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第12話 スライム村の秘伝はすごかった

{ふうううう…… 快適じゃのお。大自然に還るとは、こんなに涼しくて気持ちいいことじゃったか……}


{まだ死んでないですよ、おじいちゃん!}


{最期に幻とはいえ、◎△$§>∞に会えて、嬉しいのじゃ…… しかも、こんな立派な婿ムコを連れてきて…… ありがたや……}


{はうっ…… しょんな、ムコだなんて、ムコだなんてっ…… おそれおおいのですっ!}


{ほほほ、夢のなかでも、◎△$§>∞は、テれ屋さんじゃのう……}


 一見、ほのぼのとした美人姉妹だが、姉のほうのはバ美肉Vチューバーのごとく中身おじいちゃん……

 いや、熱中症でとろけてたところを車でひいちゃった割に、元気に回復してくれてよかったな、ほんと。


{ところで、リンタローさまとやら。♂化するとは、珍しいおかたじゃの…… どこのご出身で?}


「いや、俺はスライムじゃなくて、人間なんだが」


{…… 人間…… にんげん…… 人間、じゃとおおお!?}


 がばり、と身を起こすバ美肉スライムじいちゃん。


{けしからん! さては、◎△$§>∞がワシらスライム族の叡知の結晶と知って、誘惑したのじゃな!? そうじゃろう!}


{おじいちゃん、違うんですよ! リンタローさまは、いのちの恩人でなんです、ってば!}


{くっっ、ワシら一族の恩返しの鉄則を、悪用するつもりじゃな! そうはさせんぞ!}


 こういうテンションには応じないのが、俺の鉄則だ。どうせ何言っても、聞いてない。

 代わりに俺は、運転席の斜め前にセットしていたア◯フォンに話しかけた。


「ヘイ、ウィビー。アシュタルテ公爵につないでくれ」


[アシュタルテ公爵、ベリーハードね。つまり難しい、オーケー?]


「世界に1つしかない究極の頭脳のウィビーなら、できるだろ。つないでくれ」


[オーケー。しかたないから、イエース]


 俺はア◯フォンのヨイショしかたを学習した。

 ほどなく、ア◯フォンからアシュタルテ公爵の声が響く ―― とたんに座席の上でひれ伏す、イリスとバ美肉スライムじいちゃん。義理堅いな、ほんと。


『どうした? リンタロー。シュリーモの村長あたりが、ごねてるのか?』


{そうなんですっ! おじいちゃんたら、リンタローさまを悪の手先と誤解してるんです!}


「え…… おじいちゃん、村長?」


 びっくりだ。

 なんで村長がその辺で水たまりになってたの、って点で、とくに。

{そうじゃ! ワシが村長じゃ!} と、バ美肉スライムじいちゃんは、ぷるんぷるん揺れた。得意そうだな。


{村長の名にかけて! ワシのゼリーが干からびても、人間ごときに◎△$§>∞は渡さんぞよ!}


『その辺は勝手にせよ、村長。だが、そこのリンタローは◎△$§>∞とともに、我が直々じきじきにある仕事を頼んだ者でね』


{はぁぅっ! なんじゃと!? アシュタルテ公爵様が!? ◎△$§>∞も?}


『そうだ。これからリンタローと◎△$§>∞には、人間の国に情報収集に行ってもらう予定でな。いつ戻れるかわからぬゆえ、そちらに挨拶に行かせたのだ』


{つまり、◎△$§>∞は、このリンタローとやらの監視役なのじゃな!?}


『いや、我が、ふたりを信頼しておるのでな。そもそも◎△$§>∞は、リンタローの監視役はできぬだろう』


「え。そんなにすぐ信頼するか、普通?」


『ふっ…… 信頼してなければ、頼まぬよ』


 公爵、脅した次はほめ殺しか……? まあ、なんでもいい。いったん、引き受けたことだ。


{そうじゃったのか…… わかりましたのじゃ! 必ずお役目を果たせるよう、シュリーモ村あげてサポートさせていただきますのじゃ}


『うむ、頼むぞ。リンタローと◎△$§>∞は、今日はもう、ゆっくり過ごせ。城には、明日までに戻ってくればよい』


「わかったよ、公爵」


『それまでに奴隷狩どもから、有益な情報をしぼりとっておいてやろう』


 通話が切れた。

 ラストの公爵のセリフ…… 昨日聞いたところでは、奴隷狩への事情聴取は公爵の配下の夢魔ナイトメアによる精神攻撃がメインだそうだ。

 精神攻撃とはいっても、 「廃人になるギリギリ手前で止めるのだから、優しいものだ」 とドヤる感性の持ち主からの拷問だからね…… まあ、奴隷狩たちの場合は自業自得か。


{これでわかったでしょ、おじいちゃん! リンタローさまは悪い人間じゃないんですよ! おじいちゃんだって、さっき助けてもらったでしょ}


{おおっ、そうじゃった! 先ほどは、ありがとうございますのじゃ…… そして、大変、失礼しましたのじゃ。お詫びとご恩返しをかねて、シュリーモ村秘伝のご奉仕を}


{ああっ、おじいちゃん! リンタローさま、それ、ダメなんです!}


 いや、ダメ以前に、運転中だからね!?

