「はい、ありがとうございます。それから雅は少しだけ貸してもらえますか?」
「もちろんです! それじゃあ雅さん、朝からお騒がせしました。行ってきます」
「はいはい。慌てて怪我するんじゃないよ」
「はい!」
こちらも相変わらず優しい。鈴はそんな二人に頭を下げて炊事場へと向かった。喜兵衛が休みなので凝った朝食はどのみち作れない。
「まずはご飯炊かなきゃ……どうしよう、それだけで結構時間かかっちゃう」
そんな事を考えながら炊事場に駆け込むと、ご飯が炊ける良い匂いがしているではないか!
一体誰が? と思いながら調理台を見ると、切りかけの菜っ葉がそのまんま放置してあった。どうやら雅がここまで作ってくれていたらしい。
「雅さん……」
胸がジンと温かくなるのを感じながら鈴は雅が放置していた菜っ葉の続きを刻み始める。
雅はきっとここまで作ってあまりにも起きて来ない鈴を心配して部屋まで覗きに来てくれたのではないだろうか。そして鈴が部屋に居ない事に気付いて千尋に報告に行き、千尋も居ない事に気づいて探しにきてくれたに違いない。
「雅さんのお味噌汁には大好きな鰹節入れとこう」
普通は出汁が取れたら取り出す鰹節だが、雅はこれが大好物だ。やはり猫だからか、おかかのおにぎりも大好きで、喜兵衛が作るだし巻き卵も大好物だと言っていた。
鈴は喜兵衛に聞いたレシピを思い出しながらだし巻き卵を作って魚を焼き、その間に味噌汁とおにぎりをいくつか手早く作るとお盆に乗せてまずは千尋の部屋に運ぶ。
千尋の部屋の前までやってきた鈴は、ドアを何度かノックして中に声をかけた。
「千尋さま、朝食をお持ちしました」
少しすると中から千尋が顔を出した。
「ありがとうございます。凄いですね。この短時間でこれだけの物を作れてしまうなんて」
「いえ、お味噌汁とおにぎりと焼き魚と卵焼きだけですから。それに雅さんがお米を炊いていてくださったみたいなんです」
嬉しくて思わず事情を説明する鈴に千尋はニコニコして頷いてくれる。
「それでは後で雅にもお礼を言っておきましょう。鈴さん、今日はゆっくりしてくださいね。私の力があなたの中でどんな風に作用するか分かりませんから」
「はい。分かりました」
そう言って千尋の部屋を後にしようとした鈴に、千尋が不思議そうに声をかけてきた。