベルは気にしなくていい。イメージが明確なほど、良いものができるぞ」


「うん! わかりました、ししょー!」


 錬金釜になったイリスに、ウッウがインゴットときれいな色の石を入れた。


「スノードームの錬成がしたいです! おねがい、おねえちゃん!」


{了解しました。 《スノードーム》 の錬成を開始します……}


 イリス 《錬金釜の姿》 のなかから虹色の光が放たれ、ウッウの真剣な顔を照らす。

 どんなスノードームにするか、いっしょうけんめい想像しているところなんだろうな、ウッウ。

 イリス 《錬金釜の姿》 も、ウッウの黒い目も、きらきらしてる。


{錬成度、70%…… 80%…… 錬成度、95%…… 100%。錬成、終了。 《スノードーム》 の錬成に成功しました}


 少女の姿に戻ったイリスが、ウッウにスノードームを差し出す。


{どうぞ、ウッウさん}


「わぁ、きれい! ママ、よろこぶかな」


「そりゃ、よろこぶだろ」


 金と白銀の混じった雪が降るスノードーム。なかには、広場をはさんでウッウの家と俺の家が…… ん? 俺の家、錬成室の窓からちっこい俺たちが見えてる…… あ。ウッウの家のドアが開いた。

 ウッウパパがママとウッウの弟妹たちに手を振って、俺の家に向かって歩いてくる…… これが、異世界仕様のスノードームか。


「つまりこのスノードームのなかの俺たちが持ってるスノードームのなかには、さらにちっこい俺たちが?」


{ですけど、なにかおかしいですか?}


 ミクロの世界への扉、簡単に開きすぎだと思うんだが。

 ―― あれ? 空から……


「おんなのこがふってきた!」


「え? 大きめの鳥じゃないのか?」


{鳥人の女の子ですよ、リンタロー様!}


 スノードームの空から、鳥のような頭と翼、黒白まだら模様の羽毛に包まれたボディーの少女が落ちてくる。半分閉じた翼と、ぎゅっと縮こまった手脚…… 飛び疲れて気絶したのか?

 このまま落ちると、地面に激突する……!

 ウッウパパも気づいたようだ。あわてて駆け寄る…… 魔法で、浮遊させるつもりか?


「パパさん、重力魔法使えたんだな」


「んーん? ふつうのまほうしか、つかえないよ?」


 ふつうの魔法ってのは、日常生活の範囲で使う地火風水の四大元素魔法のことだ。たとえばちょっと薪に火をつけたり、風で洗濯物を乾かしたり、という。

 この程度なら魔族は訓練せずに使えるが、攻撃魔法や重力魔法は、魔族であっても訓練と免許が必要なのだ。

 ―― ということは、このまま衝突……!?


「まずい。助けに行かんと……!」


{急がないと、ですね!}


 部屋をとびだす俺とイリスの背後では、ウッウが 「パパー!」 と叫んでいた。

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