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第19話 恩返しのパワーはチート級だった

 かつて日本の上空から、街を守ってきたヘリコプター。俺が航空博物館でシュミレーターをさわったのは、もう20年ほども昔だ ――


「うわっ。計器、多っ……!」


{全然わからなくて、すごいです!}


「うん。もし昔の記憶が完璧でも、この選択はなかったわ」


 だが驚いてばかりも、いられない。

 いま、ヘリコプターの前にはソフィア公女とバーバラが立ちはだかっている。

 センレガー公爵軍の分隊を止めてくれているのだ ―― ヘリ、なんとしても動かさないとな。


「えーと…… まずは、電源」


 スイッチを押すと各種の計器にライトがつく…… しかし。


「燃料とバッテリー以外、わからん……!」


 ごめん。正直、ヘリ、舐めてた。

 だって 『ヘリは陸でいうとバイクみたいなもの』 とか聞いたことがあったから…… いや。   

 なにか打開策が、あるはずだ。


 ―― 外では、ソフィア公女が分隊長を必死で説得している。


 「もし、わたくしを無視するおつもりなら……!」


 どうするんだ?


「お父様に使いをやって 『分隊長のせいでお父様が大嫌いになりました!』 と伝えますから!」


「…………!」


 分隊長、あきらかにひるんでるな。

 ―― ソフィア公女は、センレガー公爵のことを、まだ嫌いにはなりきっていないんだ。それはそうか。父親だもんな。

 ならば、これ以上、こじれさせゃいけない ―― そのためにも、俺は、カイル皇子を連れて逃げなきゃな。

 よし。とりあえず、それっぽいスイッチを順次、押してみるか (あまりにも無謀だが) ……


 ブゴォーッ……


 お、ラッキー。モーターが回転し始めた。だが、まだ回転数が足りない…… 出発は無理だ。


「どいてください、ソフィア公女殿下!」


 そして分隊長、覚悟を決めたようだ。まずい。

 急がないと ―― っても、どうすればいいんだ? この 『燃料バルブ』 でも、開いてみるか? (爆発したらどうしよう)


 焦る俺の手元を、イリスがひょい、とのぞきこんだ。


{とりあえず、この機械の魔素動力装置マナ・モーターを動かせばいいんですよね?}


「ああ、まあ…… 魔素マナじゃなくてジェット燃料エンジンなんだが」


{ジェット……? わからないですけど、やってみるんです!}


 イリスがパネルに両手を置いた。

 全身から、キラキラと光るグリッターが立ちのぼり…… 機体に、吸い込まれていく!?


同化シンクロ率 20%…… 同化シンクロ率 30%……}


 ちょっとイリスさん!? どっかの (巨大) 人造人間みたいになってるよ!?


{…… 同化シンクロ率 50%…… 同化シンクロ率 75%……}


 外からは、ソフィア公女、バーバラ、分隊長の叫びが入り交じって聞こえてくる。


「ならば、わたくしを倒してから…… ああっ!」 「ソフィア様!」


「失礼します! ご命令ですので!」


 ついに、突破されたか……!

 だが、すぐに攻撃してくる気配はない。かわりに、驚いたような兵たちの声。


「なんと強烈な魔素マナ……!」 「急に、どうしたんだ!?」

「おおっ、目が……!」 「目が出たぁぁ!」

「 こ わ っ 」


 ? もしや、イリスがシンクロしたことで、ヘリの機体ボディーにも変化が……!?


「おそれるな! モンスターに向かって、突撃!」


{…… 同化シンクロ率 95%、同化シンクロ率 100%…… こわいとかモンスターだとか、失礼なのです!}


 イリスがヘリの気持ちを代弁し始めた。

 プロペラの、力強い回転音。


{発進です!}


 「「「ぅわぁっっ!?」」」


 ヘリが宙に浮き、あおりをくって分隊が吹っ飛ぶ。


【冒険者レベル、アップ! リンタローのレベルが13になりました。HPが+7、力が+2、防御が+2、素早さが+3されました。体力が全回復しました!】


 おっ、冒険者レベルが一気に3つも、上がったな。

 ―― だが、分隊倒したのは、イリス 《ヘリに同化》 じゃないのか、AI?


【リンタローは操縦しているので、経験値は半分ずつ。共同作業ですねww】


 なるほど、そっか……

 ある程度の高さまで上がったところで、俺はヘリの向きを変えた。

 視界の隅にちらりと映ったソフィア公女は、俺たちに向かって全力で手を振っていた ――


「よし、逃げるか」


{はい! どこへ、ですか?}


「そうだな…… ウィビー、頼む」


[あーあもー、ほんとー、ニートライフでボディーばっきばきねー]


 久々に出てきたア◯フォンは、コンニャクのように前後左右に揺れた。ばっきばき、というより、くっにゃくにゃ、だ。


「ウィビー、地図出してくれ。あまり遠くなくて、センレガー公爵につかまりそうになくて、落ち着けそうな場所だ」


[もーロングタイム、ネグレクトのくせに、人使い荒いのねー、マスター]


 ま、マスター、って。自分が初めて言ったのにウィビー、気づいてるか?


