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第56話

「あ、はい。私を引き取る際、私を佐伯家の戸籍には入れない事を条件に引き取ってくれたそうです」

「な、なんでまたそんな事……そういやあんた、最初に自分は居候だって言ってたけど、あれは本当に居候だったって事かい!?」

「はい。なので私は佐伯家の娘という訳ではないのです……ちゃんとお話してなくてすみません……」

「いえいえ、それは構いませんよ。あなたがやってきてすぐに私がちゃんとあなたについて調べましたから。私が言いたいのは、あなたと結婚するのに別に佐伯家の許可は特に必要無いという事が言いたかったのですよ」

「なるほど。佐伯家と縁を切りつつ鈴とも結婚出来るって訳か。いいんじゃないか? それで」

「で、でもいいんですか? だって、佐伯家に婚約者を求められたんですよね?」

「ええ。ですがそれはしっかりとした家系の血が欲しかっただけですから。私が欲しいのは家柄ではありませんよ」


 確かに家柄で言えば千尋の方がはるかに上で佐伯の家柄を得た所で何の得にもならない。


「ですが、それはあくまでも最終手段です。鈴さんは佐伯の家をとても大事にしている。それを裏切らせるのは私の本意ではないですから」

「ご迷惑をおかけします……」


 何だかとてもややこしい事になっているのだと気づいて、鈴は千尋に深々と頭を下げたが、そんな鈴の頭を千尋は優しく撫でてくれた。


「あなたは何も心配しなくていいんですよ。こういう事は私と雅に任せておいてください」

「そうだよ。大船に乗ったつもりで居な。それにしても何でまた蘭なんだ。最初は自分たちの娘をここにやる事もしなかったってのに!」

「やっぱり蘭ちゃんは無理やり手紙を書かされていたのでしょうか?」


 もしも無理にあんな頻度で鈴に手紙を書いていたのだとしたら、蘭にも申し訳無い事をしている。蘭はあんなにも夢を叶えたがっているのに、その邪魔を鈴はしたくない。


「きっとそうだよ! 蘭を嫁がせりゃ正式に神森との繋がりが出来る。だからここへ来てこんな手紙を寄越したんじゃないのか?」

「雅、憶測でそういう事を言うのは感心しませんね」

「だっておかしいじゃないか! 何だって今更そんな事言い出すんだい!?」

「それは分かりませんが、佐伯家にはきっと何かそうした方が利があるのでしょう。ですが、私は鈴さんが良い」

「!」 

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