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400回記念SS 『闇を暴く名探偵誕生!』(後編)

400回記念SS 『闇を暴く名探偵誕生!』(後編)





 そして3日後。Fmすたーらいぶから『面接のお知らせ』が届いた。どうやら書類選考はクリアしたみたいだ。


 面接の日、あたしはすごく緊張していた。もちろんこの企業に応募したのはあたしの意思だし、どうしても受かりたい気持ちが今は大きくなっている……だから心臓はバクバクだった。


 指定された場所に向かうとすでに数名の女の子たちが座っていた。あたしも慌ててその人たちの隣に座った。そして1人ずつ呼ばれ中に入っていく。


 あたしはもうすでにかなり緊張していて話すこともままならない状態だった。勝手にゲーム配信者とゲーム実況者の期待を背負っていると勘違いしていた


「じゃあ次のかた……日咲七海さんどうぞお入りください」


「はっはい!」


 正直、面接なんてアルバイトをやった時くらいしか経験はないし。何を聞かれるかとかも全く想像がつかない。あたしは恐る恐るその部屋に入った。


 中には3名の面接官がいて、あたしが中に入るとすぐに真ん中に座っていた女性があたしに話しかけてきた。


「どうぞ?楽にして?」


「え?あっはい……」


 普通こういう面接ってパイプ椅子とかじゃないの?なぜかソファーなんだけど……そんな状況に驚いていると先程の女性が話す。


「私はこの株式会社Fmすたーらいぶ代表取締役の星乃よ。よろしく」


「え?社長!……さんですか?」


「ええ。見えないかしら?」


「見えないというより……分かりませんでした。あ。すいません」


 社長さんということに驚きすぎて、つい思ったことを言ってしまった。でも星乃社長は優しく笑いながらあたしに言った。


「分からない……そうね。あなたと私は初対面だから。それに私も会社を出て外に行けばただのおばさんよ」


「はぁ……そうですね」


「Vtuberはそういう仕事よ。演者。設定があってそれを演じる。あなたじゃなくていい、あなたを知らなくてもいい。配信に決まりはない。あなたの好きなものを好きにみんなにも知ってもらえる。つまり配信中はあなたは理想の人物になれるの。素敵じゃない?」


 あたしは、その星乃社長の言葉にすごく納得してしまった。そうか……自分も演者になる。星乃社長の話はとても分かりやすくて、あたしはすぐにその世界に引き込まれていった。


「というものにあなたは応募しているわ?改めて聞くけど、面接をしてもいいかしら?」


「はい。お願いします」


 その時はもう不思議と緊張はしていなかった。星乃社長はあたしのことをすごく真っ直ぐな瞳で見ながら質問する。それに対してあたしの気持ちをそのまま答えられたと思う。



 そして星乃社長に最後に聞かれた質問に心を掴まれた気がしたんだ……



「それじゃ最後……あなたにとっての一等星って何かしら?さっき言っていたゲーム?そのゲームをやり込めることかしら?」


 ゲーム……あたしは迷った。でもすぐにあたしの心の声に従った。なぜならそれがあたしがこの企業に応募する本当の目的なのだから……。


 そう……あの時からあたしの心は決まっていたんだ。自分の好きなことをみんなにも知ってほしい……でも今のあたしじゃ出来ない。でもこの『青嶋ポアロ』なら……


 あたしは答えた……いや叫んでしまった。周りなんて気にもしないで、あたしの想いを素直にぶつけて言った。


「いえ。それは誰にでも出来ます。あたしの一等星は『青嶋ポアロ』を演じてあたしの好きなゲームをみんなに知ってもらって一緒に楽しむこと。『青嶋ポアロ』を演じれるのはあたしだけです!それは誰にも負けないと思います!」


