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転生したら何でもできるスライム娘が押し掛けてきた
砂礫零
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年10月10日
公開日
74,365文字
連載中
もと外科医、ゲーム世界に転生。驚異の能力をもつスライム娘と一緒に、錬金術+知識チートで無双する。

14歳で母親と死に別れて以来、努力を重ねて外科医となった田辺林大朗(リンタロー)。
だが手術中に父親が心筋梗塞で亡くなったことをきっかけにPTSDと鬱(うつ)を発症、手術ができなくなり、病院をやめる。
内科医として再起を図ろうとするも直前、ストーカーに刺されて生命を失う――
目が覚めたら、幸せだった子どものころにプレイしていたゲームにそっくりな世界にいた。
目の前には 「うう……」 とうめく水たまり。なんで水たまりが、うめくんだ?
―― 現実主義な主人公、目の前で起こる理不尽にツッコミ入れつつ、授かったチート能力と前世の知識をフル利用して人助け&無双する。
最大の理不尽は 「恩返しするまで離れません!」 とあの手この手で主人公を喜ばせようとしてくるスライム娘が、かわいすぎて困る件かもしれないが。

◆毎週火・木・土曜 夜8時30分更新予定

©️砂礫零
無断複写・転載を禁止します。
Unauthorized reproduction prohibited.
版权所有。
복제 금지.
転載禁止

第1話 走馬灯はゲームだった

 理不尽の連続、それが人生だと俺は思う。12歳で母親が病死したのも理不尽なら、そこから外科医を目指してひたすら努力したのに大学病院に就職して5年で父親が心筋梗塞で突然死したのも理不尽。そのとき俺は手術を執刀中だったため、あとで父親の死を知り…… ショックでPTSD (心的外傷後ストレス障害)を発症してしまい、以後、オペができなくなった。

 普段は冷静と言われることが多かった俺だが、あれはキツかった。

 手術ができない外科医なんて医師じゃない。

 自己否定するしかない状況が続いたせいか、うつ病まで併発。病院をやめた。

 その後、治療と勉強に専念し、やっと内科医としてやり直せるまでになった…… そんな折に、包丁を握りしめたストーカー女が正面衝突してきたのは、最大の理不尽だ。

 あ、これ死ぬな。

 刃を抜かれた傷口を見て、了解した。

 腹部大動脈までいってる、見事な出血だわ。

 かすんでいく目の前で、女がこんどは自分の首に包丁あててる。


「あの。頸静脈は、自分でやると死ねずに後遺症だけ残ることが多いから、やめて自首したほうがいいよ」


 これが、俺の最後の言葉だった。

 恨みや怒りは、不思議なほど無かった。人間はいつか死ぬもんだし、つきあってる彼女どころか、死ぬ前に会いたいほど仲が良い友達もいない。

 担当患者がいれば、さすがに心残りだったろうが、幸いなことに、まだ復職する前だ。

 なにより俺はもう人生に疲れている。生きている以上はそれなりに頑張らないと世間に申し訳ないから頑張っているが、本音では、いつ死んだって別にかまわないのだ。

 死がこわいとか、つらいとは思わない。人間、死ぬほどの状態になると、痛みも苦しみも感じないもんだしな。生きるのはしばしばつらいが、死は、むしろ安らかなんである…… そう、ちょうど、いまの俺みたいに。



 ―― 暗い。


 【キャラエディットを開始します…… 性別・人種を選んでください】


 AI音声とともに、現れたキャラ画像 ―― これ、俺が小学生のころハマってたゲームだ。ずっと前に、サービス終了したらしいんだが。

 死ぬ前の走馬灯だろうか。

 人生最後に見たのがまさかのゲーム…… いや、好きだったけどな!

 ゆるいオープンワールドRPGで、ストーリーはなし。仲間とダンジョンで冒険したり、家を建てて村を作ったり。自由にやってたな。

 週に1度だけ、対戦イベントがあって、襲ってくる魔族を仲間で協力して撃退してたっけ…… そのたびにNPCが 『いつか魔王を倒してくれる勇者が、きっと現れる!』 と言うのが地味に面白かった。

 戦闘職はレベルを上げると勇者にクラスチェンジできるんだが、俺の周囲でそれしてる戦闘職、皆無だったからね。温度差が笑えたんだ。

 ―― ま、とりあえずキャラエディットを進めるか。

 性別・男、短い黒髪と黒い目、中肉中背、名前は 『リンタロー』 …… 本名から普通にとった。

 ちょっと楽しくなってきたぞ。


【職業は、なににしますか?】


 ここは 『錬金術師』 一択でしょ。昔もそうだったんだ。

 子どものころはむしろ、物作りがしたかったんだよな、俺。

 職業イラストの一覧から、黒服につるっとした半透明の宝珠らしきものを抱えた 『錬金術師』 を選ぶ。 

 なんだか、わくわくしてきた。 

 好きだったゲームが死ぬ前に、できるなんてな。悪くない死にかただ ―― と、ここで。

 AIが、これまで聞いたことのないセリフをしゃべりだした。


【職業 『錬金術師』 ―― この職業を選ぶ転生者には、特典として能力 《神生の螺旋》~かみのらせん~ が付与されます】


「は!? 転生? なにそれ?」


【慣れない転生後の生活を強力に補助する能力です。使用意思をもって能力名を呼ぶと発動しますよ。どんどん使って、楽しい新生活を。グッドラック】


「いや、もうちょい詳しく説明プリーズ」


【…………】 


 AIは沈黙し、俺は目を開けた。


 ―― 暗い。

 ぴちゃぴちゃ、水の音が足元でする。

 目が慣れると、ゴツゴツした岩壁に囲まれてるのがわかった。

 遠く、やや上方に光の穴 ―― あっちが出口か。ここは、洞窟の最奥、ってところかな。

 つまり俺はいま、やたらとリアルな走馬灯を見ているのか?

