「もちろんです。私こそ何だか申し訳ない気持ちで一杯です……」
まだ結婚もしていないのに同じ部屋(蔵)で異性と眠るなど、果たして許されるのだろうか?
そんな事を考えながら鈴が悶々としていると、仕切りの奥から千尋の声が聞こえてきた。
「そんなに緊張しなくても何もしませんよ。それにこの間も言いましたが、人間の倫理や決まりなど私には無用です。だからそんな気に病まないでください」
「! はい」
鈴の心配事を払拭するかのような千尋の声に鈴はホッとして毛布を手繰り寄せた。
深夜、鈴は耐え難い背中の痛みで目が覚めた。引き攣るような痛みに思わずうめき声を漏らしそうになるが、隣で千尋が眠っている事を思い出して急いで両手で口を覆う。
耳を済ませると仕切りの向こうから規則正しい千尋の寝息が聞こえてきてホッと胸を撫で下ろすと、手を伸ばして薬を探したが見つからない。
そしてふと思い出す。寝床の準備をしている時に、失くしてはいけないと思って棚の近くにあった机の上に置いてきたのだ。
「っ……ぅ……っ」
声にならない声を漏らしながらもどうにか我慢しようとするが、次第に血の気が引いてくる。このまま意識を失えば朝まで眠れるだろうか?
ふとそんな事を考えたが、すぐに痛みでまた目を覚ましてしまうだろう。
薬をどうにか取りに行こうと思ったが、それで千尋を起こしてしまうのは申し訳ない。遠慮は無しだとは言われたが、まさかこんな状態の時に甘えるのはどうなのだろうか。
「っっ……」
一際激しい痛みが鈴を襲ったその時、突然仕切りが取り払われた。
ハッとして朦朧としたまま視線を上げると、そこには見たことも無い顔をした千尋がこちらを見下ろしている。
「どうして我慢するのですか! 頼ってください、私を」
「ごめ……なさ……」
最後まで言うよりも先に鈴は千尋に抱えられていた。
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千尋はあぐらをかいて足の間に抱き込むように鈴を抱えると、そっと鈴の背中に手を当てた。その途端、鈴の喉奥から苦しげなうめき声が上がる。
雨が降る前に痛むとは聞いていたが、まさか熱まで持つとは思っていなかった千尋は思わず眉を顰めた。