目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報
137. 姫は『相談』するようです

137. 姫は『相談』するようです




『ましポん48』が終わり約1ヶ月がたった。ついに4期生御披露目まで1ヶ月をきった。桃姉さんの話だと、4期生全員が決まったようで今はそっちのライバーとの打ち合わせの仕事が忙しいらしい。


 4期生のモデリングや自己紹介Twitter、公式プロフィールも更新され、多くの反響をもらっている。特に『夢花かなえ』は元個人勢のVtuberとして活動していたので、かなり期待されているようだ。


 オレも彩芽ちゃんも自分やましのんの配信やら案件やら多忙な日々を過ごしていたある日のこと。いつものように部屋で仕事をしていると、彩芽ちゃんがやってくる。


「あの颯太さん」


「どうした?」


「今……少しだけいいですか?」


 そう言ってオレの部屋に入って来る彩芽ちゃん。オレはパソコンの画面を閉じ、椅子を回転させ、彼女に向き合うように座る。


 彩芽ちゃんはどこか落ち着かない様子だった。何か相談したいことでもあるのだろうか?しばらく沈黙が続いたあと、彼女は意を決した表情で口を開く。


「あの!……明日って休みですよね?」


「ああ。朝配信も休みにしたから、配信準備する夜までは暇だよ」


「良かった……。あの……私も……休みです。……はい」


 そう言って顔を赤面させながら下を向いてしまう。つまり……誘ってほしいということだろうな。まぁ彩芽ちゃんと出掛ける約束をしたのに、忙しくて実現してないしな。


 こういうのは男のオレから誘うべきだろ。と思っているが、上手く言葉が出てこない。すると、彼女が不安そうな顔でこちらを見つめてくる。


「あの……ダメなら……」


「い、行こうよ。どこか行きたいところある?」


「ここ……行きたいです」


 そう言ってスマホを取り出し画面を見せてくる。その画面には最近リニューアルオープンした遊園地『ドリーム・ワンダーランド』のホームページが表示されていた。


 この遊園地はリニューアルして、新しいアトラクションが多く人気な場所で、園内の街並みもファンタジー世界を意識していたりしてカップルにも大好評だと聞いたことがある。


「遊園地か。いいね」


「はい。ずっと……颯太さんと……で……デート……するの楽しみにしてました……」


「おっおう。オレも。じゃあ決まりだな」


「楽しみです」


 そう言った彼女の笑顔はとても輝いていた。そして彩芽ちゃんが部屋を出ていったあと冷静に考える。


「デートってどうしたらいいんだ?誰かに相談するか……」


 と言っても連絡するような友達もいないし……。オレはそのままパソコンを立ち上げ『青嶋ポアロ』にチャットを送ることにする。残念だが今のオレには頼りになるのが日咲さんしかいないのだ


 ましろ:「ポアロ探偵。突然ごめん。今何してるかな?」

 ポアロ:「今は収録中。どした?」

 ましろ:「じゃあ収録終わったら少し話さない?」

 ポアロ:「いいよ(^-^ゞたぶん2時間くらいかかるけど、終わったら連絡するわ」

 ましろ:「了解。収録頑張ってね」


「……日咲さんはオレのこと知ってるのにディスコードのやり取りは『姫宮ましろ』でやらないといけないという、何とも言えない違和感があるんだよなぁ。まぁ前は何とも思わなかったけど」


 それから日咲さんの収録が終わるまでの間、仕事を進めることにした。配信外でもVtuber『姫宮ましろ』として行動しないとバレたら大変だからな。


 そして2時間後。日咲さんからディスコードの通話がかかってくる。


「お疲れ様ポアロ探偵」


 《え?あー。これディスコードか。どうしたの姫?なんかあった?》


「いや……実は明日かのんちゃんと出掛けるんだけど……」


 《おお!ついに実現したんだ!しっかりとエスコートしなよ?》


「あの……そのデートって何をしたらいいのかな?」


 《は?》


 日咲さんは一瞬固まる。それもそうだ。24にもなる大人のしかも男が、23の年下の女性にアドバイスを求めるなんて、誰が聞いてもおかしいと思うだろう。しかしオレにとっては死活問題なのだ。オレは今まで恋愛経験0だし、デートの経験もない。


 《……ちなみにどこに行くの?》


「『ドリーム・ワンダーランド』っていう最近リニューアルした遊園地」


 《遊園地?そんなのアトラクション乗って、ご飯食べて、思い出にお土産買えばいいんじゃない?》


「おっおう……メモるから待って」


 《素が出てるぞ姫w》


 いかんいかん。これはディスコードだ。オレは今『姫宮ましろ』なんだ。神崎颯太じゃない。落ち着け。


 それからオレは日咲さんに色々と教えてもらった。遊園地に着いたらアトラクションの順番を決めて、次にどこに行こうか考えておくこと。そしてお昼になったら、どのレストランに入るか決めて席を取っておき、混む前に並んでおかないと、食べるのも一苦労だということ。


 オレはその全てを紙に書き出し、忘れないように何度も読み返す。デートって……こんなに難しいのか……


 《大丈夫か姫?なんか緊張してない?》


「大丈夫。あとは?」


 《あと?……まぁベタだけど最後に観覧車に乗って夕焼けとか夜景とか見てキスとかすればいいんじゃない?》


「キス!?まだ付き合ってないけど!?」


 《中学生かwなら告白してキスしたら?》


「……いや。無理」


 《あっそ。とりあえず頑張ってね~!》


 こうして通話を切る。デートプランを考えるだけで、こんなに大変なんだな……。最後のはとりあえず置いといて、とりあえず明日は彩芽ちゃんを楽しませてあげよう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?