薄い布越しに触れた鈴の傷の感触は、布越しでもはっきりと分かるほど肩の辺りから斜めに腰まで伸びている。こんな大きな傷をまだ8歳だった少女が負ったのだと思うと胸が痛んだ。
「大丈夫。深呼吸をしてください。息を止めないで」
「ん」
素直に呟いた鈴は、千尋に全ての体重を預けてぐったりとしている。そんな華奢な体を支えながら龍の力をそっと流し込むと、次第に鈴の呼吸が落ち着き始めた。
「苦しくないですか?」
千尋の言葉に鈴は首だけで頷いて千尋の袂を握りしめてくる。恐らくまだ痛むのだろう。いくら力を流し込んでも、すぐには改善しない。それは千尋もよく分かっているが、目の前で鈴が苦しそうにしているのを見ると千尋まで胸が苦しくなってくる。
龍人から見れば人間なんて小さくて脆くて繊細な生き物だ。その中でも鈴は特に小さい。
壊れてしまわないように千尋は鈴をそっと抱え直すと、耳を澄ませて鈴の心音と水音を聞く。
「もうすぐ良くなりますよ。良い子ですね」
何気なく千尋が言うと、ふと鈴が笑った。
「あの時と……同じ……やっぱり、千尋さまだったんだ……」
ポツリポツリと呟いた鈴の言葉は千尋の胸に染み込み、一滴のインクのように波紋を広げていく。
千尋は鈴を包むように抱きかかえてさらに力を流し込んだ。徐々に腕に触れた背中の熱が取れていく。炎症は冷やしてやるのが一番だ。
やがて鈴の呼吸が落ち着いてきた頃、鈴がとうとう意識を失ってしまった。
「辛かったですね、今まで。可哀想に」
薬で痛みを一時誤魔化しても、きっとずっと痛みに震えていたに違いない。明日からは折を見て鈴の体に少しずつ力を流し込んでいこう。そうすればもしかしたら雨の前に痛む事もなくなるかもしれない。
そんな事を考えながら千尋は膝の上で眠ってしまった鈴の頭を撫でて簡易で作った寝所に寝かせようとしたのだが、鈴の手はしっかりと千尋の袂を握りしめたままだ。
「……どうしたものでしょう……」
無理やり放せばきっと鈴は起きてしまうだろう。仕方なく千尋は鈴を抱きかかえたまま転がると、毛布を手繰り寄せる。
「おやすみなさい、鈴さん」
耳元で囁くように言うと、鈴は眠っているにも関わらず少しだけ口の端を上げて微笑む。そんな鈴を見て胸がギュっと詰まる思いがした。