何だか胸の奥がヒリつくのを抑えるように千尋はもう一度鈴の頭を出来るだけ優しく撫でる。
「そうでしたか。未だに薬を飲まなければ制御出来ない程の痛みなのです。きっと恐ろしい事故だったのでしょう。ですが、痛み止めの薬は常用すると効かなくなってしまいます。今度痛みだしたら私の所へ来てください」
「千尋さまの所に?」
「ええ。龍神の中でも私は水龍です。水龍は血の流れを正しくする事が出来るのですよ。気圧のせいで乱れたあなたの中の水分を、正常値に戻してあげましょう」
そう言って微笑む千尋を見て、鈴は泣きそうな顔をして薬の袋を握りしめる。
「ありがとう……ございます」
「いいえ、どういたしまして」
あまりにも深々とお辞儀をする鈴が不思議で千尋が首を傾げると、鈴は恥ずかしそうに俯いた。
「本当はもうすぐ薬が無くなってしまうのでどうしようかと思っていたんです。買いたくても私は手持ちがあまりありませんし」
それを聞いて千尋は驚く。まさか薬を自腹で購入しようとしていたのか!
「それこそ私に言ってください。あなたがこれから生活していく上で必要な物は私が買いますから」
「で、でも」
「夫婦になるとは、結婚するとはそういう事ですよ、鈴さん。私に遠慮はしないと約束してください」
「……はい。でしたら、千尋さまもちゃんと言ってくださいね」
「ええ、もちろん」
むしろこんな曰く付きの家に嫁に来てくれるだけで十分なのだが、鈴の性格上それはきっと許さないだろう。
何となくそんな事が手に取るように分かってしまって笑った千尋に今度は鈴が問いかけてくる。
「そう言えば千尋さまはどうしてこんな時間に蔵に?」
鈴に言われて千尋はハッとして蔵の奥に視線をやった。
「忘れる所でした。私はある物を探しに来て――」
最後まで言い終える前に、千尋は何か嫌な予感がしてふと顔を上げて青ざめる。そんな千尋を見て鈴も振り返り息を呑んだ。
それと同時に開け放していた二重扉の内側の扉の入り口が、音を立てて閉じてしまう。
「ち、ち、千尋さま! ど、ど、どうしましょう?」
「……困りましたね。鍵は外のドアに刺さったままなんですよね」
「え」
「あ、雅から聞きましたか? この蔵の構造」
「絶対に途中で閉めちゃ駄目とは言われました」
何の気無しに千尋が言うと、鈴は青ざめて答える。