「すみません、こちらの話です。それからお化けの件は大丈夫ですよ。ここは元社で、今も龍神が住まう土地です。そんな所にのこのこやって来るお化けは居ませんよ」
「あ、そう言えばそうですね……神様が居るんですもんね。そんな所に出たら一瞬で召されてしまいますよね!」
何かに納得したように顔を輝かせた鈴を見て、とうとう千尋は体を折り曲げて笑ってしまった。
そんな千尋を見て鈴はキョトンとしているが、やがておかしくなってきたのか、鈴も笑い出す。
その声は鈴のように軽やかで、シンとした蔵の中に静かに響き渡った。
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「やはり無理ですね。仕方ありません。誰かが気づいてくれるまでここに居るしか無さそうです」
千尋はそう言って蔵の二階から下りてきて言った。
二階の窓から外に出る事が出来ないかどうか確かめに行ってくれていたのだが、やはり無理だったようだ。
こうなったら覚悟を決めるしかない。どうかお手洗いに行きたくなりませんように、と願いを込めながら鈴も頷いた。
「ところで先程のお話なのですが、千尋さまは何故ここへ?」
「そうでした。確かここらへんに仕舞っていたと思うんですが――あった、これです」
そう言って千尋が取り出したのはズラリと繋がった色のついたランプだった。それを見て鈴は目を輝かせる。
「もしかしてクリスマスツリーですか?」
「当たりです。鈴さんには馴染み深いかと思って探しに来たのですよ」
「はい! わぁ……ちゃんと他の飾りもあるんですね! これ、どうされたんですか?」
「大分前にクリスマスツリーと言う物の存在を聞きつけた雅が面白がってデパートで色々買ってきたんです。その時ですよ、ケーキを食べたのは」
「なるほど、そうだったんですね。もしかしてクリスマスをするのですか?」
「出来ればいいな、と思って探しに来たんです。ああ、良かった。ちゃんと一式揃っていますね」
千尋はそう言って電飾が入っていた箱を覗き込んで微笑む。こんな寒い場所にこっそりと鈴の為にクリスマスツリーを探しに来てくれた千尋に鈴は思わず目を潤ませてしまった。
佐伯家に引き取られてからクリスマスなんてした事無い。お正月も参加させてもらえなかったし、行事事の殆どはずっと無縁だった。