そう言って鈴はしょんぼりと項垂れた。何となく予感はしていたものの、実際に当たってしまうとショックだ。それぐらい神森家は鈴にとっては過ごしやすかった。
「そういや蘭からの手紙には毎度毎度一体何が書いてあるんだい?」
「蘭ちゃんからの手紙ですか? 私の体調の事だとか千尋さまの事とか、あとは注意でしょうか」
「千尋の事とか注意?」
「はい。話が合わなくて困っていないかとか、千尋とは普段どんな話をするのかとか、男性とあまり長く一緒に居てはいけないとか、慎みを持たないといけないとかです」
「ふーん。そんな事わざわざ今更言ってくんのも変な話だね」
「雅さんもそう思いますか? 私は異国育ちだし学が無いからかとも思っていたんですが、それにしても千尋さまの事をよく聞かれるので、もしかしたら佐伯家から言われて蘭ちゃんは手紙を書いているのかもしれません……」
「どういう事だい?」
「蘭ちゃんからの手紙が届き出したのは街で偶然会った日からなんです。あの時の事をもしかしたら佐伯家で話し合ったのかな、と思ったんです」
「菫がやけに好戦的だったもんな。その線はあるかもね」
「本当の所は分かりませんが、もしかしたら千尋さまと街を一緒に歩いていた事をはしたない事だと教えてくれようとしているのでしょうか?」
「まぁ確かに世の中の風潮はそうだろうけど、千尋も言ってたろ? あいつに人間の決まり事は関係ないよ。したい事をする。それが龍なんだから」
それは雅の言う通りだ。実際に千尋はあの時そう言っていた。
「では私が千尋さまの所で何か粗相をする事で、必然的に佐伯家の株が下がると考えた……とか」
「もっとありえないだろ? 大体あんたの存在を知ってる奴の方が少ないんじゃないか?」
「その通りでした……では一体何なのでしょう?」
「手紙には他に何か書いてないのかい?」
「他はさっきも言った通り私の体調に関する事です。毎回、体調は大丈夫か? と聞かれるので、きっと凄く心配してくれているのだと思います」
それ以外に体調を聞いてくる理由がない。やはり蘭はいつだって鈴の事を心配してくれているのだ。
「体調ねぇ。それも何だか今更な気がするけどね。でもそれとこれとは別だよ。婚約をさせたって事は、いつ嫁ぐことが決まったっておかしくないんだから」