ノアの深い緑色の睨むような目にアランは動揺を隠しきれなかった。
「っ⁉ な、なんでわか……はっ!」
「やっぱり。どうもこの部屋に来た時から様子がおかしいなと思ってたんだ。それからアリスとキャロラインが気づいてる事も知ってたでしょ? いつから?」
「アラン! そうなのか⁉ お前、どうして今まで言わなかったんだ!」
問い詰めるようなルイスの声にアランは体を強張らせてルイスから体を離そうとしたが、ルイスがそんなアランの腕を掴んで自分の方に引き寄せた。
「や、あの、だ、誰も、し、信じてくれなくて……今までずっと、何回も言ったんですけど、き、聞いて、くれないし……ち、ちなみに僕も二十三回……です」
「……ルイス様」
キャロラインがジロリとルイスを見ると、ルイスはバツが悪そうにアランの腕を放した。
「わ、悪かった」
「ルイスに話したって言うのは、その二十三回のループの中で話したって事だよね? 二十三回か、アリスと同じなんだね」
「そ、そうです。ぼ、僕も手記残したけど、僕のは毎回き、消えてました」
毎回同じ事が起こるのでアランもまた日記をつけていたが、アリスのように次のループに持ち越すことは出来なかった。
けれど、アランの日記は残らなかったが、一つだけ毎回残っていたものがある。
「こ、今回まさかこの話で呼び出されるとお、思ってなかったから持ってきてない、ですけど、記憶を転写した宝珠が、の、残って、ます」
それを聞いてアリスは手を叩いた。
「宝珠! アラン様、凄い!」
アランの能力を知っているアリスはアランの宝珠がどんなものかを知っている。
手放しに喜んだアリスを見て、アランの頬がほんの少しだけ染まった。
「え? い、いや、それほどでも……」
アランの使える魔法の一つ『転写』。記憶を宝珠と呼ばれる珠に移す魔法である。
この能力で自分が見て来たループの全てを残していたアランは、ずっと保健室に籠ってまとめる作業をしていた。自室だと家から連れてきた従者が居て出来ないし、保健室ならば誰も来ないと、何度もループをしていて知っていたからだ。
「アリス、アランの宝珠の事知ってるの?」
「うん! えっとね、映像とか音声を録画……残しておけるんだよ! 言うなれば動画!」
「動画?」
「あ、琴子時代の産物だから気にしないで。でもアラン様、今までの分全部あるの?」
「え、ええ。毎回、前回までのが部屋にあった、んです。それに次の転写を上書きして、ずっと残してて」
「でかしたぞ! アラン、すぐに部屋に戻って取ってこい!」
ルイスがアランの肩をガシっと掴んで言うと、アランは微妙な顔をしている。
「どうした?」
「う、うん、僕、はいい、ですけど、多分、ノアは嫌な思い、すると思い、ます」
親友達の事をこんな風に言いたくはないが、はっきり言ってこの攻略対象の二人は酷かった。アリスに対してもキャロラインに対しても。だからノアが見たらもしかしたら発狂するかもしれない。そんなアランの考えを汲み取ったようにノアが頷く。
「僕は見ないよ。たとえ記憶が無くてもこの二人を心底嫌いになりそうだから。見るなら二人だけでじっくり見なよ」
「そ、そうか。アラン、取って来てくれるか? カインはどうする?」
「俺は見るよー。どんだけ酷かったのかちょっと興味ある」
なんて茶化していられたのは最初のうちだけだった。
別室に移り二人で宝珠を見始めたら、茶化すような事は出来なくなってしまった。隣でじっと映像を見ているルイスも顔面蒼白だ。
アランの持ってきた宝珠は実によく出来ていた。日付や時間、何度目かのループなのかを時系列にまとめられていて大変見やすかった。見やすかったが故に止め時が分からなかった。よせばいいものを、うっかり最後まで見てしまっていた。
不意に隣の部屋からキャロラインとアリスの楽し気な笑い声が聞こえてきたが、宝珠の中の二人は今、お互い睨みあい、どちらも憎しみに満ちた顔をしている。
「あの二人は……これを超えて……きたのか」
