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148. 姫は『手伝い』をするようです

148. 姫は『手伝い』をするようです




 そして翌日。時間は9時。朝早くオレは桃姉さんと共に事務所にいた。どうやら昨日話していた4期生のマネージャーの担当が決まったようで、その顔合わせらしい。御披露目配信まで10日を切っているため、あまりのんびりとはしてられないし、ほとんど付きっきりになるだろうしな。


 桃姉さんと一緒に会議室に入ると、すでにそこには1人の女性が待っていた。歳は20代後半くらいか?オレよりは年上で、外見は優しそうな感じだ。


「おはようございます。初めましてFmすたーらいぶ4期生の『園崎ラビ』としてデビューすることになりました。一ノ瀬凛花と申します。よろしくお願いいたします」


 席をたち、丁寧なお辞儀をしながら自己紹介をしてくれた。声質が柔らかく、話し方も落ち着いている。


「こちらがラビさんの担当マネージャーが退院するまでの代わりのマネージャーの神崎颯太です」


「よろしくお願いいたしますラビさん」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 それから桃姉さんも交えて4期生御披露目配信までのスケジュールや、企画内容の確認などを話し合った。やはりと言うべきか、結構なハードワークになりそうだった。打ち合わせが終わると一ノ瀬さんが話しかけてくる。


「あのマネージャーさん。早速なんですけど相談があって」


「はい。何でしょうか?」


「実は……私、山形の田舎から引っ越してきたばかりで、荷物の片付けをまだ済ませていなくて……男手がほしいんです」


 いきなり部屋スタートとかオレにはハードル高すぎなんだが……。でもFmすたーらいぶのVtuberになりたくて、田舎から上京してきたんだもんな。ここで断るわけにもいかないか。


「わかりました。手伝いに行きますよ。今日は時間ありますし、終わらせちゃいましょう!」


「ありがとうございます。助かります。マネージャーさん良い人だぁ……」


 なんか訛ってるんだが?こうしてオレは急遽、一ノ瀬さんの引越しの手伝いをすることになった。


「ここが私の家です」


「お邪魔します」


 オレは今、一ノ瀬さんの部屋に来ていた。マンションの一室らしく、一人暮らしにしてはかなり広いようだ。


 オレは段ボールを開けて中身を確認していく。これはどこに置けばいいのか、こっちのは捨ててもいいものなのかなどを一ノ瀬さんに聞きながら作業を進めていく。


「マネージャーさんっておいぐつですかぁ?」


「24歳です」


「へぇ……若いですね。私は27ですから、弟みたいなもんですね」


 27か。月城さんと立花さんの間か。あまり変わらないけど。その後も他愛のない会話を続けながら、作業は進んでいき、午後2時を回ったころ何とか荷物は片付ついた。


「ありがどうございます、助かりましたぁ」


「いえ。あの……その訛りなんですけど、そのキャラで行くんですか?」


「気をつけてはいるんですけど、出ちゃって……だがらそれでいこうがなって。やっぱり変ですがね?」


 訛りは方言と同じだから素になれば出るんだろうけど……もったいないよな。ある意味『園崎ラビ』の武器だしな。


「むしろ逆ですよ。だとしたら、普段は頑張って普通にしゃべって、テンション上がった時とか、名物のプロレス芸の時にその『訛り』を出した方がいいんじゃないかと思いますよ?それは『園崎ラビ』の武器になりますから」


「そうですかぁ?勉強になります。それでいぎます」


 一ノ瀬さんはとても嬉しそうにしながら、オレのアドバイスを聞いてくれた。真面目な人なんだな……


「ところで一ノ瀬さんはどうしてFmすたーらいぶに?」


「私……昔がら、アニメや漫画、ゲームが大好ぎで。ガチヲタなんです。故郷には楽しみがなーんにもながっだので、それが唯一の楽しみでした。暇があれば自作で漫画描いだり、物語考えてRPGゲームつぐっだりもしてて」


「自作で……すごいですね」


「そうでもないですよ。それで自分の好ぎなことを仕事にしたぐて、27にもなって恥ずかしいかもしれないですけど、上京してきました」


「そんなことないです。立派な夢だと思います」


「そう言ってもらえると嬉しいです。それに……Vtuberの皆さん、すごく輝いでるじゃないですか!だから自分もあんな風にキラキラしたいなと思っで!」


 確かにVtuberたちはみんな個性的で、それぞれ魅力的な人たちばかりだ。憧れる気持ちはよくわかる。


 オレもVtuberになったときは、こんな風になれるなんて思っていなかった。ただ彩芽ちゃんと出会って、一緒に頑張っていきたいと思ったからここまでこれたんだと思う。


 だから一ノ瀬さんにもこのFmすたーらいぶで、『一等星』のVtuberとして輝いてほしいと思ったのだった。

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