[もー、しぶしぶだけどOKねー!]


「う、うん…… 頼む」


 いかん、笑いをこらえるのに精一杯だ。

 ウィビーが出してくれた地図には、センレガー領の東の海峡を越えた半島に、赤い円が表示されていた。センレガー領を高速で動いている青い点が、俺たちだな。


[オススメはマルドゥーク辺境伯領ね! ここからクローズ、つまり、めちゃ近いけど他国ねー! パーフェクトねオーサムね!]


「マルドゥーク辺境伯領か……」 


 たしか以前、ボルジュマ森林魔の森から最短2日、と聞いたな。地図を見ると、陸路はボルジュマ森林でふさがれている。とすると、センレガー公爵領からの主な交通手段は海路限定。

 だが、ソフィア公女は翼竜に乗れるから、比較的、行き来しやすい ――


「完璧だな」


[オフコース! ワタシ、究極のultimate天才intelligent頭脳brain、略してウィビー!]


「うん、すごい」


 くにゃん。

 ア◯フォンは、そっくりかえってドヤった。


「じゃ、マルドゥーク辺境伯領に行くか、イリス」


{はい! 魔族将軍・マルドゥーク辺境伯領に出発ですね}


 イリスから再び光の粒子が舞い、俺の手元のスティックが、ぐぐっと前に傾く。前進……!


{わたし、飛んでるのです…… 速いのです……}


 時速100km ―― さっきソフィア公女たちと一緒に眺めた街が、眼下をぐんぐんと過ぎていく。建物や道の赤い煉瓦はピトロ高地で生産されていて、高い時計台は教会の建物、だったな。

 海が近づいてきた。もうすぐ、センレガー公爵領から出ることになるのか…… バンッ!

 突然、なにかがぶつかる音がした。

 機体が大きく揺れる …… 鳥でも、衝突したのかな?

 後部座席…… けっこう揺れたが、カイル皇子は無事なようだ。いつのまにかシートベルトをしている。


「イリス、カイル皇子のシートベルトって、でぃっ……!」


 ドンッ 


 また機体が揺れて、うっかり舌を噛んでしまった…… いたい。


{リンタロー様! うわわわ、もしかして、お怪我を……!?}


「いや、問題ないでぃっ……!」


 ドスンッ

 3度めの衝突…… いや鳥にしては、しつこくないか? しつこいといえば、カラスか? この世界にもいるのか、カラス?


{えとですね! うしろのほうに、鳥人がぶつかってきてるんです! あと、皇子の拘束バインド? は、わたしがしたのです!}


「さすがだ、イリス…… けど、鳥人? なんでだ?」


 俺、なんかしましたっけ?


{さあ…… 「おそらくは、センレガー公爵軍の鳥人部隊です」


 後部座席から声がした。


「カイル皇子、気づいたのか?」


「はい。いまは、センレガー公爵軍から攻撃を受けているという理解でよろしいですよね? ソフィアは?」


「ざっくり言うと、センレガー公爵軍から攻撃を受けて、逃げて、いま、何者かにまた攻撃されている…… かな。ソフィア公女はそのまま城にとどまってるが、無事なはずだ。狙われてるのはカイル皇子と、もしかしたら俺も…… でぃぃっ」


 何度も舌かむの、けっこうつらい。


「では、センレガー公爵軍の鳥人部隊で間違いないですね。ピトロ高地から雇った選りすぐりの傭兵で、おもに空からの見回りや諜報活動を担っています。別名、超人戦隊 「ジェッ◯マン」


「は?」


「いや、なんでもない」


 生まれる前のこと言って、すまん…… いででぃぃっっ!


{リンタロー様!}


「大丈夫ですか?」


「うん…… 薬塗っとくから。《神生の螺…… でぃっ……」


 今度は上からの衝撃…… って。

 上、プロペラ回ってるのに、よくやるな!?

 怖くないの? まさか、なんかのクスリ、キメてないよね!?

 ―― 治療はここを切り抜けて、からだな。


「よし、高度を上げて、こいつら振り切ろう。速さ競争はもしかしたら、負けるからな」


{はい! 了解です}


 イリスからまた、キラキラした小さな虹の玉が無数に放たれる。


{高度300Mみゃあ…… 高度400Mみゃあ……}


 Mみゃあは長さの単位で、1Mみゃあは大体、1mメートルだ。


 バシッ!