「……だね」
ルイスの声は震えていた。カインも隠してはいるが、相当無理をしている。やがて宝珠を全て見終わった二人はソファに深く腰掛けてしばらくどちらも無言だった。
カインは天井を凝視して、ルイスはがっくりと項垂れまるで石のように動かない。
ここまで来ると信じる信じないではない。現実に起こっていた事なのだと理解した二人は同時に顔を上げて頷き合って立ち上がる。
「ノア! 俺達はどうすればいい⁉」
全て見終わったルイス達が部屋に戻ると、いつの間にかフードを取って既に和気あいあいと楽し気に輪の中に混じっているアランが振り返った。
「ああ、終わりましたか。では宝珠を回収しますね」
「ア、アラン、か?」
ルイスの問いにアランはコクリと頷く。あまりにも先ほどまでのアランとは違うのでルイスとカインが目を丸くしていると、アランの正面でアリスが張り切って答えてくれる。
「アラン様はね、実はフード取ると性格が変わるんですよ! 実はめっちゃ頼りになる魔法使いなんです! ね? アラン様」
「いえ、僕なんてとても……それよりも、どうでしたか? 納得しましたか?」
アランの質問に二人は黙り込んで頷いた。
「キャロ、アリス……本当にすまなかった」
「もういいです、ルイス様。別に私達は謝って欲しい訳ではありませんもの。このループをどうやって切り抜けるか、それが重要でしょう? ですから今見た宝珠の事は一旦忘れて、私達はこれから未来の為に動き出すべきです」
「そうですよ! キャロライン様の言う通りです。私だってそりゃ、飢餓エンドではあんな選択をしたルイス様とカイン様を大分恨みましたが、今はもうそんな事は思ってないですし」
アリスが最も辛かったエンド。飢餓エンド。断罪エンドよりも個人的には読んでいて辛かった。頬に手をあててため息を落としたアリスを見てルイスとカインの顔色が変わった。
「お嬢様は今アリスも過去アリスも食べ物に関してだけは執着が尋常ではなかったですもんね」
黒い本の内容を思い出したキリが言うと、ルイスが怯えたように震える。
「す、すまない。今度、何か美味しいものをご馳走しよう」
青ざめたルイスがポツリと言うと、隣でカインも無言で頷いた。
確かにあの宝珠を見る限り、過去のアリスがあんなにも荒ぶって口汚く罵ってきたのは、あの飢餓エンドだけだった。
鬼のような顔で襟首を掴まれて怒鳴られた事などなかったルイスは、さっき見た過去アリスを思い出して血の気が引いていくのが分かる。
「そんなに酷かったの? 飢餓アリス」
どこか楽しそうにそんな事を言うノアにルイスとカイン、アランまでもが頷いている。
「酷いなんてもんじゃなかったよ、あれはもはや鬼だった」
「ああ、こんな可愛い顔でどうやったらあんな顔が出来るのか不思議だ」
「私も思い出したわ! あの時のアリスはルイス様の襟を掴んで馬乗りになって罵倒していたのよ。あの時、思ったの。この子の本性ってこんななのね、って」
まさかの王子馬乗り罵倒アリスにキャロラインはもちろん全員がドン引きしたのは言うまでもないし、一国の王子に馬乗りになるなんて! とあの時は思ったが、冷静になって考えればあれはどう考えてもルイスの愚策だった。
「なるほどね。その部分だけ見たかったかな」
「や、止めて! 私のイメージが崩れちゃう!」
「お嬢様、大丈夫です。皆さまのお嬢様のイメージなど、最初から大して高いものでもないので、この先どれほど落ちようとも大差ありません、ご安心を」
「辛辣! あんたはほんっとにいっつも辛辣!」
「こらこら二人とも。皆の前だよ」
アリスとキリとノアのいつも通りのやりとりを見て、ようやく皆は冷静さを取り戻した。
「とりあえずループしているという事は分かった。しかしだな、これからどうすればいいんだ?」
ルイスの問いかけに皆、黙り込んだ。一番に口を開いたのはノアだ。
「一応、僕たちなりに色々と考察してみたんだけど、まず今までのループと今回の違いを探したんだ」