「……それがあなたの一等星なのね?」


「あと、あたしはあたしのままでいます。演じるのは苦手ですから。このアバターを借ります。あたしも『青嶋ポアロ』もあたしです!」


 あたしの答えを聞いた星乃社長は満面の笑みであたしを見ていた。そしてそのまま面接は終わった。





 結果発表の日……なかなか電話がこないので、あたしは正直ダメだろうなと思っていた。でもその日の夕方に星乃社長から電話がかかってきた。


「もしもし!」


 《あら?どうしたのそんなに焦ってw》


「え?いや……その……」


 《……『青嶋ポアロ』を演じるのは誰にも負けないんじゃなかったのかしら?》


 と、星乃社長にクスクス笑いながら言われた。本当にこの人社長なの?でも……この人とならって思ったのも事実だけど。


 《日咲七海さん。あなたのお手伝いをさせてもらうことにしたわ。合格よ。これから一緒に頑張りましょう》


「はい!よろしくお願いします!」


 こうしてあたしはFmすたーらいぶのVtuberプロジェクトの1期生『青嶋ポアロ』としてデビューすることが決まった。






 ~そして現在~


 あたしは今、事務所の会議室で新しく出すグッズの打ち合わせを1期生のみんなとしている。


「七海ちゃん。七海ちゃん聞いてる?」


「え?あっごめん陽菜ちゃん何?」


「ちょっと七海。話し聞いてなさいよ。1期生の集合タペストリーの絵、どっちがいいの?」


「紫織さんちょっと待ってね……えっとどれだっけ……」


 いけないいけない。ふと昔のことを思い出して全然話し聞いてなかった……すると横からノートパソコンの画像を颯太が見せてくれる。


「これだよ日咲さん」


「あっありがとう颯太。えっと……こっちの『ひなリリィ』『ましポア』になってるやつがいいんじゃない?『お姉さん組』と『お子ちゃま組』だし!」


 あたしがそう言うと、陽菜ちゃんと紫織さんはお互いの顔を見合わせ、クスクスと笑う。あたしなんか変なこと言った?


「そうなんだ。七海ちゃんなら違うほうを選ぶと思ったんだけどw」


 陽菜ちゃん。『神川ひなた』いつもニコニコしててあたしの優しいお姉ちゃん。デビューしたての時にサムネの作り方を教えてもらったり、配信でも色々フォローしてくれる。あとあたしの相談を聞いてくれてプライベートでもご飯を食べたり、買い物をしたり一番してる。


「まぁ七海がいいならいいけど」


 紫織さん。『魔月リリィ』あたしが少しやりすぎると、きちんと叱ってくれるお母さん……いやお姉さん。配信で生意気に絡むけどいつも許してくれるし、頼りにしている。ちなみに1期生のリーダーは紫織さんだとあたしは勝手に思っている。


「なんでわざわざカップリングのほう選ぶんだよ……」


「え?こっちのほうが衣装が可愛いじゃん!颯太は男だから分からないんだよ」


 颯太。『姫宮ましろ』Fmすたーらいぶ1期生のエース。初めて会うまで男の子だと思わなかったけど、話してみるとやっぱり『姫宮ましろ』だなって思うことも多い。年が近いし一番仲良くなれたかも。これも勝手かもしれないけど、あたしは一番の親友だと思っている。


「じゃあそれでいこうか」


「ええ私は問題ないわ」


「オレもです」


「あたしも!」


 こうしてみんなと仲良くなれたのは4年目にして本当に最近だけど、これからもっと仲良くなれたらいいなって思ってる。それにあたしは一番年下だし、もっともっとみんなに甘えたいしさ。


「やっと終わった……ねぇ颯太。帰りにアイス奢ってよ」


「え?またかよ」


「いいじゃん!颯太あたしのこと好きでしょ?」


「好き!?いやいやオレは……」


「あはは冗談だよ。お菓子も追加ね~」


「なんでだよw」


 前に『グランメゾン・リリィ』で颯太が言ってた『運命の1期生』って言葉。本当にそうだと思う。


 だって……あたしが大好きなゲームをやってなかったら、早起きしてあの電子看板も気にならなかったと思うし。こうやって素晴らしい仲間と出会うこともなかっただろうし。だから、あたしはこの1期生の仲間たちを一生大切にしていきたい。


 そして誰かの輝く一等星になるために、あたしである『青嶋ポアロ』としてこれからも頑張っていくんだから!



 完




 あとがき


 ということで、青嶋ポアロ探偵こと日咲七海ちゃんの過去のお話を簡単ですが書かせてもらいました。


 なぜポアロ探偵かというと、七海ちゃんは配信ではVtuberになるきっかけが描かれていないので、あとは私の周りからの要望が一番多かったです。


 他の1期生は本編でも理由は出てますが

 颯太は桃姉さんを助けるため。

 紫織さんは他のVtuberを観たとき面白そうだったから。

 陽菜ちゃんは自身が描いたイラストを見た社長からスカウト。


 です。


 次に多かったのは伊集院クララこと紗希ちゃんですかね。結構『パラレルワールド雑談』のお話が好きな人が多いみたいです。やはり配信とギャップのある紗希ちゃんのいい女っぷりが出てますからね。(本編274から雑談切り抜き『コラのんGhostばすたーず!死神ホテル大捜査線!』配信後まで)良かったらまた読み返してみてください


 七海ちゃんは本編で良くはっちゃけていますが、それは色々趣味が合う人が周りにいるからなんですね。昔はそうでもない女の子。本当にVtuberが天職なのかもしれませんね。七海ちゃん本人もVtuberの仕事に誇りを持ってますからね。


 また機会があれば他のライバーさんのきっかけや他のストーリーも短編集として書けたらいいと思います。


 最後に本編もまだまだ続いていきますので良かったら応援よろしくお願いいたします

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