 イリスの制止も俺のツッコミも、おじいちゃんの経験値によるとしか思えない素早さには対応不可能 ――

 俺は、バ美肉スライムじいちゃんのぽよぽよとした胸に顔を挟まれて過呼吸起こしつつ、薄れゆく意識のなかで、かろうじてブレーキを踏んだのだった。




{本当に、申し訳なかったのじゃ……}


「気にしないでいいよ、村長。ギリギリ事故らなかったしな」


{おじいちゃん、元気出してください! リンタローさまへの恩返しは、わたしがまとめて、しっかり果たす予定ですから!}


{うむ、よろしく頼むのじゃ…… じゃが、それだけではワシの気が、済みませぬのじゃ……}


 シュリーモ村は川のそばの、きれいな村だった。道も家も、よく磨かれた天然石でできていて、全体的にツヤツヤと輝いている。

 スライム族には、こういうツルっと滑らかな材質のほうが過ごしやすいんだろう。 『村ではスライムの姿、外に出るときは少女化』 というライフスタイルが、どうやら一般的みたいだ (ちなみにスライムは、♂でも少女化するらしい)。

 で、水門近くの村長の家に案内されたあと。

 俺は、1時間近くもバ美肉スライムじいちゃんからのループ謝罪を受けていた。義理堅いというか丁寧すぎるというか ―― 村秘伝の人間男性への恩返し法が不発に終わって、かなり落ち込んでるみたいだ。ここまでしょんぼりされると 「謝らなくていいよ」 とか、逆に言えない。


「あっそうだ。恩返しなら、その秘伝書に 『ただし例外あり。先方の同意を得てから実行すべし』 とでも、追記しといてくれないかな? 人間にもいろんなヤツがいるから」


{かしこまりましたのじゃ。じゃが、そんなことでは、とても恩返しには……}


「いや、じゅうぶんだ。考えてみ? ただし書きひとつで、俺は、君たちを熱中症から救うたび過呼吸の恐怖に怯えなくても、済むようになるんだよ?」


{たしかに、そのとおりじゃ……! では、さっそく行ってくるのじゃ}


 ぷぴゅんっ

 おじいちゃんは、足取りも軽く部屋を出ていった。やれやれ。これでやっと、ゆっくり……


{リンタロー! 見つけたのじゃ!}


 わずか、数分後 ―― バ美肉スライムじいちゃんは、飛ぶようにして戻ってきた。


{ワシからの恩返しは、これじゃ!}


「ん? なんだ? これ……?」


{ふっふっふ。聞いて驚くが良いのじゃ……! シュリーモ村に伝わる秘宝、古代竜核アンドゥラケルノじゃ……!}


 おじいちゃんが差し出しているのは、ひとかかえほどもある深い緑色の岩だった。光の加減で、赤い色を発する。

 古代竜核、すなわち、古代竜の心核石。尋常じゃない力を秘めた、レジェンドアイテムだ。


「うーん。いまは気持ちだけ、もらっとくよ。旅に持っていくには、重すぎて、無理だ」


{だったら加工は、どうですか? 一部を使うだけでも、けっこうスゴいアイテムになるんですよ!}


{それじゃ! さすがはワシの孫!}


 ぷるんっ

 イリスが錬金釜の姿になった。同時に、バ美肉スライムじいちゃんが {ふんすっ} と気合いで岩を粉砕…… え? そんなこと、しちゃっていいの?