 今度は、下からの衝撃。


「いでぃぃっ……! まだ来るの…… でぃっ!」


{リンタロー様っ! もう、許しません!}


 許しません、って…… どうするんだ、イリス。  


{高度650Mみゃあ…… 魔素捕獲網マナ・ネット、広範囲展開!}


 なにその機能!? 警察ヘリコプターが知らないうちに魔改造されちゃってるよ!?


{ 一 網 打 尽 ! なのです!}


 輝く半透明の網が眼下に広がっていくのが見え、一瞬後。


グギャァアアアアアアアッ! ギグォォォォォッ! グアァァァァァァァァァァッ! ギゲァェェェェェェェッ! ……


 ものすごい叫び声とともにジェッ◯マンたちは捕獲されたのだった。


「イリスの能力が、とどまるところを知らない……」


{えへ。リンタロー様にご恩返しするためなら、なんでもできちゃうのかもです!}


 恩返しのパワーがチートすぎる。



【冒険者レベル、アップ! ◎△$§>∞イリスのレベルが47になりました。HPが+28、力が+14、防御が+7、素早さが+7されました!  炎耐性lv.1が付与されました!】


 イリス、レベル47!? しかも炎耐性!?


「イリス、すごいな!?」


{? どうしたのですか?}


 そっか…… この世界のもとからの住人は、冒険者レベルとか知らないんだな。


「いや、いま、AIが…… えーと、転生者のサポートをしてくれてる、精神体? みたいなやつが、イリスの冒険者レベル…… えーと、強さのレベルが47になった、と教えてくれたんだ」


{えっ、すごいのです!}


 コックピットのなかが、キラキラしたグリッターでいっぱいになった。


{これで、もっともっと、リンタロー様にご恩返しできますね!}


 イリスの良い子レベル、間違いなく9999カンストだな。


 AIが、さらに告げる。


【冒険者レベル、アップ! リンタローのレベルが15になりました。HPが+6、力が+2、防御が+2、素早さが+1されました。体力が全回復しました! レベル15到達特典として 《最新型・携帯用キッチン》 が付与されます】


 キッチンか…… 悪いがなんか、ぱっとしないな? ネタ切れか?


【ww 最新モデルのキッチンは炎龍フラムドゥラ氷龍グラシドゥラの加護つきなのですよ。煮炊きラクラク、食材の長期保存も可能ですww】


 なるほど、助かりそうだ。けどな。

 旅が長引くフラグな気がするの、俺だけじゃないと思う。


【wwww】




{ふう…… いっぱい、飛んだのです}


「イリス、助かったよ。ありがとう」


{とんでもないです! 風、気持ちよくて、楽しかったのです}


 夕日が海面に燃えるような金色をうつすころ ―― 俺たちはやっと、マルドゥーク辺境伯領の街はずれについていた。

 今日はここで、野宿だな。

 アイテムボックスから携帯用コテージとキッチンを出して設置して、カイル皇子を診察。

 カイル皇子のおもな怪我は、打撲と骨折 ―― チート能力 《神生の螺旋》 で保冷剤と包帯、副木そえぎを取り出し、打撲を冷やして骨折部分を整復してギブスで固め、それからポーションを飲んでもらう。


「あれっ、もう、動かせます……!」


「毎度ながらポーション、すごいな……」


「リンタローさんは、世界一の錬金術師ですね」


「いや、違 {ですです! 世界一なのです!}


 ―― カイル皇子とイリスの誤解のえぐさ、ポーションの回復効果なみ。


 治療が終わり、カイル皇子には念のためもう少し休んでもらうことにして、と…… 次は、捕虜の始末だ。 

 まずは、錬金術で巨大鳥籠 (オート給餌機能つき) をつくり、つかまえた鳥人たちを入れておく ―― この作業でスキルレベルが2あがり、俺は新しく鍛冶スキルをゲットした。これで、一定の品質の武具を自力で錬成できるようになる。

 このスキルが実際に役立つのは、あとで別のスキルをゲットしてからだが…… 錬金術師として、着実に成長してるな、俺。ちょっと嬉しい。


「よし、そろそろ、夕食作るか」


{はい! いっしょに作って、いいですか?}


「ありがとう。じゃ、炒め物にでも挑戦するか」


{はい! ちょっと着替えるのです!}


 ぷるんっ


「……っ! げほげほげほっ……」


 一瞬ののちに変わったイリスのコスチュームを見て、俺は、思い切りむせてしまった。

 ―― いや、リアルでそんなかっこ、するひといるとは、知らなかったわ……


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