139. ましのんは『始まった』ようです
そして、その夢の中のような幸せな時間はあっという間に過ぎていき時間は18時になり、日も落ち始めてきた。
「あの……颯太さん?」
「どうした?」
「Twitterにツイートしてもいいですか?」
「いいよ。じゃあ2人でツイートするか。せっかくなら……写真も載せたいよな……」
そしてしばらく歩いていると、大きな観覧車が見えてきた。オレはその方角を見ながら立ち止まると、彩芽ちゃんも同じように止まってくれた。
「彩芽ちゃん。高いところは大丈夫?」
「はい。観覧車……乗りたいです」
そう言って笑うと、オレの手を少しだけ強く握ってくれる。オレはそれに応えるように握り返すと、観覧車の方に歩き始めた。
そして観覧車に着き係員の人に案内されると、オレと彩芽ちゃんは向かい合う形で席に座る。ゆっくりと上がっていき、少しずつ街の風景が見えてくる。
「こうやって彩芽ちゃんと出掛けるのは案件の時以来だよな」
「はい……あの……あの時……颯太さんは隣の布団で寝たんですか?」
「え?あっああ……寝たよ」
急にそんなことを聞かれると恥ずかしいな。彩芽ちゃんの方を見ると、窓の外を眺めているようで、こちらからは顔が見えない。
すると彩芽ちゃんがこっちを振り向いたので、自然と目が合ってしまった。彩芽ちゃんはいつもとは違う柔らかい笑みを浮かべながら話し始めた。
その声がいつもよりも真剣で、それでいて優しい声で。それが何故か、胸の奥に響くような気がした。
「あの時酔ってしまってごめんなさい」
「いや。大丈夫だよ。配信事故にならなかったしさ」
「……私……記憶はありますから」
その言葉を聞いて心臓が高鳴るのを感じる。あの夜……頬にキスされた記憶が蘇ってくる。
「あの彩芽ちゃん……」
「颯太さん。この観覧車……告白スポットらしいですよ……?」
そして観覧車が頂上に差し掛かり、お互いに無言になる。
彩芽ちゃんの瞳が揺れる。それは不安なのか、期待をしているのか分からない。それでも……オレは彩芽ちゃんの手を握る。すると彩芽ちゃんは優しく微笑んでくれる。オレは深呼吸をして覚悟を決める。彩芽ちゃんの目を真っ直ぐ見つめて、オレは今の自分の想いを伝える。
「彩芽ちゃん。オレは君のことが好きだ。『双葉かのん』でも、親衛隊のファンだからでもなく、鈴町彩芽ちゃんが好きだ」
「私も……颯太さんのことが大好きです。私はましろん先輩も颯太さんも大好きです」
そう言ってオレの胸に寄り添う彩芽ちゃんを抱きしめた。彩芽ちゃんの身体が震えていて、泣いているのが分かる。
「やっと……伝えられました」
「うん。ごめん……遅くなって」
「これからは……恋人……同士ですね?」
「よろしくな。でも何も変わらない気もするけど……」
オレがそう言うと突然唇が塞がれてしまった。驚いて目を見開くと、彩芽ちゃんの顔が目の前にあって、そのまま彩芽ちゃんは離れていく。
その時の彩芽ちゃんの笑顔があまりにも綺麗で可愛くて、思わず見惚れてしまうほどだった。
「……変えました。変わります。もっと……一緒にいたいですから……」
「彩芽ちゃんって。本当にコミュ障陰キャ女おつなのか?すごい積極的なんだけど?」
「……親衛隊隊長ですから」
そう言って悪戯っぽく笑う彩芽ちゃんを見て、心の底から可愛いと思った。こうしてオレ達の交際は始まった。
遊園地デートを終えたオレ達は、帰りの電車に乗って最寄り駅まで戻ってきた。辺りはすっかり暗くなり、家までの道を彩芽ちゃんと一緒に歩く。まだ手は繋いだままだ。
彩芽ちゃんの歩くスピードに合わせてゆっくりと歩いていくと、しばらくして家が見えてきた。
「夕飯どうする?お寿司頼むか?」
「海老と玉子……多めにしてくださいね?」
「ああ。じゃあそうしようか」
双葉かのん@futabakanon
『今日はましろん先輩と遊園地デートしてきたよ!すごい楽しかった(^-^ゞ乗り物は観覧車しか乗らなかったけど……それでもすごく幸せでした。また行きたいな(^-^)/』
姫宮ましろ@himemiyamashiro
『かのんちゃんと遊園地に行きました(^-^ゞ本当に夢の中にいるみたいに時間が立つのが早かったなぁ……ましろも幸せでした。またデートしようね(^-^)/』
こうして『ましのん』は本当の意味で始まったのだった。