{さあ、これを錬金釜に入れ、お好きなアイテムをどうぞ、なのじゃ……!}


{どうぞ、リンタローさま!}


 ここまでされたら、断りにくい。俺はイリス 《錬金釜の姿》 に古代竜核のかけらを入れた。


「いざというときに役立つアイテム、作れるか?」


{了解しました。???の錬成を開始します……}


 イリス 《錬金釜の姿》 は、緑色のなかに赤と金が踊る、クリスマスツリーみたいな光を放ち始めた ―― 


{錬成度、70%…… 80%…… 錬成度、95%…… 100%。錬成、終了。 《不屈の腕輪》 の錬成に成功しました}


「えっ…… まじで」


【スキルレベル、アップ! リンタローのスキルレベルが9になりました。MPが+10、技術が+10

されました。特典能力 《神生の螺旋》 の使用回数が18になりました。MPが全回復しました! 採取スキルlv.1をゲットしました。アイテムボックスがlv.2になりました。鑑定スキルがlv.2になりました。採取スキルがlv.2になりました】


 《不屈の腕輪》 は装備していると、HPが尽きたとき、最高ゲージの1割だけ戻ってくる ―― つまりは、。それだけでなく、装備しているだけでMPが自然回復するオマケつき。本物だとすれば錬金釜以上の高位アイテムだ。

 おかげで、スキルレベルが一気にあがったな。


「《鑑定》」


 腕輪のそばにホログラムの文字が浮かび上がる。おっ、ランクと売価が出るようになったみたいだ…… 鑑定スキルも、レベルアップしたもんな。


『《不屈の腕輪》 ランクSR レベル―― 売価 1,000,000Nニャン


 まじで、本物の 《不屈の腕輪》 だ…… すごいな!? ちなみに 『Nニャン』 は通貨の単位で 『1Nニャン = 1円 + 消費税』 だ。


{どうぞ、リンタローさま!}


 少女の姿に戻ったイリスが、俺の手をとり、腕輪をはめてくれる。


「ありがとう…… けど、こんな貴重なもの、俺がもらっていいのかな?」


{もちろんですじゃ!}


「いまさらだが、もらいすぎのような……」


{恩返しだけでは、ないのですじゃ}


「ん? どういうことだ?」


{人間の国に行くなら…… 図々しいが、お願いもあるのじゃ}


 イリスが {おじいちゃん!} とバ美肉スライムじいちゃんの口をふさごうとする。


「大丈夫だ、イリス。ちゃんと聞かせてくれ」


{うむ…… じつはの、この子の両親はいま、人間の国にいるはずなのじゃ。◎△$§>∞が生まれてすぐ、錬金釜として人間の錬金術師のもとに潜入していたのは聞いておるかの?}


「うん。それで、武器に変身できるようになったんだったな」


{そうじゃ。で、そのとき、この子の両親も少女の姿で付き添っておったのじゃが、行方知れずに…… 悪い人間に騙されたか、正体がバレて奴隷狩につかまったか…… いまでも、どこにいるか、わからないのじゃ}


{わたしが錬金釜でなかったら、助けてあげられたはずなんですけど…… というか、わたしが錬金釜でなかったら、そもそも……}


{よしよし、もうよい。◎△$§>∞は、賢い子じゃ。幼くともスライム族の望みをよく理解し、職務を全うした、偉い子じゃ。父も母も、きっと、人間の国のどこかで、◎△$§>∞のことを誇りに思っておるじゃろう}


 しょんぼりするイリスの頭を、バ美肉スライムじいちゃんがなでる。

 イリスに、そんな事情があったとは……


「わかった。人間の国に行ったら、イリスのご両親も探してみるよ」


{おおっ、ありがとうございますのじゃ!}


{リンタローさま、ありがとうございます……!}


「いいって。イリスも一緒に行くんだし。仲間のご両親を探すのは、当然のことだろ」


{リンタロー!} {リンタローさまっ!}


 感極まったらしいふたりに同時に抱きつかれ、俺はまた過呼吸に陥りそうになったのだった。


 ―― このときは、まだ俺は、普通にイリスと旅立つのだとばかり、思っていた…… だが。

 理不尽は、いつ起こるかわからないゆえに、理不尽なのだ。

 すなわち、アシュタルテ城に戻った翌日。

 俺は目隠しと猿ぐつわをされ手足を縛られ、奴隷狩2人組のでかいほうに背負われていた。

 やつらはどうやってか、閉じ込められていた塔から脱出。不意打ちで俺を襲い、人質としてさらっていったのだ。


「オレたちを解放しなければ、こいつを殺す」


 やつらがアシュタルテ公爵を脅したときには、正直、『俺ら皆殺し ⇒ 対人間的には同士討ち主張』 のルートがとられるだろう、と覚悟した。

 しかしアシュタルテ公爵は意外にも 「このまま国外追放扱いなら良い」 と、あっさり承諾。

 当然の流れで引き続き人質扱いの俺には、こっそり 「調査を忘れるな」 と言いつけた。

 いや俺、国外に出たとたん、殺されるかもしれないんだけど ―― !?

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