「へ~やるじゃん。で、その違いって?」
「この僕の存在と、アリスとキャロラインが仲が良いって事に尽きると思うんだよね。あと、アリスが既に学園に居るのも、だね」
「言われてみれば……確かにそうですね。僕の知ってる限りノアはクラスには居なかった。だからもちろん宝珠にも登場しませんでした。アリスさんもそうです。本来ならアリスさんが編入してくるのは来年……ですね」
イレギュラーな存在のノアと、随分早く編入してきたアリス。そして敵同士とも言えるアリスとキャロラインの仲。何よりも、今回のループではその現状を関係者全員が知った。
「それで考えたんだ。どうやってもこの世界はゲームの通りに進もうとしている。それならばそれを逆手にとって、メインストーリーをそのまんま辿ってやればいいんじゃないか? って」
「メインストーリー?」
「そう、アリスが言うにはそのゲームには誰かのルートではない、メインになる話というのがあったらしいんだよ。それがこれ」
その合図を待っていたかのようにキリが皆の前に一冊のノートを置いた。そこには大雑把ではあるがメインになる話が書かれていた。
「こ、これは……あのシャルル・フォルスが最後の……敵?」
「はい……私の一番の推しなのに……ぐすん」
そう言って涙を拭う振りをしたアリスの手の甲を、隣に座るキャロラインがギュっと抓ってくる。
「ぎゃう!」
「お口を縫い付けるわよ、アリス」
「ご、ごめんなさい、縫わないで」
思わず口を両手で塞いでアリスははにかんだ。そんなアリスを見てキャロラインもクスリと笑う。
「待って、ねえノア、これだと速攻で無理じゃない? アリスちゃん白魔法なんて使えんの?」
メインストーリーが書かれたノートを見ていたカインが声を上げた。
「それが使えないんだよね。そこだけは設定とは違うみたいで」
「では、どうするんです? このストーリーだと聖女の存在は必須ですよ」
「それなんだ。聖女の存在は絶対に必要なんだよね。でもアリスはそんな魔法は使えない。爵位も低いし、発言力なんてもちろんあるはずもない。そこでね、僕、良い事思いついたんだよ」
二コリと笑ったノアを見て、皆が一瞬ゴクリと息を飲んだ。皆の顔に、絶対に碌な事考えていない、そう書いてある。
「キャロライン、君が聖女を演じてくれる?」
「は?」
突然名指しにされたキャロラインはポカンと口を開けた。
けれど、隣でアリスはポンと手を打っている。
「なるほど! 兄さま、頭いい!」
「確かに人選として一番聖女に向いていそうです。容姿、爵位、発言力、カリスマ性、性格、なるほど、お嬢様には無いものばかりですね」
「一言多い!」
しかし言い返せない!
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい! ノア、それは無謀よ! 聖女なんてとんでもないわ!」
「何も一人でやれなんて言わないよ? アリスと組んで、二人で聖女をやるんだよ。表舞台に立つのは君。裏方で民衆を扇動するのはアリス。こうすればゲームのストーリーからは外れない。というか、これしか方法がない」
言い切ったノアの言葉にキャロラインは黙り込んだ。
「もちろん僕達も手伝うよ。メインストーリー見ても分かると思うけど、個人ではどうにもならない問題も沢山ある。だから今回、僕は皆も巻き込もうってアリスに提案したんだ」
「だからノア様はあの時、キャロライン様のカリスマ性が欲しいと仰ってたんですか?」
「そう。聖女って言うのはただの役職みたいなものだよ。誰がなったって別に構いやしない。ストーリーから逸れなければ、軌道修正も働かないはずなんだ」
軌道修正がいつ働くのか、アリスの手記とキャロラインの記憶を頼りに調べていくと、やはりアリスかキャロラインが自主的に意思を持って動いた時だった。決められたストーリーから大きく外れれば、アリスやキャロラインの思惑とは違う軌道修正が働く。だからアリスの言う見た事の無いエンディングは全て嫌なエンディングだった。
