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第34話

「それもそうだ。食べたら聞きな! 絶対だよ! こいつが今までしてきた事を、ちゃーんと聞いてから決めるんだ、分かったね!?」


 雅の言葉に鈴はコクリと頷いて目の前の食事を急いで食べ始めた。どうやら千尋に嫁ぐという事は、一筋縄ではいかないようだ。



「大丈夫ですか? 鈴さん」

「は、はい。すみません」 


 急いで食事を終えたのは良かったが、鈴は今度は苦しくて起き上がれなくなっていた。そんな訳で今は千尋の部屋のソファで休んでいる。


 そんな鈴に千尋は苦笑いしながら水を持ってきてくれる。それを受け取った鈴は深呼吸をしてお礼を言って水を受け取った。


「少し横になりますか? ちょっと待っていてくださいね。何かクッションを持ってきましょう」

「あ、いえ、もう大丈夫です。ありがとうございます」


 流石にこれ以上千尋の手を煩わせる訳にはいかない。鈴はどうにか座り直して千尋に頭を下げた。そんな鈴を見て千尋も安心したように笑い、何故か鈴の隣に腰を下ろす。


「あ、あの」

「近いですか?」

「は、はい」


 いつも思うが、千尋は本当に良い匂いがするのだ。何よりも鈴は男性慣れしていない。だからかどうかは分からないが、何だかドギマギしてしまう。


 そんな鈴を覗き込んで千尋がいたずらに笑った。


「ですが、結婚すればこういう事も増えると思いますよ?」

「ま、まだ結婚していません!」

「ふふ、そうでしたね。まだ返事は保留でした。では移動しましょう」


 それだけ言って千尋は鈴の正面に移動して静かに話し出す。


「龍の仕事は前にも話した通り、私の神通力を宿した子を各地に送る事だと話しましたよね?」

「はい」


 実を言うとそれがどういう意味なのかちゃんと理解していなかった鈴だ。


 ただの比喩なのか、それとも実際に子供を生むのか、だとすれば一体どれほどの人数を埋めばいいのかさっぱり分からない。だから出来るだけ考えないようにしてきたが、やはりそうは言っていられない。雅の言う通り、神森家に嫁ぐと決めたのなら、きちんとそういう事も知っておくべきだ。


 姿勢を正した鈴を見て千尋は小さな息をついて話しだした。


「先に言っておきますが、あなた達人間の営みと、龍の加護を持つ子供を作るのは方法が全く違います」

「え?」

「神通力を宿した子は、母親の卵だけを使います」

「た、卵?」


 一体どいう事なのかさっぱり分からなくて目を白黒させていたであろう鈴を見て、千尋は小さく吹き出す。


「いえ、すみません。そうですね。鈴さんにそういう知識がどれほどあるのかは分かりませんが、私は誰かと寝た事は一度もありません。それは龍も含めてです」

「……」


 寝る、とは? 思わずキョトンとしてしまった鈴を見て、千尋はとうとう本格的に笑いだしてしまう。


「ああ、何て言ったら良いのか……男女の営みと言えば分かりますか?」

「!」


 その言葉にハッとした鈴を見てようやく千尋は安心したかのように胸を撫で下ろす。男女の営みについて詳しい事はさっぱり分からないが、ここへ来る前に蘭がそれとなく教えてくれた。


 思わず顔を赤らめた鈴を見て千尋が言う。


「そんな赤くならないでください。何だか私まで照れてしまうではないですか」

「す、すみません」

「いいえ。むしろそれほど純粋で大丈夫なのかと少し心配になりますね。えっと、話を戻します。さきほど雅が言った儀式というのは、月に一度、あなたの卵に私の神通力を送り、それを各地の巫女の器を持つ方に送るというものです」

「!?」

「とは言え利用するのはあなたの卵だけですから、そういう行為は一切ありません。安心してください。ちなみにあなたの遺伝子なども一切残りませんので安心してくださいね」

「そ、それは巫女さん達は驚かれるのでは……」

「それも大丈夫です。そういう人たちを選んで送るので。龍の卵は私の笛で空に舞い上がり、しかるべき人達の所に宿ります。それが、私の仕事なのですよ」

「それは何だか神秘的です。えっと、でも雅さんはそれを何故あんな風に怒っていたのでしょうか?」

「それは……あなた自身は子供を宿すことが出来なくなるから……です」

「……そうなのですか?」

「はい。あなたの一生分の卵を使いますので、あなた自身の子供は出来ません。雅はそれを嘆いていたのですよ」


 般若のような顔をして怒っていた雅は、鈴の子供の事を心配していたのか。


「それからまだあります。龍の神通力を宿すには相当な体力を必要とします。恐らくその後3日は起き上がれません。必然的に、龍の花嫁は平均寿命がとても……短くなってしまいます」


 千尋は躊躇うように言った。その顔は申し訳なさそうで、何だか鈴の方が泣きそうになってしまう。

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