「とんでもないです! い、今は特に何も困っている物は無いのですが……」
「鈴、困ってる物じゃなくて欲しい物だよ」
「ほ、欲しい物ですか? ……すみません、すぐに思いつかないです……」
「欲がないねぇ、あんたは。千尋、あんたが何か見繕ってやんなよ」
「私がですか? 女性が喜びそうな物をあまり知らないのですが……」
「女性が、じゃなくて鈴が、欲しそうな物だよ。もしくは鈴に似合いそうな物とか」
呆れたような雅の言葉に千尋は小さく頷く。
「その方がまだ見つけやすそうです。分かりました。それではクリスマス、楽しみにしていてくださいね」
「で、でも」
「鈴。ここは甘えときな。あんた千尋の嫁になるんだろ? 千尋に限らず、誰かが誰かにプレゼントをするのは、相手に喜んで欲しいからだ。断る方が無粋だよ」
雅に言われて鈴はコクリと頷いた。雅の言う通りかもしれない。鈴が千尋達に食事を作って喜んでもらえると嬉しいのと同じ事なのだろう、きっと。
「ありがとうございます、千尋さま。楽しみにしています」
「はい」
「千尋さまはクリスマスに何か食べたい物はありますか?」
本当は鈴も皆にプレゼントを贈りたいが、生憎鈴には手持ちがほとんどない。こんな事でしか恩返しの手段が思いつかないのが悔しいが、何もしないよりはきっとマシだ。
「そうですね……では、とんかつが良いです。それからあのパウンドケーキも。ああ、ゼリーも良いですね」
そう言って千尋は今まで鈴が作った料理のほとんどの名前を挙げる。そんな千尋に思わず鈴が笑うと、横から雅がヒソヒソと話しかけてきた。
「鈴、千尋を見習うんだよ」
「千尋さまを?」
「ああ。厚かましいだろう? あれぐらいで良いんだよ」
「あ、厚かましいとは思いませんが、さすがに全ての料理は難しいかと……」
「いいんだよ、適当で。何作ったって喜ぶさ」
意地悪な笑みを浮かべる雅と困ったように笑う鈴の目の前で千尋はまだ料理の名前を挙げていた。
♠
クリスマスの一週間前の事である。
千尋は弥七と、ようやく神森家に戻ってきた喜兵衛を連れて街に繰り出していた。
「千尋さま、まだ買うんですか?」