「しかしノア、民衆をアリスが扇動するのは難しくないか? それこそ、誰が聞いてくれるんだ?」
無名の、しかも男爵家の娘がいくらキャロラインの話を聞けと言った所で、必ず反対意見が出るはずだ。
ルイスの質問にノアは小さく首を振った。
「それが出来るんだよ、ルイス。アリスにはそれが出来てしまう」
「どういう事? アリスちゃんに出来る事って……もしかして、特殊な魅了?」
「そう。アリスの特殊な魅了。そっか、まだ皆に話してなかったっけ。アリスの魅了は牛にも効くんだ。しかも小屋に居る何十頭もの牛にいっぺんに、一瞬でかける事が出来る」
ノアの言葉にまた皆が黙り込んだ。アリスだけはキョトンとしていたが、これがどれほど凄い魔法なのかをアリスは知らなさすぎる。
「特殊な魅了……ですか。確かに特殊ですね。牛でそのレベルなら、広場に集まった人間にかけるなんて他愛もない事です。だからノアはこんなにも早くアリスさんを学園に連れてきたんですね? 間違いを起こさないように」
「うん。暴走したら怖い魔法だからね。実際に暴走したんじゃないのかな? 十四回目のエンドの時とか」
「……」
アランは黙った。沈黙は肯定だ。
あの時、ルイスの婚約者の座に相応しいのはどちらかという事で、世間はアリス派とキャロライン派の二強だった。どうしてあんな事になってしまったのか、普通ならアリスとキャロラインを比べればどちらに軍配が上がるかなんて考えなくても分かる。それなのにアリス派は増えるばかりだった。それに怯えたキャロラインがカインと共謀してアリスにありもしない罪を押し付けて処刑場へと送り込んだのだ。
「……あの時の事は、私もよく覚えてるわ……今でもたまに夢に見るぐらいよ。でも、未だに分からないの……何故、あの時私はあそこまでしてしまったのかが……」
目を伏せたキャロラインの手を、アリスがそっと握りしめた。ハッとしてアリスを見ると、アリスは無邪気に歯を見せて笑っている。とてもバカっぽい。
でも、その顔を見てキャロラインの落ち込みそうになった気分が浮上した。
「多分アリスの怖い、という心理に引っ張られたんじゃないかな。キャロラインの話を聞く限りアリスの魔法が暴走すると、どうやら想像以上に植え付けられた思念が増幅するみたいだ」
「ねえ兄さま、私の魔法、もしかして使ったら駄目なやつ?」
こんなキャロラインを見てアリスは急に自分の力が怖くなった。ノアの腕に縋りつくように涙を浮かべたアリスの頭をノアは優しく撫でる。
「駄目じゃないよ。牛たちがそれを証明してくれたでしょ? それに、今回は僕が居る。力の暴走なんて絶対にさせないよ。大丈夫」
「うん……」
心から信頼するノアにそう言ってもらえてちょっとだけ浮上しそうになった所に、
「お嬢様、最悪お嬢様が暴走しそうになったら遠慮なく殴って気絶させるので大丈夫ですよ」
キリの真正面からの攻撃にとうとうアリスはノアの膝に倒れ込んだ。
「兄さま、キリならやるわ。絶対に私が暴走しないように見張っててね。約束だからね!」
「う、うん。ちゃんと見張ってるよ、大丈夫。キリ、流石に意識がある時に突然殴るのはちょっと……」
「いいえ。ノア様もご存じの通り、お嬢様を正気に戻すには殴って失神させるか、大きな肉塊を目の前に置くかしかありません。長年の付き合いの中で私が学習した事です」
「まさかとは思うけど、僕の居ない間に実践してないよね?」
「失神させる事は出来ませんでしたが、肉塊は何度か」
「あ、そう……アリス、ちゃんと良い子にしてなきゃダメってあれほど言ったのに」
「ごめんなさい、兄さま。でもね、どうしても松茸が食べたかったの」
「キノコの為に悪さしたの? もう! めっ!」
アリスのおでこを軽くパチンと指で弾いた所で、向かいの席からゴホンと咳払いが聞こえてきた。
「悪いが、そういうのは部屋でやってくれるか?」
