「そうですか。この蔵は少し特殊で、扉が閉まると勝手に鍵がかかってしまうのですよ」
「え!?」
それを聞いて恐る恐る振り返った鈴は、急いで扉まで走って行ってどうにか開けようとしているが、重い扉はまるで金庫のようにビクともしない。
「あ、開きません!」
「ええ、だからそういう構造なんです」
あまりにも必死になって扉を開けようとしている鈴がおかしくて思わず千尋が肩を揺らすと、すぐさま鈴は戻ってきて千尋を見上げて少しだけ頬を膨らませる。
「ど、どうして笑うのですか?」
「すみません。必死になって扉を開けようとしているあなたが可愛らしくて」
それだけ言って千尋は扉の前に移動すると、鈴と同じようにノブを回してみるが、やはり開かない。
「うーん……これは誰かが気づいてくれるまでここで待つしか無さそうです」
「そ、そんな……」
「私と居るのは不安ですか?」
「え?」
「あまりにも悲壮な顔をしているので、私と二人きりになるのが怖いのかと」
「ち、違います! その、この蔵……出ません……よね?」
「え?」
「お、お化け……とか」
「……お化け」
「はい」
「怖いのですか?」
「……はい」
「ふっ……ああ、いえ! 別にバカにした訳ではありませんよ? そうですか、あなたはお化けが苦手なのですか」
「はい……小さい頃からどうしても怖くて……佐伯家に居る時も蔵で寝るのは本当は怖くて……」
「そうですか。安心しました」
「安心、ですか?」
「ええ。鈴さんの鼓動が蔵に入ってからいつもよりもずっと早かったので、二人きりが嫌なのか、それとも蔵はやはり何か嫌なことを思い出すのかと思っていたのですが、お化けに怯えていたのですね」
「う……はい。何ていうかこう、薄暗くてジメジメした所に居そうじゃないですか……」
「そんな、ネズミや虫とは違うのですから!」
思わず声を出して笑う千尋を鈴が恨みがましそうに見上げてくるが、そんな仕草すら何だか愛らしい。
そこまで考えて千尋はハッとした。声を出して笑うのなんていつ振りだろうか。鈴がここへやって来てから、思えば随分笑うようになった気がする。
「そうか……だから空気が澄んだのですね……」
「え?」