目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報
141. 姫は『貴重な体験』をしたようです

141. 姫は『貴重な体験』をしたようです




 そして週末土曜日。オレは朝配信を終えて、オフコラボの準備をすることにする。今回は、玲奈ちゃんの枠で『教えてひなた先生!神絵師ひなたのサムネ作り講座』という企画をやり、オレの枠で月城さんと晩酌配信をやる予定だ。ちなみにその時間は彩芽ちゃんと玲奈ちゃんは他の3期生と共に打ち合わせをするらしい。


「こんなもんかな」


 リビングをあらかた片付けていると彩芽ちゃんがやってくる。そう言えば……また勝手に玲奈ちゃんとコラボを決めてきたんだけど怒ってるかな……


「あの彩芽ちゃん怒ってる?」


「え。……何をですか?」


「いや、勝手に玲奈ちゃんとコラボを決めてきたことだけど……」


「怒ってません。だってもう……颯太さんは……私の彼氏……ですし」


 オレが恐る恐る聞くと、彩芽ちゃんは少しだけ頬を赤らめながらそんなことを言う。その破壊力抜群の言葉に、思わず悶絶しそうになるが必死に堪える。


 腕に抱きつかれたときの玲奈ちゃんの胸の感触はオレの記憶からはなかったことにしよう。


 それからしばらくして月城さんから『駅着いたよ』と連絡が来たので迎えに行くことにする。


 駅で待っているとすぐにこちらに向かってくる女性の姿が見える。月城さんは秋の装いで身を包んでいる。上は白のシャツの上に紺色のカーディガンを着ており下はベージュのパンツを履いている。シンプルだがすごく似合っていると思った。おしゃれだよな月城さんは。


「こんにちは。わざわざすいません」


「いいっていいって。私もコラボ楽しみだったから」


 そう言って笑う月城さんの笑顔に癒されつつ、家に向かってしばらく歩いていると後ろからクラクションが鳴り、振り向くと場違いなリムジンが止まっている。


 すると運転席からスーツを着た初老の男性が現れ、リムジンからは玲奈ちゃんが出てくる


「ご機嫌よう。颯太さん。あっもしかしてひなた先輩ですか?初めまして『葉桐ソフィア』です。本名は佐伯玲奈です。お見知りおきを」


「おお……本当にリアルお嬢様じゃん。私が『神川ひなた』です。本名は月城陽菜。よろしくね」


「本名も『ひな』なんですね?陽菜さんって呼んでもいいですか?私は玲奈でいいですよ」


「玲奈ちゃんね。今日はよろしくね」


 おい。何か2人とも意気投合しているぞ。それにしてもまさかリムジンで来るとは思わなかったよ。しかも運転手付きとか……。


 そのあとは玲奈ちゃんのリムジンで家に帰る。リムジンとか一生乗れないかもしれないから貴重な体験だよな。帰り際に運転手さんに『玲奈お嬢様をよろしくお願いします』と何度もお願いされたし。


 そして家に着くと彩芽ちゃんと合流する。まぁ……彩芽ちゃんは月城さんとも会ってるし、玲奈ちゃんは同期だから問題ないだろ。


「こんにちは彩芽さん」


「こっこんにちは……」


「かのんちゃんは彩芽ちゃんって言うんだ。私は月城陽菜だよ。好きに呼んでね?」


「はい……今日はよろしく……お願いします。玲奈ちゃん……陽菜さん」


 めっちゃ緊張してるけど、大丈夫か彩芽ちゃん?そしてそのままリビングで軽く打ち合わせをして、お互いの事を話すと言う地獄のガールズトークに巻き込まれる。


「学校でも、親に内緒でFmすたーらいぶ視聴してる子いっぱいいますよ?」


「へ~推しとか聞いちゃうの?」


「周りの子はクララ先輩が好きな人多いです。お嬢様だし、本当はみんなああやって自分を解放したいんですよ。私もです。だから今日はすごい楽しみ!彩芽さん。深夜に3期生で1周年記念配信について相談しましょうね!」


「うっうん……」


 彩芽ちゃんは相変わらず玲奈ちゃんの勢いに押されっぱなしだな……


「1周年記念配信か。懐かしいよね。私たちは確かオリジナル曲を発表したんだよね颯太君?違ったっけ?」


「いやそうだよ。あの時はすたフェスがなかったからな。新衣装もそこで御披露目したんだよ。それも自分の配信でな」


「あはは。確かに。3期生は何するの?」


「3Dライブをキサラさんが企画してます。内容は、デビュー当時のインタビュー映像を見ながら語り合って、そのあと3期生のオリジナル曲を別の人が歌うシャッフルメドレーなんかいいよねって。ね?彩芽さん?」


「うっうん……」


 完全にコミュ障陰キャ女おつが出てるな彩芽ちゃん……。まぁ仕方ないか。そんなこんなで時間は過ぎていき、時間は18時55分。オフコラボ配信の準備をして待機する。


 そして19時。マイクのスイッチを入れ、初めてのメンバーでオフコラボ配信が始まった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?