「ほんっとにノアはアリスちゃんの事になると残念だねぇ」
「もう! 話を戻すわよ。ねえ、聖女は私じゃなくちゃ駄目なの? アリスの魔法を使ったらアリス自身が聖女になるなんて容易いと思うんだけど……」
牛にもかかる特殊な魅了があるのであれば、アリスがストーリー通りに聖女をやった方がいいのでは。そう思ったのは、どうやらキャロラインだけでは無かったようで、カインもルイスも頷いている。
ノアはキャロラインの言葉に飲もうと持ち上げたカップを置いてゆっくりと首を振る。
「アリスが聖女になれない理由がある訳じゃなくて、キャロラインが聖女をやった方が、色々都合がいいんだよ」
「都合がいい? どういう事です?」
「だってね、考えてもみてよ。ルイス、この国では聖女が現れたらどうする?」
「保護だな。場合によっては、俺との結婚も……なるほど」
「ね? それだけじゃないよ。もしも聖女が偽物だったとバレた場合、公爵家令嬢のキャロラインはさほどの被害は被らないと思うんだ。実際に成果をいくつか上げていれば、支援者は必ず出て来る。でもね、アリスだったら? どんなにそれまでにいくつも実績を積み重ねたとしても、引きずりおろされる。最悪、また処刑エンドだよ」
「確かにね。公爵家と男爵家では力の差は歴然だもんね。それならキャロラインが聖女になれば、一石三鳥な訳だ」
「三鳥もあるか?」
ルイスが不思議そうに尋ねた。それにカインは大きく頷き、指折りメリットを上げる。
「あるね。既にルイスとの婚約者だからこれを機に反ルイス派を一蹴出来る、聖女が居るという事で他国に牽制が出来る、おまけにルイスも誰にも文句言わせずキャロラインと結婚出来る」
「カ、カイン! おまっ!」
顔を真っ赤にして慌てるルイスに頬を染めるキャロライン。この二人は誰が見ても両想いだ。
「それにルイス、よく聞いてね? このゲーム恋愛ゲームなんだって。だからね、軌道修正が入ったら、キャロラインとは仲違いする可能性がすごく高いんだよ。はっきり言って、今カインが言った三つのうち、アリスが聖女になったら一番危ないのは間違いなく三つ目だよ」
「そうですね。反ルイス派はアリスさんが聖女になった途端にルイスの結婚にアリスさんを推してくると思います。聖女とは言え男爵家の娘となれば、後見人になって裏からいくらでも操る事が出来るのですから」
実際、色んなループで見て来た事だ。アリスは聖女にはならなかったが、ルイスの婚約者候補としてアリス派が一定数居たのは、そういう思惑のあった者達だった。
ノアとアランの指摘に青ざめたルイスは、ガタンと立ち上がったかと思うと、ツカツカとキャロラインの元へ行きガシっとその手を両手で握りしめた。
「ル、ルイス様?」
「キャロ、俺も全力を尽くす。だからどうか、どうか頼む! 聖女になってくれ!」
「……っ」
あまりにも突然の事に頬を赤らめたキャロラインの隣から、アリスがニヤニヤしながら顔を出した。
「ひゅーひゅー! プロポーズですか? ルイス様」
完全におじさんのようなからかい方をしたアリスは、後ろからキリに口を塞がれた。そんなアリスの耳元でノアがこんな事を囁いてくる。
「アリス、これでルイスルートは回避できるよ」
「!」
そうだ。この二人が上手くいってくれれば、もう二度とルイスとのフラグは立たないはずだ。
「キャロライン様、そういう訳です。ここに居る誰にとっても、キャロライン様が聖女をやるのが一番理にかなっているんです!」
ここぞとばかりに尤もらしい事を言ったアリスは、フンと胸を張った。完全に自分の保身の為にキャロラインを売ったアリスである。
「……そうね。それが一番いいのかもしれないわね……」
何だか素直に認めるのは癪だが、確かにカインやノアやアランの言う通りだ。キャロラインが聖女をやれば全てが丸く収まる。もちろん、キャロラインにとってもルイスとの結婚を約束されるのだからメリットがある。何なら一番大きいメリットかもしれない。