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160. 姫は『一歩ずつ』踏み出すようです

160. 姫は『一歩ずつ』踏み出すようです




 オレは1期生のみんなと共に、4期生とコラボする相手を選ぶために会議をしている。資料を見た限りだと、それぞれに個性があって誰とでも配信企画は考えられて、上手くやっていけそうな気はする。問題は誰とコラボするかだ。そんなこと考えていると隣に座っている日咲さんが声をあげる。


「はいはい!あたしはゲーム配信やりたい!」


「それなら七海ちゃんは園崎ラビさんがいいんじゃない?アニメとかゲーム好きのガチオタなんでしょ?」


「陽菜。あなたどうする?夢花かなえとならやっぱり歌枠になるし、颯太に歌枠は無理だから私か陽菜が担当したほうがいいと思うけど」


「う~ん……歌かぁ……」


 色々気を使ってもらって申し訳なく感じるが、それと同時にオレのことを考えてくれていることが伝わってきて嬉しかった。


「颯太君はどうしたい?」


「オレの意見は、八神えるるとのコラボを月城さんがやるのが一番かなって思ってるよ。彼女は色々不得意そうだし優しくフォロー出来そうなのは月城さんかなって。そうすると立花さんが夢花かなえ、日咲さんが園崎ラビ、オレが皇ジャンヌになるのが妥当だと思う」


 オレがそう言うと月城さんは考えることなく、すぐにこう言った。


「じゃあそれでいいんじゃない?」


「え?本当にいいんですか?」


「全然いいよ。というより、誰が誰でも問題ないような気もするしさ。紫織ちゃんと七海ちゃんどうかな?」


「私は構わないわよ」


「あたしも大丈夫」


 やはり1期生と言うべきか……。その後、細かい調整やら配信予定やらを打ち合わせして、特に問題もなくスムーズに話は進んだ。


 そしてそのまま話の流れで1期生で少し遅めの昼食を取ることになり、近くのファミレスに向かうことになった。


「颯太。何頼む?」


「オレはドリンクバーだけで良いよ」


「ダメだよ。ちゃんとしたご飯食べないと!ほら!このカルボナーラ美味しいって評判なんだから!これにしよ」


「なんで日咲さんが決めるんだよ……。まあいいか」


 オレと日咲さんがメニューを見ながら話していると、月城さんの視線を感じる。


「ん?……なに?ひなちゃん?」


「今思ったんだけど、颯太君と七海ちゃんっていつも隣だなって思ってさ?」


「たまたまですよ。月城さん」


 いきなり変なことを言わないでほしい。違うんだ彩芽ちゃん。日咲さんは歳が近いし、年下だからあまり緊張しないだけなんだ……決して深い意味はないんだ。とオレは心の中で言い訳する。


「それにしても、今年も残り1ヶ月よね。そう言えば年末の3Dライブのスケジュールどうなってるのかしら?」


「え?『Fmすたーカウントダウンライブ』のこと?まだ連絡来てないよ。今年は4期生もいるから去年より大変かもね」


「そういえば、もうそんな時期なんだね。あれ颯太は去年どうしたんだっけ?」


「オレ?オレはオープニングで『Shooting Star』を歌わせてもらったよ」


 あの時はまだ誰にも正体を明かしていなかったからな。ユニットを組めるわけもなく、1人で歌ったんだ。もちろん収録も1人だし。懐かしいな。


「あ。そうだ!各期生の初オリジナルユニット曲の披露があるって聞いた?」


「聞いてるよ。どんな曲になるんだろうね?楽しみだよね」


「え……?」


「あら?マネージャーから聞いてないの颯太?12月後半に収録があるって聞いてるけど?」


「初耳です……」


 マジか。全然知らなかったぞ。ということは……来週あたりに仮歌が出来てそこからレコーディングとダンスの振り付けの練習をするのか。結構ハードだな……ということは彩芽ちゃんも同じだよな……。


 そのあと食事を済ませて、少し雑談をして解散となる。オレは電車に乗り、家に帰りながら考えてる。


「4期生コラボ、クリスマスには企画配信、年末のすたライ……忙しい1ヶ月間になりそうだな。翌年の新年配信もあるか……でも頑張らないとな」


 去年は1人。でも今年は違う。1期生もいるし、彩芽ちゃんもいる。そして何より自分がVtuber『姫宮ましろ』として配信できるのが何よりも嬉しい。


 今まで自分の気持ちを押し殺して生きてきたオレにとって今年1年は始まりの大きな一歩だった。だからもっと……ゆっくりでもいいから一歩ずつ踏み出していきたいんだ。

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