翌朝、千尋は久しぶりにゆっくりと惰眠を貪ってしまった。最近疲れているのによく眠れなくていよいよ歳かと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。
うっすらと目を開けると、腕の中ではまだ鈴がスヤスヤと小さな寝息を立てている。しばらくそんな鈴の寝顔を見つめていた千尋だったが、突然蔵の扉が開いた音がして次の瞬間――。
「あんた達いつまでも起きて来ないと思ったら……こんな所で逢い引きか!?」
「ふぁっ!?」
突然の雅の怒鳴り声に腕の中の鈴がパチリと目を開け、目の前の千尋を見て固まる。
「鈴さん、雅、おはようございます」
「おはようございます、じゃないんだよ! なんであんた達仲良くこんな所で寝てんだい!?」
「ど、ど、ど、どうして一緒に!? 私の毛布じゃない……も、もしかして私、勝手に潜り込みましたか!?」
まさかの事態に相当驚いたのか、鈴は朝から顔面蒼白だし、雅は反対に怒りで真っ赤だ。そんな二人を見て千尋はいつものように微笑んで言う。
「安心してください、鈴さん。別にあなたが潜り込んで来た訳じゃないです。あなたが私の着物を放さなかっただけですから」
「ひいっ!」
正直に言った千尋に鈴はさらに青ざめる。そんな鈴がおかしくて思わず笑うと、怖い顔をした雅がズカズカとやってきて鈴の腕を引っ張って抱き寄せ、千尋を思い切り睨みつけてくる。
「鈴がそんな事する訳ないじゃないか! あんた、本当に何もしてないだろうね!?」
「おや。これは信用がないですね。ですが、誓って何もしていませんよ」
「本当だろうね!?」
「み、雅さん! 多分千尋さまが言ってる事が正しいんだと思います」
「どういう事だい?」
あまりの剣幕で怒る雅を見て鈴はおろおろとしながら雅を見上げて、昨夜あった事を説明しだした。
「なるほど、そういう事か……結局夕方は飲まなかったんだね」
「はい。まだ我慢出来る範疇だったので」
「はぁ……疑ったりして悪かったね、千尋。夕方から鈴は痛がってたんだよ」
「そうなのですか?」
「ああ。ここで掃除してる時に夜に雨が降るんじゃないかって言うからさ、念のため薬持ってきときなってあたしが言ったんだ。蔵出る前に確認しとくべきだったよ」
言いながら雅は鈴の頭を撫でる。その姿はまるで鈴の母親か姉のようだ。