目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第453話

 教育というものがこれほど都の質を押し上げるのかと言う事に龍たちが気づき始めたのは、教師が無事に育ち始め学校が出来てからすぐの事だった。

 倫理という物が次第に龍の中に芽生え、前年度に比べて我が子を手放す龍が減ったという報告が羽鳥から上がったのはつい先ほどの事である。

「これは君たちや楽くん達の働きも大分大きいと思うんだ」

 羽鳥が皆が出て行った後の会議室でホッとしたように息をつきながら言った。

「どういう意味ですか?」

 特に千尋も楽も何もしていないと思うのに羽鳥はそんな事を言う。

 意味が分からなくて千尋が首を傾げると、羽鳥は笑って職場見学に来ていた子どもたちを指差す。

「千隼くんと夏樹くん。この二人の功績が大きいって言ってるの」

「夏、それはだめ! それさわらないよ!」

「やー! ちーはさわってる!」

 夏樹というのは楽と菫の待望の第一子だ。火龍で力も強いが、千隼と楽にべったりの甘えたな男子である。

「ちーはもうお兄ちゃんだからいいの!」

 羽鳥の指差す先には、置いてある壺をどうしても触りたい夏樹と壊れたら大変だと思っているのか、それを阻止したい千隼が戦っていた。

 そんな二人を見て千尋は目を細めて言う。

「二人とも、そろそろ栄が迎えに来ますよ。今日は帰りに買い物をして帰るのでしょう?」

 千尋が二人に声をかえると、二人はハッとして会議室を出て行った。きっと千尋の部下である梨苑の元に上着を取りに行ったのだろう。

 元々部下の名前は覚えない千尋だが、最近ようやく彼の名前を覚えた。

 きっかけは些細な事だが千尋にとってはとても重要な事で、梨苑は鈴の洋菓子とハーブティーを褒めてくれたのだ!

 そんな訳で梨苑は今もずっと千尋の元で仕事をしてくれている。そんな梨苑に千隼達もとても懐いていた。

「それで? どうしてあの子たちが貢献しているのですか?」

「愛している人との間に出来た子どもを自分たちで育てている君たちは、とても幸せそうで楽しそうだ」

「それだけで?」

「それだけ。けれど凄く重要な事だ。外から見る限り君たち家族にはどこにも陰りや嫌な話が無い。君の所はまだ分かるよ。子どもは水龍だ。けど楽の所は子どもが火龍なんだよ。さっさと手放すだろうって皆、思ってたんじゃないかな」

「菫さんは随分手を焼いているみたいですが、流石教師だと感心しますよ」

 楽を拾った時、栄と共にそれは手を焼いたのをよく覚えている。

 火龍はとにかく気性が荒い。特に子どもの頃はちょっとした癇癪ですぐに色んな物を燃やしてしまう。それ故、火龍が生まれたらすぐに目下の者に養子にやったり、楽のように捨てたりするのが常だったのだが、もちろん菫はそんな事を許さない。

「全くだよ。あんなにも穏やかな火龍の子どもを見るのは僕も初めてだ」

 羽鳥の言う通り、夏樹は火龍にしては穏やかだ。

 けれどそれは楽と菫、そして他の皆の愛情の賜物だと千尋は思っている。

「愛されている人は安定するようですよ。マチさんが教えてくれました。夏樹は千隼と同じように皆に愛されていますからね。私が鈴さんに出会って安定したのと同じなのでしょう、きっと」

 癇癪を起こすのは何か嫌な事があるからだ。誰にも分からない、本人にしか分からない飲み込めない感情があるからだ。千尋はその事を痛いほどよく知っている。

 千尋の話に羽鳥が深く頷く。

「そうだね。君に関しては本当にそうだと思うよ。つまり、君たちの子ども幼稚園や街で楽しそうにしているのを見て、龍たちは思った訳だ。もしかしたら自分達の子どもも自分たちで育てていたらあんなにも可愛かったんじゃないか? ってね」

「そんな安易な」

「そんなもんだよ、取っ掛かりは。でもそれが目に見えて変わってきている。最近は街の中で子どもの声が増えたと思わない? あとは子どもが通う所が出来た事で親の手が空く時間も出来た。これも大きいね」

 それはそうだ。幼稚園や学校が出来て子どもたちがそこに通うようになり、街に子どもの声が増え始めた。最近はそこに楽しそうにはしゃぐ声も増えたような気がする。

「言われてみればそうですね。なるほど、それが理由だったのですか。だとすれば流星の存在も大きいのかもしれませんね。何せ都が始まって以来初めての雷龍の王ですから。もちろん、あなたの存在も」

「それもあるかもね。水龍でなくても、出自が良くなくても王や高官になれる。そういう意味では僕達の存在もまた貢献しているのかもしれないな」

 おかしそうに笑う羽鳥に千尋も頷いた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?