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167. 姫は『幸せ』なようです

167. 姫は『幸せ』なようです




 12月中旬。年末のすたライの同期ユニット曲の仮歌が届き、部屋で1人で聴いていた。今回の1期生のコンセプトは『新たな始まり』で曲名は『RE:STAR☆T』になっている。


 今年に入っての1期生の関係性、☆マークはFmすたーらいぶの星を意味している。桃姉さんに聞いたが、会議で満場一致の題名だったらしい。


 確かにこの1年で1期生の関係性は大きく変化した。それもこれもオレのせいではあるけど。結構パートわけされていて覚えるのが大変そうだな……この他にもユニットかソロがあるから頑張らないとな。そんなことを考えていると彩芽ちゃんが部屋にやってくる。


「颯太さん。あの……1期生のユニットの仮歌……聴いてもいいですか?」


「いいよ。一緒に聴こうか」


「はい……」


 彩芽ちゃんは少しだけ遠慮気味に返事をする。片方ずつイヤホンをして、曲を流しながら聴き入る。


「わぁ……すごく良いですね」


「うん。本当にね」


 なんか歌詞もエモい感じになっていて、特に最後のフレーズはグッときてしまった。曲が終わりイヤホンを外すと、すぐ横に彩芽ちゃんの顔があり、一気に身体が熱くなる。すると彩芽ちゃんも顔を赤くしながら俯く。


 いや落ち着けオレ。彩芽ちゃんとはキスだって何回かしている、何を今さら恥ずかしがることがあるんだ。深呼吸して心を落ち着かせてから、改めて彩芽ちゃんを見るが、彼女はまだ顔が赤いままだった。


「あっ彩芽ちゃん!どうだったユニット曲!」


「えっ……あっ……はい……なんかすごく感動して……歌詞が1期生の今までの想いとか、これからの願いとか込められてる気がして……本当に素敵です……本当に」


「そっか。そんな曲を歌わせてもらってオレも嬉しいよ。彩芽ちゃんは『姫宮ましろ』のファンであり、親衛隊隊長だからさ」


 そう彩芽ちゃんは同僚で後輩で……一番近くにいてくれる『姫宮ましろ』のファンなんだ。そんな彩芽ちゃんに『本当に素敵』と言ってもらえて、本当に嬉しかった。ただそれだけのことなのに、なぜか心が温かくなっていく。


「3期生のユニット曲も……すごく……いいですよ?」


「確か曲名は『5-FIVE-COLOR CREATION』だったっけ?」


「はい。5人それぞれの色が混ざりあって……1つの色になって輝くというコンセプトなんです……とても可愛い曲です」


「3期生らしいな。彩芽ちゃんたちがすたライで歌うのが本当に楽しみだ」


 それからしばらくの間、彩芽ちゃんと色々な話をする。初めはまったく会話がなかったオレと彩芽ちゃん。でも今は、こうやってVtuberのお仕事を通して、少しずつだけど仲良くなって……そして彼女にもなった。


 それも『姫宮ましろ』のおかげなんだよな……


「あの……颯太さん。お腹空きませんか?コンビニ……行きません?」


「コンビニ?コンビニでいいの?」


「Fmすたーらいぶコラボの……中華まん食べたくて」


「あー案件の。ひなたさんのイラストが焼印されてるやつか。確かに食べたいかも」


 そして夜道を2人で近くのコンビニまで歩く。季節は冬。12月ともなると、吐息も白く、寒さがより一層増してくる。


「寒いな……彩芽ちゃん大丈夫?」


「大丈夫……じゃないです……」


「え?」


 そう言いながら彩芽ちゃんはオレの腕をぎゅっと抱きしめてくる。そんな行動にドキドキしながらも、彼女の体温を感じて、オレも安心してしまう。そのまま腕を組んだまま2人で歩いていく。


「彩芽ちゃん。クリスマスなんだけどさ、何か欲しいものとかある?」


 ずっと気になっていたことを聞いてみる。正直、プレゼントなんて渡したことないし、そもそも女性に贈り物をしたこともない。彩芽ちゃんはいつもオレに元気を与えてくれて、笑顔にさせてくれる。だから少しでも彩芽ちゃんに喜んでもらえるような、そんなことをしたかった。


 彩芽ちゃんは立ち止まり、オレの顔を見上げる。


「私は……颯太さんと一緒にケーキが食べたいです」


「え?ケーキはケーキだよ。他に欲しいものとかないの?」


「……もう沢山もらってますから……これからも、ずっと一緒に居てください」


 そう微笑みながら彩芽ちゃんはまた歩き出す。……一緒に居てください。か。オレはまた彩芽ちゃんに恋をしてしまったようだ。本当に幸せだな。

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