「雅さんのせいではないです! 完全に忘れていた私のせいなので! 千尋さまも、ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。夜中に起こしただけでは飽き足らずしがみついて眠るなんて……きっと鬱陶しくて眠れなかったですよね」
しょんぼりと項垂れる鈴を見て千尋は緩やかに首を振った。
「そんなに気にしないでください、鈴さん。むしろ暖かくてすっかり寝過ごしてしまったぐらいですよ」
「そ、そうですか?」
「ええ。さて、ではまた閉じ込められる前にここを出ましょう。それから雅、今年はまたクリスマスをしてみようと思うのですがどうでしょう?」
「ああ! いいんじゃないか? 鈴には馴染み深いだろ?」
雅の言葉に鈴はじっと雅を見上げて笑い出す。そんな鈴を見て雅が怪訝な顔をした。
「すみません。千尋さまと同じ事を言ってくれるんだなぁって思って」
「千尋と?」
「はい。千尋さまはそう思ってここに夜にわざわざクリスマスの飾りを探しにきてくれたそうなんです」
「そうだったのかい? そんな物言ってくれりゃ昼の間に探すのに」
「最初はそうしようと思ったんですが、黙っていて驚かせようとしたんですよ、あなた達を。柄にも無い事をするものではありませんね」
「そんな事ありません。とても嬉しかったです」
苦笑いを浮かべた千尋を見て鈴は笑顔でそんな事を言ってくれたが、雅はこれでもかというぐらいに目を見開いている。
「驚いた。あんたがそんな人間臭い事を言い出すなんてね。鈴、今日はどこへ行くにも薬を持ち歩くんだよ」
「どうしてです?」
「千尋がこんな事言うんだ! 絶対に雨が降るよ!」
「雅、あなたは本当に私の事を何だと思っているのですか?」
全く酷い言われようだ。そう思うけれど、千尋の事をよく知っている人ほどきっと雅のような反応をするのではないだろうか。自分でもそんな考えに至った自分自身に驚いていたのだから。
♥
蔵を出た鈴はすっかり陽が高くなっているのを見て驚いた。
「あ、朝ごはん! すぐに作ってきますね!」
「そういや忘れてたね。千尋、すぐ作るからちょっと待ってな」
「急がなくていいですよ。簡単な物でいいですからね?」
千尋は大失態を犯した鈴にさえいつものように笑顔でそんな事を言ってくれる。
「ありがとうございます。それじゃあすぐに作ってきます」