94. 『ましポん48』~オフパート 特別な1期生~
オープニングからFmすたーらいぶ学園企画の配信を終え、オレは風呂に入り彩芽ちゃんの通常配信を観ながら明日の準備やら、先ほどの配信の反響やらをTwitterで確認している。
そして日咲さんは0時からの配信準備を着々と進めている。配信中に食べるお菓子や飲み物を用意したり、ゲーム機を繋いだり、機材の設定を確認したりと、まぁ大変なようだ。
ちなみに配信はオレのパソコンを使うから、オレはリビングで寝ることになっている。さすがに桃姉さんの部屋で眠るのは気が引けるからな。
「ん?颯太お菓子食べる?」
「いや。もう寝るから大丈夫」
「え?寝るの?あたしと彩芽ちゃんの配信観てくれないの?」
「オレの休憩時間をなくすつもりか日咲さんは」
「睡眠と可愛い同期と後輩の配信、どっちが大事なの?」
「睡眠」
「あはは。正直者だね。配信は始まったばかりだからゆっくり休んで頑張ろうね!」
日咲さんは優しく微笑みかけ、また配信準備を始めていく。ふと、日咲さんと2人きりで自分の部屋にいることに緊張してしまう。
今までこんな状況になったことはなかったしな……。なんというか、今更だけど異性の女の子と同じ部屋で2人でいるということを意識してしまう。
それに日咲さんが真面目な顔で準備をしている姿はいつもより少しだけ大人びて見える。いや、もちろん見た目は普段通りなのだが、なんというか雰囲気が違うというか、そんな感じだ。
「ん?どした?」
「え?いや何でもない……」
「もしかしてあたしに惚れた?」
「いやそれは絶対にない」
「うわー。即答されると傷つくんですけど……あたし女の子だよ?」
「ごめん。でもそういう意味じゃなくて、ただ見慣れない表情してたから、ちょっと驚いたというか……」
「あーね。まぁそりゃあ仕事だからさ。こう見えてもあたしVtuberの仕事に誇りを持ってるんだよね」
日咲さんは少し照れくさそうな笑顔を見せる。当たり前のことなんだろうけど、オレにはそれがとても輝いて見えた。
「颯太はさ。成り行きでVtuber『姫宮ましろ』になったじゃん?今は真剣にやってると思うけど?」
「そう見えてると嬉しいけどな」
「あたしさ……最近思うんだ。もし1期生が最初から仲良かったら、今の関係みたいに上手くいってないんじゃないかなって。あの頃は『数字』がすべてみたいなところもあったし、誰かが伸びれば他のみんなが切られるかもしれない。だからライバル同士って言うのかな?もっとギスギスしてたと思う」
確かに気心が知れていたら、あの時の状況なら他の人の言葉なんて聞かないと思うし、仲がいいからこそのプレッシャーもあっただろう。ここまでの関係性は作れていなかったかもしれない。
「まぁこれはあくまで想像の話なんだけどね?」
「いや。きっとそうだと思う。オレも真剣にやっていたら、それこそ辞めてたかもしれないしな。だってリリィさんはモチベーションが高くて色々挑戦して一番最初にチャンネル登録者を増やしてVtuberというものを世の中に広めてくれるきっかけを作ってくれた。ひなたさんは元イラストレーターだから絵が上手いという武器があって、日咲さんはゲームが好きで長時間配信をする。でもオレには何もなかったからさ」
「それが今の雑談配信に繋がってるんだもんね?」
「そうだな。1期生は得意なことや好きなことをやってここまで来てるんだと思うんだよ。その中で無意識にお互いを模索しながら自分の得意なものを見つけた。それが今の形なんだと思う。」
1期生はそれぞれ個性があり、得意分野もある。その得意分野で勝負することで人気が出てきているのだと思っている。だからFmすたーらいぶの1期生は特別なんだ。
「あ。なんかこの話、明日のリリィママのオフコラボ配信ですれば良かったね?」
「リスナーには恥ずかしくて言いたくないんだが……」
「でも話すのは『姫宮ましろ』だからさ?」
「今は『姫宮ましろ』もオレだよ。本当にそう思っている」
「……そうだね。それがあたしにも良く分かるよ」
そう言って笑顔をくれる日咲さん。それを見てオレはVtuber『姫宮ましろ』として頑張れていることを誇りに思ったのだった。