何せ雅は今までに何度も千尋との関係を誤解した女性に命を狙われている。そんな事にならないよう気を配るのも主の努めだ。
それに、鈴にも荷物が来た時は検閲をするという事はちゃんと伝えてある。その時鈴は自分には荷物など来ないなどと言っていたが、何よりも手紙と違って小包は何が入れられているか分からない。
鈴の名を出したからか、いつもは渋る雅が今日はやけに素直に小包をくれた。千尋はその場で小包を開けると、中に入っていた物を見てホッと息をつく。
「何だい? 何が入ってたんだい?」
「薬ですね。処方を確認して私から鈴さんに渡しておきます」
「そうかい? そういやもうじき薬が切れそうだって言ってたもんね。それじゃ頼んだよ」
それだけ言って雅は部屋を出て行く。
千尋はもう一度包を開けて一緒に入っていた薬の種類が書かれたメモを開いて一読すると、続いて小包の中の薬を確認してそのまま引き出しに仕舞い込んだ。
それから山のような書類を無心で片付けていると、あっという間に時間は過ぎていたようだ。
何気なく窓の外に目をやると、鈴が毛糸で編んだ襟巻きをして弥七と何やら土いじりをしている。
「今日は大人しく、と言ったのに」
朝から鈴の調子が悪いと聞いて、千尋はすぐに問答無用で鈴に力を流した。
水龍の力を体内に入れた後は鈴にはその日は大人しくしているように言うのだが、鈴は元々とても行動的な性格だったのか、少しも千尋の思い通りにはならない。
けれどちゃんと襟巻きをして暖かい格好をしているし、見る限り元気そうな鈴を見て千尋は苦笑いを浮かべる。
空は晴れ渡り、鈴の癖のある小豆色の髪が陽の光が当たる度にキラキラと輝く。しばらくそんな光景を見ていると、鈴はおもむろに立ち上がって歌い出した。
千尋の聞いた事の無い歌だったが、冷え渡った冷たい空気に鈴の軽やかな透明感のある声が響き渡る。
「正に天上の音楽ですね」
龍の耳は敏感だ。というよりも、全ての感覚が人よりもはるかに発達している。
千尋は目を閉じてそっと鈴の歌声に聞き入っていた。
やがて歌が途切れると、今度は笑い声が聞こえてくる。一体何を話しているのか、ふと気付くと何もしないまま、また時間は過ぎている。
「今日はもう駄目ですね」