 プレイヤーキャラとして、ゲームのなかに入り込んでる、みたいな内容の。


【そんなところです。ちょっと違いますが、まあ、それは後程。まずはチュートリアルからスタートしましょう】


 なるほど、チュートリアルね。

 状況には疑問しかないが…… まあ、せっかくのゲームだし、やってみるか。

 どうにもならないことを悩んでもしかたない、ってことだけは、これまでの人生でしっかり学習済みだしな。


【では、チュートリアル…… この洞窟から出てみましょう】


 OK。

 この洞窟、出口までの道はいかにも単純だが、足元が全然、見えない。明かりがほしい。

 しょうがない…… いま思い切りツッコミ入れたばかりだが、使ってみるか。


「《神生の螺旋》」


 特典能力の名称を唱えたとたん、脳内に膨大なイメージが溢れてきた。

 前世で俺が使ってきたもの、すべて ――

 それらが螺旋を描き、渦を巻いて俺を取り囲む…… 呑み込まれる!

 俺は思わず、足を踏ん張っていた。


【そうです。意思を強くもって、集中です】


 これ、呑み込まれてたら、どうなったんだ?


【転生後、第一歩を踏み出す前に the end でした。具体的には、この世界で死ぬまで廃人です】


 理不尽!


【wwww どうぞ、記憶の螺旋から、好きなものを取り出してください】


 俺は腕を伸ばし、懐中電灯を取り出した。

 明かり…… ちゃんと、点くな。


【特典能力 《神生の螺旋》 で取り出したものは、目的を達成するまで使えます。達成後は、粒子に分解され自然界に還りますので、ご注意ください】


 注意?


【取り出したものをウッカリ他者に売り付けて詐欺罪となっても、当方は一切、関与しません。また、特典能力はいくら使っても、レベルアップには貢献しません。チートに経験値は、付与されませんので】


 了解。

 じゃ、ま、行くとしますか。


 俺は懐中電灯の明かりを頼りに、最初の一歩を踏み出した。



 目、いたっ (明るすぎ)

 んでもって、暑っっ……!


 長い洞窟を抜けると、そこは真夏の国だった。

 速攻、俺は洞窟に戻りかけた。

 が、そのとき。

 足元で水たまりが、かすかに動いた。

 水たまりは苦しそうに、うめいた。


{うううううっ……}


 …… うん。ゲームのなかだもんな。

 だが、俺は開発に問いたい。

 ―― 水たまりに生命をやどす必要、どこに、あった……?


 水たまりはなおも、かぼそく訴えてくる。


{うう…… 頭がいたい……}


 頭、どこにあるんだ? 


{うう…… 気分が悪い…… はきそう……}


 胃は? あなたの胃は、どこですか?


{さ、寒い…… 寒い……}


 いや、むしろ熱いよキミ! どう考えても40度超えてるよ! 

 俺は、医師としての結論を出さざるを得なかった。


「おそらく、熱中症ですね」


 水たまり相手に、どうかしてる。

 だが、目の前に患者がいるなら、できる限りの手は尽くさねば。


「《神生の螺旋》!」


 バケツと保冷剤と経口保水液のボトル、それから扇風機。たくさん取り出すと、疲れるな。

 まず、バケツに水たまりの水…… いや、ぬるま湯を残らず集める。

 保冷剤をのせ、経口保水液を上からドボドボかけつつ、洞窟の中に避難。

 湯の温度 (患者の体温) を下げるために、扇風機で風を…… おっと、電源がいるな。


「《神生の螺旋》」


 チートにも、だんだん慣れてきた。

 たしか、災害の緊急避難場所で使ったことがある…… よし、あったぞ。ポータブル電源だ。

 扇風機をコンセントにつないで、と…… 成功。

 バケツに風があたるよう調節すると、俺はほっと息をついた。

 熱中症の応急措置、できることは全てやったはずだ。

 そして、ふと我にかえった。


「俺、なにやってるんだろう……」


 目の前の患者を助けなきゃ、とつい夢中になっていたが…… いまの俺は。

 洞窟で扇風機にぷうぷう吹かれながら保冷剤の浮くバケツを見守る厨2っぽい服装の、おっさん。でしか、ないよな……


【いまのあなたの年齢は、18歳です】


 うん、ちょっと元気でた。ありがとな、AI。


【どういたしまして】


 そのとき。

 ぷるんっ。

 バケツの水が動いた ―― いや、水じゃない。なにか、ゼリーっぽい……


 ぷるっ、ぷるぷるっ、ぷるんっ

 ぷるんっぷるんっぷるんっぷるんっ


 中学生のころ同級生がやってた、エロゲのお◯ぱいみたいな揺れかたをしながら、ゼリーの形がどんどんと整っていく……

 そうして、俺は。

 つやつやと輝く半透明の、ちょっと崩れかけた球体と、目があった ―― 目!?

 もしかして、これは……


 俺がその名を思い出すより早く、AIが緊迫した声をあげた。


【エマージェンシー。緊急速報。敵が接近します。戦闘準備をしてください】


 ええ!? 俺、武器なんか使ったことないぞ!?


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