「あとはそうだなー、やっぱりドラゴンかな?」
「それだ! 一体どういう事だ⁉ ドラゴンなど伝説上の生き物だろう⁉ あれは何なんだ!」
ロビンは遠目に見たドンを思い出してカインに詰め寄った。
「あれもアリスの仕業だよ。何か綺麗な石拾った~って持って帰ってきたら、そっからドラゴンが出て来ちゃったんだって。ほんと、ありえなくない⁉」
そう言ってあの時の事を思い出したカインはお腹を抱えて笑った。
「ほ、本当にドラゴンなのか? 何か別の生き物ではなくて?」
「ドラゴンだよ。アランが研究してたドラゴンと類似しすぎてるっていうか、そのものだって言ってた。だからあいつ、最近ほとんど部屋から出て来ないんだよ」
「ほ、本当の本当に⁉」
「本当だってば! しつこいな! 連れてきてやろ――」
「頼む!」
「お、おう」
食い気味に頷いたロビンを見てカインは仰け反ると、そのまま天幕の外に消えて行った。しばらくして、カインとオスカーが何かを抱いて戻ってくる。
「ご無沙汰しています、旦那様」
「ほら。ドラゴンのドンちゃん。女の子だそうだよ」
カインに促されるようにオスカーがそっとロビンにドンを差し出すと、ロビンは恐る恐る手を伸ばしてドンを抱き上げた。
「お、おおおおおお!」
金色の瞳に立派な鍵爪。二本の髭。何よりも腹の鱗! 静かに興奮するロビンにサービス精神旺盛なドンは、フン―と鼻から黒い煙を噴き出した。それを見てロビンはさらに興奮する。
「カ、カイン、こ、この子は学園で飼うのはやはり危ないのでは?」
「魂胆は見え見えだって、親父。駄目だよ。また母さんに怒られるよ」
「う、うぅ。で、でも……可愛い……」
ドンに頬ずりしそうな勢いのロビンを見てカインがドンをさっと取り上げた。
「ああ! も、もう少しだけ!」
「宰相だろ! こんな所誰かに見られたらどうすんの?」
「そ、それはそうだが……くぅ、だから視察隊をこっそり組んだというのにルカめ……」
憎々し気に呟いたロビンにカインとオスカーは顔を見合わせて笑ってしまった。すっかり忘れていたが、そう言えばロビンとルカもまたカインとルイスのように元々は親友だったのだ。
いや、勿論今も親友なのだろうが、仕事柄そういうのはあまり表には出せないのかもしれない。
まるで少し前のルイスとカインのようではないか。
「親父、騙されたと思って食堂でイカリング食ってみなよ、美味いから。王様も誘ってさ」
笑いながらそんな事を言うカインに、ロビンは引きつった笑みを浮かべて頷いた。
その後、カインに言われた通り食堂の視察も兼ねてイカリングを注文した視察隊の一同は、おっかなびっくり初めてのイカリングを食べて大興奮した。
「こ、これは! 何と言うか……美味いな!」
「ええ。私もビックリしてます……イカ、ですよね? これ」
「こんなにも美味いとはな! あとこのカルパッチョもなかなか……おい! シェフを呼べ!」
こうしてまたも巻き込まれたザカリーとスタンリーは、この後カインとアリスにめちゃくちゃ説教したのは言うまでもない。
一方、突然始まった実地練習が終わった生徒たちは、また校庭に集められていた。クラスの列など最早皆無で、自然と一体感が生まれた者同士が集まっている。そこには階級も年齢も何も存在せず、正にアリスの思い描いた学園の姿があった。
その先頭に立ってあちこちに挨拶をして回っているのはルイスとキャロラインで、階級や年齢に関係なく同じ狩人として戦った者達に礼を言っている。
「キャロライン様が言い出したらしいよ」
「そうなの?」
「うん。守ってくれた皆にお礼言いましょってルイス様に言ったみたい」
「それを素直にルイス様聞いてるんだ?」
「ね。ちょっと可愛いし、やっぱりあの二人はお似合いだよね」
あちこちから聞こえてくる声にノアは口の端を上げた。うっかりそんなノアの顔を見てしまったリアンは、うげぇ、と顔を顰める。
「僕は知ってるよ。全部あんたが仕組んだんだって」
「リー君、お口縫うよ?」
「はいはい。黙ってますよ、僕は。全部ぜーんぶノア様の手のひらで転がされてるんだよーなんて。で、どっからこうなるって考えてたの?」
「どっからっていうか、初めからだよ。こういう大規模なイベントはね、団結力が出来上がるもんなんだよ、人間ってのは。何の垣根もない純粋な団結力を利用しない手はないでしょ? で、今からルイスに学園改善案を読み上げてもらう事で仕上げだよ。発案者はもちろんキャロラインね」
「……こわ」
ここであれを読み上げられたら、この場のノリで頷いてしまう者が多いはずだ。間髪入れずにそれをするのがノアの厭らしい所である。
「鉄は熱いうちに打てって言うでしょ?」
ニッコリ笑ったノアを見て、リアンは両腕をさすりながらその場を立ち去った。
この後、恐らく王からの挨拶がある。そしてその後に少しだけ時間を取ってあるのだ。そこでルイスに改善案を読み上げてもらい、生徒からの過半数以上の賛同を貰わなければならない。
この過半数以上の賛同をどうやってもらうかが改善案を通す上での課題だったが、突然ぶち込まれた実地訓練のおかげでどうにかなりそうだ。こんな機会は滅多にない。これを逃す手はないだろう、というのがノアとカインの意見だった。